借りたねこのては黒い
長月瓦礫
借りたねこのては黒い
船で十分程度でいけるところに、ねこのてという万事屋がある。
商品棚にはずらっと小物が並び、品揃えは豊富だ。
海の底に沈んでいたものを引き上げたり、不用品を回収したり、入手手段はいくらでもあるようだ。
「へー。アンタが地球から来た留学生ですか。
物好きもいるもんですね」
「学生ではないんですが……まあ、似たようなもんですか」
猫耳の三角巾をつけた女性、レグルスが応対した。
ブラディノフのことは知れ渡っているようで、どこに行っても必ず声をかけられた。
「そうですねえ、こういうのとかどーでしょ。
安くしておきますよ」
先端が五本に枝分かれしている棒を取りだした。孫の手だろうか。
「これね、かゆいところに手が届く商品です」
「でしょうね。見れば分かります」
「こういうのは一家に一本あると便利ですよ」
「地球にもあるので、別にいいです」
「宇宙孫の手、ダメですかね」
「流行らないと思います」
「そっかー」
彼女は棒をしまい、別の道具を出した。
青色の小袋だ。氷のうのように見える。
「これは持っているだけで懐が寒くなります」
「こういう物ボケが続くんですか? 大しておもしろくもないんですが」
「氷を入れるという手間はありますが、水ならいくらでもありますからね。
実質永久機関みてーなもんです。頭を冷やしたいときにもどーぞ」
「そちらが正しい使い方なのでは?」
「二刀流ってやつですかね」
「違うと思います」
「そっかー」
彼女は氷のうを箱にしまった。
ガラクタばかり集めているように思える。
「もっと使えるものはないんですか? この星にしかないような道具とか」
「逆に聞きますけど、地球にしかない道具ってのはあるんですか?」
地球と同レベルか、あるいはそれ以上の技術力を持っていた。
水上でも生活ができているのがその証だ。
「私ね、思うんですよ。
進化の過程って、実はどこも大して変わらないんじゃないかって。
ある程度の技術や知識が発展したら、争いが起きて、平和になって、それを何度か繰り返して破滅する。こんな感じのね、似たような道筋をたどるんじゃないかなって」
彼女はシニカルに笑った。
「地球も似たような状況にあるというのは分かるんですよ。
この星も環境問題に振り回された歴史がありますから。
けど、そこまでして真似するほどのことなんですかね?」
いずれ破滅するのに、抵抗する意味があるのか。
他の星に学びに来てまで抗う意味が分からない。
そういったところだろうか。
「その知識や技術が猫の手の集合体だとしても?」
「猫の手?」
「あまりにも忙しすぎて、細かいところまで詰められないんですよ。
突貫工事でできた建物がすぐに崩落するのと同じです」
大急ぎで助けを借りてきたところで、できるのは肝心なところが欠けた何かだ。
そうなる前から考えなければならない。
「なるほど、この星の結末そのものが猫の手を借りた結果ってことですかね」
彼女は肩をすくめてみせた。
「となると、そうですねー……何がいいですかね?」
「物ボケ以外でお願いします」
「善処します」
目を細めて笑いながら、レグルスは棚の奥へと消えた。
借りたねこのては黒い 長月瓦礫 @debrisbottle00
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