第10話 交流
交流戦を終えた翌日。マリクたち外部生徒たちは、交流戦の後の交流会に参加していた。ここでは、今回の交流戦に参加した生徒だけでなく、希望すれば狩人学校の生徒たちも参加することができる。
ビュッフェ形式での食事会となるため、普段食べることのない食事に多くの生徒は浮かれていた。
また、今回の交流戦の観戦をしていた貴族なども参加しているらしく、士官後の伝手をここで得ることも目的となるらしい。
俺達三人は、マリクを囲んで果実水の入った杯を掲げた。
「「「交流戦、お疲れ様(でした)」」」
「ああ、応援有難う。自信はあったつもりだが、悔しい結果になってしまった」
「やはり、距離がある位置からの開始だと狩人の方が有利ですからね。仕方ないですよ」
「マリクもすげー強かったぜ!」
戦士としては、交流戦のような囲まれた範囲での戦いは負けられないのだろう。
リーヴィ先輩のような、戦士系に相性の良い特異な職能を持つ狩人の存在が今回の敗因となった。
「落ち込んでいてもしょうがないな。今日はしっかり楽しむことにしよう」
マリクはそう言って、近くの料理を手に取り口に運ぶ。俺も普段よりも豪華な食事に少し興奮している。ギドも先ほどから気になる料理には躊躇いなく手を伸ばしている。
しばらく4人で料理片手に雑談していると、燕尾服を着た老年の男性が声をかけてくる。
「マリク・ランバート殿ですね」
「はい、そうですが貴殿は?」
「私、――と申します。――家の執事長をしております。此度の交流戦を観た主人が是非マリク殿と話をしたいと言伝を受け取って参りました。如何でしょうか?」
マリクはしばらく考えたのち、
「わかりました。参りましょう、どちらに向かえば?」
「私がご案内いたします」
そう言って老年の執事は背を向けて歩き出した。
キリッとした顔を崩したマリクは申し訳無さそうに眉尻を下げて、
「折角集まってくれたのにすまない。誘いがあったので応じることにする」
「いや、断ったら悪いからね。行っておいで」
「気にしないでください。こちらもこちらで楽しむので、」
「モグモグ(コクコク)」
ミハイルの後押しを背に彼は去っていった。
どうやら勧誘をした家は中々大きいところらしいので、中小貴族としてはこのような勧誘を無下に断ってしまうと後が怖いらしい。
「――ところで」
「ん?」
「交流戦の時にリーヴィ先輩が使用していた職能って何ですか?」
交流戦後から気にはなっていた。ギドも気になる様子でジッとミハイルを見ている。狩人が覚えることのできる職能は一通り知っているがあの様な効果のある物は聞いたことが無い。この様子だとギドもおそらく知らない。
「僕に聞いたということは薄々分かっているかもだけど、あの技能は彼の家に伝わる技能だね」
「つまり、教えられた物以外にも職能があるということか?」
「というよりも、職能自体が家伝のものを元にして作られたという方が正しいね。ルートは感覚で分かるだろうけど、気力の扱いというのは結構自由度が高いものなんだ。だから昔はそれぞれ家伝の技能を持った狩人がたくさんいたんだ。そしてこの技能は自分の子供だけに伝えられ秘匿されてきた」
「それならばなぜ現在、職能が俺たちに教えられているんですか?」
「魔物が発生したからだよ。最初の方は狩人達も渋って公開しなかったけど、追い詰めれられてからはそうも言ってられなくなった。そこで、狩人達の代表が話し合ってその一部を公開することとなった。公開されたこれらの技能を使い易く改変したのが職能」
「この動きは魔術師や戦士達にも同様に起こったんだよ。だから現在、兵士たちが
選択することのできる職業は戦士、狩人、魔術師の三つが基本というわけ」
図らずもこの国の歴史の一部を学ぶこととなった。俺たちは普段兵士としての動きだとか、魔物の生態と言った戦闘に関することしか習わないので少し新鮮だった。
「だから、職能と
「それなら俺が固有の技能を編み出すこともあるってことだよな!」
「そう。ついでに言うと、大体の貴族は家伝の技能を持っているよ」
固有の技能を持っていれば、戦場で活躍できる。
