第5話 闘魔
、、、短剣を使用した近接戦闘の訓練
交流戦まで残り1週間を切った。マリク達戦士学校の生徒以外にも、魔術師学校や法術師学校から生徒達が街へやって来ていた。
ここで少し問題が発生した。俺が遠巻きにされているのはミハイルが原因だと思っていたがそれだけでは無いことが発覚した。
と言うのも食堂で昼飯を食べていた時に通りすがりの魔術師が
「脳無し」
とボソッと言い放ったのを聞いてしまったのだ。その発言をした生徒にそのまま聞くと面倒臭そうなので隣にいた普人族の狩人少年に聞いた。
それによると
「森人は魔術師の種族だ。そのくせ魔術師になれない者は脳無しと呼ばれる」
とのこと。
魔術は頭脳労働と呼ばれるためその魔術の能力が無いエルフは『脳無し』と言うことらしい。初めて聞いたがそれは普人族が言い出したのだろうか。
そんな事がありつつ現在は弓術を受けるのとは別の場所で講習を受けていた。
「2人1組で組手ぇ〜」
少しチャラ目の教官の声に従って、目の前の少女と組を作る。チャラい教官は狩人の副兵装となる短剣術を教える教官だ。相手は黒髪の長髪を後ろで一つにまとめた少女で俺と同い年位だ。
この子は俺でもキチンと相手してくれるので比較的仲がいい方だ。互いに練習用の柔らかい短剣を持った。
「よろしくお願いします」
「よろしく。こっちの合図で始めるけど、良い?」
「はい」
「それじゃ……いくよっ」
半身で持ち手を隠すように左手を前に出すスタイル。
勢いよく飛び出し顔を狙ってくる。
俺はそれを捌いて、足で手元を蹴り上げる。
綺麗に当たった短剣が上へ飛ぶ。
その隙に首元へこちらの短剣を突きつけて試合は終了。
「ぃててて、今日は私の負け、だね」
「今のところ4対5で総合ではシャーリィが勝ちですけどね」
少し悔しそうだが全体では彼女の方が勝っている。彼女は勝ち気で、運動が得意と言っていたので、相手が男子でもその系統で負けるのは許せないのだろう。こちらもまけたくないので一応本気でしているがご覧の成績だ。
そのまま、全員で型の練習をしながら会話を続ける。
「そういえば、最近灰色の森人がどっかとなんかあってどーたらこーたらって聞いてるけど。ルートのこと?」
「灰色の森人は俺のことだと思いますが、他の情報がゼロですね。魔術師達に一方的に絡まれてるんですよ」
「ふーん、どうせルートもなんかしたでしょ」
「いえ。少し話をしただけですよ。それ以外は何にも」
「そっか、そうだよね、ごめんね、疑って。……話は変わるけどさ、魔術師に暴力とか振るってない?」
めちゃめちゃ疑ってる上に話変わってなかった。が、本当に聞き覚えがない。
「どこで聞きました?、それ」
「女子寮の食堂で」
「こちらからは何もしてない筈ですよ、今のところ」
「そっか、でも気をつけてね。魔術師は女の子多いし、すぐ噂になっちゃうから」
「分かりました。気を付けます」
シャーリィとお喋りしていると、教官に注意されてしまった。
短剣術の講習が、終わったので昼飯を食べに行くと例の魔術師達がいた。少し離れたところにお盆を置きそちらに背を向けてご飯を食べ始める。
会話していた魔術師2人組が会話を止めてこちらを見つめる。
「……」
「モグモグ」
「……おい、アイツ」
「あぁ……」
背中で話を聞きながら、昼飯を食べ終わり食堂を出た。
そのまま近くの森へ薬草を取りに行く。
校舎を出て北の門を出るとすぐ森が見えて来る。
この学校のすぐそばには森があり、動物や植物などが取れるようになっているが、ある程度離れたところからは杭とロープによる柵が広がっている。そこから出てしまうと魔術の霧によって飢え死にするまで迷子のなることが確定してしまうと警告を受けている。
木の根や岩をひょいひょいと避けながら周りに木を配る。日当たりのいいところで前回薬師に指示されていた薬草を見つける。
薬効の部分を含む様にして茎を折とる。
このために用意した腰のケースに薬草をしまう。食堂を出てからずっと感じていた背後の気配を確認しながら森の奥へ進む。
ある程度深くまで来たところで振り返った。
「すみません。何か用でしょうか」
「腐っても狩人か」
「まあ、ここなら仲間も来れないだろう」
