第6話 剣魔

 待ちに待った?、交流戦の日がやって来た。街の人たちは久しぶりの交流戦に活気付いている。やはり狩人の街とは言え街から出ない限り戦闘は縁遠い物となるのだろう。


 交流戦の会場は室内の練兵場を使用している。


 狩人学校の練兵場は障害物となる塔というか円柱状の足場が幾つか地面から生えていて、障害物の無い闘技場の様なものと比べると、後衛職の不利が小さい。


 練兵場の端の方にはに教会から派遣された法術師が待機しており死んでさえなければ復活出来る準備が整っていた。


 俺は観客席の中で比較的前の方の席をギドと2人で占有していた。ミハイルはじゃんけんで負けたので出店で食事を買って来てもらっている。


「なぁ、ルート。何処が1番強いと思う?」


「正直なところ、こういう形式だと戦士学校が有利でしょう。実際の戦闘と違って、20メートルほどの近距離から、相手の姿を認識した状態で始まるんですから、狩人の強みはほぼ活かせないと思います」


 交流戦の形式は5対5のチーム戦。狩人、戦士、魔術師の3チームで総当たり戦を行い勝敗を決める。

 ルールは年度によって異なるが今回は比較的オーソドックスなものだ。


「かもな。だけど、狩人だって近接強え先輩は居るだろうし頑張ればなんとかなったりしねぇかな」


「寧ろ弓に振り切るというのもアリかもしれないですよ」


「いや、このルールだと厳しいんじゃね」


「いやいや狩人だって接近戦が得意な相手への対策は出来るよ」


 ちょうど揚げ物を買って戻ってきたミハイルが会話に入ってくる。


「僕らが戦うことになる魔物や魔族だって、近接での戦闘が得意なものも多いし、いつも前衛がいる状態で戦うことが出来るとは限らないからね。とはいえ今回、狩人は逃げが基本になるだろうけどね」



 練兵場の中心には既に交流戦に出場する生徒たちが並んでいた。狩人チームの中には以前見かけたことのある緑髪の先輩の姿が見えた。腕を組んで他のチームの実力を推し量るかの如く視線を飛ばしていた。


 多分13歳位の筈だけど前も思った通り狩人系の家の出身なのだろうか。

 もちろん戦士チームにはマリクの姿があった。


 クジによって試合の順番が決まる。

 1回戦は魔術師と戦士、

 2回戦は狩人と魔術師、

 3回戦は狩人と戦士だった。

 怪我の治療や会場の整備のために3日かけて3つの試合を執り行う。


 早速1回戦目が始まるために狩人チームは奥へ下がっていった。残ったのは魔術師5人と戦士5人。


 そのまま試合場の端と端に移動する。試合開始が近付くにつれて会場の熱気は高まっていく。

 1人の審判役の教官が両チームの準備を確認すると手を振りかぶった。


「第一試合、開始っ!!」


 その瞬間戦士チームが一気に走り出す。戦士は基本的に遠距離での攻撃手段を持たない職なので、この勝負は戦士が魔術師たちの元へ辿り着くかどうかが鍵となっている。


 それを防ぐべく魔術師も隊列を組んでいる。

 魔術師の先頭に居たのは以前森で戦った赤髪の貴族。

 手元には既に術式が投写されている。


「いけっ、ウィンドカッター!」


 以前見た風の刃の魔術だ。正面から切り込もうとしてきた戦士たちは、これを受けざるを得ない。

 先頭に居た盾使いがタワーシールドを構える。盾使いの気が一気に巡りタワーシールドを覆った。


 キリキリと金属同士を擦り合わせる様な高音が響くが盾使いはびくともしていない。ウィンドカッターの衝撃がそこまででもないのか、それとも盾使いの技量なのか、どちらにしろ盾使いは風刃を凌いだ。