そうなれば貴族としての地位をその功績によって得てもおかしくはない。
親がその様な技能を持っていたとしたら子供にそれを教えるだろう。
そうやって固有技能は洗練されていき家伝となるのだろう。
ふと、気になった。
「ミハイルの家にも家伝の技能が存在するのですか?」
「もちろんあるよ」
ミハイルはニヤリと口角を上げて、
「いつか見せてあげるよ」
「全部」
――――――――――
やがて交流会が終わりに近づくと、参加者の中でも一際豪華な服に身を包んだ人物が壇上に進み出る。
生徒達も雰囲気の変化を察知してか会場が静かになったところで、彼が喋りだす。
「此度の交流戦、戦士、狩人、魔術師共に素晴らしい戦いであった。大儀である。この精強な兵士達は国民、ひいては我が国の――」
何やら格式ばった言葉遣いだが、おそらく今回の交流戦の労いだろう。
「なあ、あのおっさん誰?」
「いや、俺も知らないです。多分偉い人です」
二人して田舎の出なので彼の情報は『偉そうなおっさん』のみである。
その様子を見てミハイルは呆れた様子で、
「二人とも、自分の国の王様位覚えておきなよ。」
「いや、正直自分の国が王国であることも最近知ったもので」
「俺も」
「はあ、全く。いいかい、あそこに居られるのはライプニッツ・シルジヴェルト様だよ」
「つまりこの国はシルジヴェルト王国ということですか?」
「えっ!そこも知らなかったんだ」
「俺は知ってたぜ!」
森人は引きこもりだから…。
本物の7歳児に劣る知識量であることを実感していると、ふと会場の端に目が行く。
成人間近と言った感じの三人組である。狩人にしてはガタイがいいが交流会に参加できるのは交流戦参加者か狩人のみである。
彼らは戦士の中にも魔術師の中にも居なかったので、おそらく狩人である。
「我が国は魔物供との戦線に面しているにも関わらず。他国よりも余裕を持って対処することができる。これは、戦線開始直後の混乱が――」
奇妙なのはもう一点。狩人であるはずなのに帯剣しているのだ。
会場には貴族がいるためその護衛も存在しているため、帯剣していることそのものはおかしくはないのだが、その目線に違和感があった。
護衛であるならば護衛対象の貴族の周りに視線がいかなければおかしいのだ。
「しかし、それらが逆に気に喰わんのか戦線に面していない国々からは要らぬ横槍を受けることが多い。例えば、」
しかし彼らは護衛対象がいる様に見えない。
護衛ではない。にもかかわらず帯剣している。狩人。
この三点が俺の中で引っ掛かった。
こうしている間にも三人組が王様の元に近づいて行っている。
俺は三人をどうにかしようと考えたが、もちろん会場に弓を持ってくることができるはずも無い。
やがて十分王様に近づいたところで、素早く腰の剣を抜き飛び出す。三人は既に気を充填していた。
その気量は交流戦に出てもおかしくは無いレベルであり、技術も狩人とは思ぬほどに卓越していた。
「例えば、この様な」
しかし、王様の元に辿り着く前に三人ともがその場に崩れ落ちた。
見ればその足元、というか足が膝から下で切断されており、彼らの後ろで足だけが残っていた。
襲撃者は驚きの表情を浮かべていたが、それでも一矢報いようとしたのか腰に手を伸ばし短剣を抜き取ると手首のスナップで投げようとする。
しかし、短剣が飛び出す瞬間に手首ごとゴトリと落ちた。
王様は先ほどギドが言っていた『偉そうなおっさん』とは思えないほどに冷たい視線を襲撃者に向けると、そのまま正面に直り、
「この様な間者を送ってくることがしばしばある。が、この国はその程度では落ちん
。なぜならば
既にその表情は毅然とした国の王の貌であり、その場は感激した生徒と貴族たちの拍手に包まれた。
王様は降段するとその場にいた護衛の兵士の一人に声をかけた。
「連れて行け」
「はっ」
その様子を見ていた俺は呆然としていた。貴族が技能を持っているなら王様が持ってない方がおかしいに決まっているじゃ無いかと、当たり前のことに今更気づいた。
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