この言い方だとやっぱりギドかミハイルが何かしていたらしい。もしかするとマリクかもしれないが。
わざわざこんな場所に来たのは魔術師を相手に戦ってみたかったというのが大きい。森であれば邪魔も入らないだろうし、最悪逃げ切れるというのもある。
向こうが早速仕掛けてきた。
魔術師はこちらに手を向けると、気が集まり何かに変換される。その何かは少し前で紋様を描いた。この間1秒程度。
「ウィンドカッター!」
ナニかが手元から飛び出した。
全身で風の流れを感じ取った。見えないがどこか歪な気配。エンハンスを全力で足に掛けて右に飛び退く。
そのまま近くの木に飛び乗る。
後ろで轟音。木々が倒れて綺麗な断面が見える。幅は5メートル程だが攻撃は十数メートル後ろの木まで届いている。こんな物が当たってしまったら1発でアウトだ。
正直何処かで驕りがあったかもしれない。魔術は同じ後衛職でも身体能力は負けないから問題は無いと。
そんな事は無かった。特に交流戦までやって来る様な奴だ。
さらにここまで容赦なく攻撃するということは恐らく貴族。殺しても問題にならない側の人間だ。こちらが逆に殺すと不味いかもしれない。
一度お灸を据えておこうと思っていたが、今は逆にどうやってこの場から逃げるかを考えている。
とりあえずラピッドアローを撃つ。
「シールド」
手下らしき魔術師が正面に透明な膜を作り矢を弾く。その後ろで赤髪の貴族が紋様を作りすぐにこちらへ向ける。
「死ねっ、ウィンドカッター」
足元の枝を巻き込んでスパっと木が切り取られる。隣の木に飛び移る。正面からの射撃は防がれてしまうらしい。
今度は曲射も含めて射る。
「チッ、シールド」
今度は赤髪がシールドを張る。半球状に展開され上からの射撃もカバーきていた。どちらも盾は作れるのか。魔術と言う道具の性質上シールドを張る事は必要不可欠な様だ。先程からシールドを張る様子を見ていたが、シールドは紋様無しで発動している。
つまり魔術ではなく、気力で発動させている?
取り敢えず弓をずっと連射することで向こうの攻撃を封じる。
「くそっ、攻撃できねぇ。ふざけやがってぇ」
「木を盾にっ」
2人はシールドを張ったまま木の後ろに隠れる。こちらは矢筒から取り出した矢を背中に隠し気力を充填。向こうも攻撃が止んだことに気付いたのかチラリと顔を覗かせるのでそこに左手でナイフを投げる。
「うおっ」
驚くがシールドを展開したままなので弾かれて手元に落ちる。
ここで気力を貯めた矢を、番える。僅かな光が鏃から漏れる。狙いを定めて、打つ。チャージアローが真っ直ぐと狙い通りに魔術師達、の隣の木の幹を破壊する。
「なっ、くそっ」
向こうは倒れて来た木の枝で押し潰されない様にシールドを展開したままだ。さらには木の葉でこちらの様子を恐らく見えていない。
というわけで、俺はその場から逃げ去った。撤退は狩人の特権である。
しかし正直向こうが本気になる前に逃げられて良かった。
まだあのレベルに挑むのは早いだろう。
──────────
そのまま薬屋へ向かった。尾行が無いのは確認済みだし万が一あっても、流石に人前で襲う事はないだろうから寮でも大丈夫だろう。
「先生、薬草持って来ましたよ」
「あいよ、ふむこれ以外は良いね。これは、少し状態が悪いよ。今度からは土がついたまま持って来る様にしなさい」
「分かりました。今日は傷薬の作り方を教えて欲しいんですけど」
「そうだね。ちょうど傷薬の材料を採って来たことだし、そうするかい」
そのまま細い葉を持った薬草を取り出した。これは森で比較的よく見る物で傷薬の主原料らしい。それをゴリゴリと乳鉢ですり下ろす。
それを水に入れて加熱する。
沸騰したところで他の材料を投入しもう一度加熱。
沸騰したところで火を止める。
熱を人肌程まで冷ましたら濾過。
そうすると見覚えのある緑色の液体が出来た。
これを、もう一度加熱し凝固剤を加えると軟膏として使える。
ちょうど先程の戦いで肘を擦りむいていたので、塗っておいたら学校に戻る頃には完全に治りきっていた。
折角校舎まで来たので図書室で魔術を調べることにした。
