不思議な未知の力

長月瓦礫

不思議な未知の力


「ブラディノフさん、これは一体なんですか?」


KAC202211那由多は穏やかな笑みを浮かべ、写真を見せた。

日記などを提出するだけでなく、マンションでの生活などを定期的に報告する義務がある。


凍り付いた水面に城が建っている。

空には満月が三つ並び、夜にしてはかなり明るい。


「……魔力がオーバーフローしてしまって」


『そんな言い訳が通じるとでも思ったのですか!』


怒鳴り声がキンと響く。

案の定、監視カメラが映像は届けられてしまったらしい。

地球ではありえない環境だからこそ、試してみたかった。


『だから私は反対したんです! 

地球人と偽って吸血鬼を送るなど言語道断だと! 考えられません!

ていうか、なぜあなたも疑問に思わなかったのですか!』


「私も最初に言ったんですけどね……おそらく、地球の外では生きていけないと思ったのでしょう」


不老不死と呼ばれる存在は他の星でも生きていられるのか。

地球外の環境なら、どうなるのだろうか。


実験をするつもりで送ったのだろうが、予測は大きく外れた。

普通に生活し、住民からも異星人ということで歓迎された。


「地球とほぼ変わらない環境下であれば、生きていけるということがよく分かりました。

基本が変わらないのであれば、応用は利くはずですから」


『だからといって、実際に魔法を試さないでください!

あちらの星の文化に魔法はないのです!

人間らしく振舞うようにと、何度も言いましたよね⁉︎』


向こうの星からしてみれば、人間とそれ以外の区別などつくはずもない。

多少疑われたものの、変わった特性を持っている人間ということで受け入れられていた。


しかし、この氷の城の騒ぎでごまかせなくなった。

真面目で穏やかな性格と思われていただけに、かなりの暴挙に見えたらしい。

住民たちが部屋に押し掛け、質問攻めにあった。


あの星に魔法という技術が存在していたかどうかは分からない。物語に似たようなものは登場していても、実在していたかは不明だ。


すべてが水の底に沈み、過去を探しようがないからだ。

マンションの年長者であるヴァルゴですら、そのような話を聞いたことがないと言っていた。


地球には魔法という不思議な能力があることを説明し、月と関係あることを話した。

他の星ではどのような効果を発揮し、地球と同様に使えるのか。


魔法の実験としてこの星に送られたことを聞いて、むしろ腑に落ちたらしい。

何もない星だからこそ、トンチキな実験をするにふさわしいと思われたようだ。


『幸い、地球には魔法という技術は生きていますからね。

どうにか言い訳ができます。

互いに情報が遅れていたたことにも感謝しなければなりませんね』


実験は打ち切られず、その星にもうしばらく滞在することが決定した。

あの騒ぎの結果は大きな収穫となったようで、さらに効果を見たくなったようだ。


『ここまで来たら今更引き返せないでしょう。

計画を続行せよと、通達が来ています。

そのうちあなたの元にも届くでしょう。

魔法についてもご理解いただけたようですし、思い切り使ってください』


「そうはならないと思いますが……」


『そうなってるから言ってるんですよ!

ちゃんと研究として成果を出してくれないと困りますから!』


環境については、気になっていたから聞き出していた。

魔法は日常に差しさわりが出ない程度に使っていたが、とうとうバレてしまった。


それでも続けられること自体、奇跡に違いない。

研究を続けなければならない。


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