 盾使いは盾を構えたまま真っ直ぐ走り出し後ろの4人は左右に飛び出す。


「ウィンドボムっ」


 盾使いの足元で空気が爆発した様に膨張する。あの赤髪はは見た目の割には風属性が得意らしい。

 そのまま斜め後ろに吹き飛んだ盾使いはダウン。


 その間に右側と左側でそれぞれ2対2の攻防が繰り広げられていた。


 左側では槍使いを先頭として後ろから斧使いが攻め込んできていた。


「フレイムピラー!」


「ロックブラスト!」


 槍使いは炎の渦を避け切れず退場。斧使いへ放たれた岩弾は斧によって叩き切られ無効化される。

 攻めようと走り出すが土魔術師がその前に土壁を展開し邪魔をする。


 その間に火魔術師が術式を投写。今まで見たものの中では最も大きいものでその分時間を必要としたのだろう。


 土魔術師は足止め、火魔術師は止めと言った様に役割分担をすることによって効果的に火力のある魔術を展開することに成功した。


 術式から飛び出したのは掌ほどの小さな火球だった。それがボールを放り投げる程度の速度で飛び出した。


「エクスプロード」


 一瞬受け止めようとした斧使いだったが、その危険性に気付いたのか後ろへ飛び退く。それと同時に地面へ接触した火球は大爆発を起こした。直径5メートルほどに火球が膨らみ熱線と衝撃波をばら撒く。


 斧使いは熱と爆風から逃れ切れず重傷を負い退場した。


 エクスプロードの威力は凄まじく、観戦している俺たちまで放射熱を肌で感じた。火魔術師だけあって威力のある魔術が使える様だ。


 ここまで魔術師側が優勢だったが、遂に右側の戦士たちが魔術師の元へ到達した。


「ろ、ロックブラスト」


「アイスウォール!」


 何度も足を止めさせるべく魔術を唱えるが特徴的な剣、エクスキューショナーズソードと言われる形、を持った長身の男が魔術を切り伏せる。


 その刃には赤い波紋が揺蕩っているのが見えた。

 それは間違いなく気力の産物であり、剣の鋭さを向上させるキーンエッジと似た物だと思われる。


 その場違いな程の鋭利さで岩や氷を割いて魔術師たちを戦士の間合いへと閉じ込めるに至った。


 長身の剣士の後ろにはマリクの姿があった。

 その瞬間マリクの足に筋力強化の気が集中する。

 そして彼は飛び出すと目にも見えない速度で2人の魔術師の目の前に立ち塞がった。


 剣を振りかぶるのと同時に魔術師はシールドを展開する。

 しかしマリクが瞬時に足の気を腕に移すと剣が一気に加速しシールドごと2人の腕を切り飛ばした。


 残念ながらマリクの快進撃はそこで止められる。


「ゲイルバースト!」


 その瞬間赤髪の貴族の風魔術が炸裂する。

 小さな風刃を無数に含んだ強風がマリクの体を吹き飛ばしながら切り刻む。ウィンドカッターと異なり殺傷能力は低いが、その効果範囲、風力によって避け切れなかったのだろう。


 これで戦士が1人、魔術師が3人となった。


「エクスプロード」


 再び爆発の魔術が発動される。この距離だと例え戦士を仕留めたとして魔術師もそのまま大怪我を負うだろう。しかし彼はそうしなければ間違いなく負けると判断した。


 火球が長身の男に当たり爆発する、その寸前に火球は二つに分たれた。魔術を切り裂いた剣はいつの間にか彼の頭の上まで振り上げられていた。

 二つに分かれた火球は後ろで小さく破裂した。


 振り上げた剣を、そのまま振り下ろし赤髪が倒される。


 土魔術師の岩弾を刃で受け止め切り裂いた。

 返す刀で火魔術師を無力化。


 最後に土魔術師を転がして、剣を目前に突き付けた。


 静寂が訪れる。瞬間、勝利が決定した。


「ウォオオオオオ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る