司書に魔術関係の書物について聞くと、思いの外沢山の魔術書が置かれていることが分かった。その中で基本となるものを持って来て読み進める。
そもそも魔術とは気力から変換された魔力を使用することで発動する力であり、魔力で作った紋様、魔術式によって引き起こす現象を、操作できるらしい。
ただ同じ魔術式でも人によってその属性や性質によって得意不得意が分かれるらしい。これが魔術師の適性というわけだ。後で試してみることにする。
例の魔術師だがやはり中々の技量の様だ。魔術師の実力とは魔術式の投写速度に比例するらしく、ウィンドカッターを1秒程で描けるのは一人前と言って良い速度の様だ。
交流戦に来るだけあって血筋だけでなく実力もあるらしい。
司書に言って本を借りた。運動場に行く途中で食堂帰りのギドもいたので魔術の適性を試してみることにする。
魔術の属性は火、水、土、風以外にも闇、光などに分けられさらに同じ属性の中でも攻撃や回復、補助などと適性が異なるそうだ。
ここら辺を説明したところでギドが疑問の声を上げる。
「でもさ、俺らって魔術あたりの適性がないから狩人やってるんじゃねぇの?」
「狩人に適性があるだけで魔術師に適性が無いとは限らないですよ。あと、全く使えない人よりもほんの一部程度なら使える、という人の方が多いそうなので期待はできますよ」
各属性ごとの最も簡単な術式を試してみた。
しかし2人とも攻撃系は全滅だった。攻撃系は魔術師において重要な才能なのでこれがない事は予想していたが少しショックだった。次に回復と補助を試してみたら、ギドは火の回復と補助に、俺は風の補助の魔術に適性があることがわかった。
「うーむ、魔術が使えることを喜ぶべきか、風の補助しか使えないことを悲しむべきか」
「使えるだけマシだろ。俺達今まで魔術なんてないものだと思ってたんだから」
試しにヘイストの魔術を発動してみる。
「これは凄いですね。身体が軽くなって、その上今までよりも速く走れますよ。でも、眼と脳がそのままなので、転けてしまいそうです」
何度かその場を跳ねたり、歩いたり走ったりしてみると、大体素の1.5倍程度の変化を感じる。使用している間は気力を魔力に変換しながら使用しているがこの出力だと1分程度で無くなる早さだ。
魔力の供給を増やしてみたが、増やせば増やすほど効果も増えるが効率は下がっていくみたいだ。供給2倍で素の1.7倍程度なのでなるべく低い消費で使用することに決める。
「俺もストレングスってのを試してみたらすげー力が強くなったぜ」
火の補助魔法のストレングスは俺の試した補助魔法の筋力バージョンの様だ。ただでさえ強いギドの力がさらに増幅していて、手に持っている木が握りつぶされていた。
変換された魔力は気力とは別枠らしく、気力も同時に使用できるみたいだ。だが、変換が、間に挟まるだけあって気力との同時運用は俺では難しそうだ。
ヘイストの出力を限界まで下げてみると1.1倍で1時間維持できる程度まで下げることができた。これ以上下げると術式が停止してしまうようだ。
この状態で、
「ギド。試しに俺にストレングスを掛けてくれませんか」
「おう、…………ストレングスっと」
魔術名はなんかあった方が良いらしい。様式美って奴だろうか。無くても発動は出来る。
ギドに掛けてもらったストレングスだがキチンと発動している。俺のヘイストは、停止している。
掛けられた瞬間俺のヘイストに抵抗を感じたのでストレングスを弾くことも出来そうだ。
「ありがとうございます。やはり複数の魔法をかける事は出来なそうですね」
その後も役に立ちそうな魔術を2人であれこれ話し合いながら試してみた。火の回復は継続回復のものがあったり、補助は力や火力を上げるものが多かった。一方風の補助魔法は空気抵抗を減らすスムージングや、術式を通ったものを加速させるアクセルなどがあった。
面白そうな使い方も考えたし、魔術は術式さえ描ければ強い様なので今後の訓練メニューに加えることにする。
最近は暇な時などに指先だけエンハンスを発動させてみたりしていて気力操作の技量が上げていたので、捻りを加えるのに良いかもしれない。
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