報告会 実は焼き鳥 焼いている
長月瓦礫
報告会 実は焼き鳥 焼いている
呼び出し音がしばらく鳴り続ける。
窓の向こうの海は果てまで広がり、水面が穏やかに揺れている。
この数日間、ずっと晴天が続ている。
『お待たせいたしました。こちらKAC20226宗谷です』
「ブラディノフ・ハーロウです。定期報告の件で連絡しました」
『はい、ありがとうございます。
それでは、よろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
今やネットは宇宙規模で繋がっている。
水没した星でもネットは繋がっており、学校の授業や仕事は自宅で行っている。
ブラディノフはこの星について、報告義務があった。
気候や住民、文化など簡単にまとめたものを文書として送るだけでなく、実際の生活などを口頭でも伝えなければならない。
いつか来るかもしれない文明崩壊に備えるためだ。
同じ轍を踏まないように、すでに崩壊した星を選んだのかもしれない。
「私のことを疑っている者が数名います。
予想していたことではありましたが、ここまでだとは思いませんでしたね」
『疑っている、というと?』
「観光地でもないのに、何しにきたのかと。
住民の方々は受け入れてくれましたが、実際のところはどうでしょうね。
見どころがないと思っているからか、不自然に見えるようです」
『ああ、そういうことですか。
その環境こそ、我々にとっては重要なのですがね。仕方ないのかもしれません。
他に何かありますか。マンションの暮らしはどうでしょう』
「思っていた以上に快適です。
これが実現したら、すごいことになると思いますよ」
実はこの報告をしている最中、彼は鶏肉を焼いている。
マンション内で補給できる肉は大豆などを加工したものであり、動物の肉ではない。
動物の肉はよそのマンションから取り寄せなければならない。
加工肉も最初のうちは楽しんでいたものの、若干飽きてしまった。
本物の肉を日常的に食べていたこともあるからか、どうも慣れない。
畜産農家のマンションへ向かうのも手間がかかる。
無理を言っているのを承知で、地球から転送装置を使って鶏肉を郵送してもらった。
肉を分子レベルで分解し、再構築する。
郵送がここまで進化するとは思ってもなかった。
肉はすでに串に刺さっていて、あとは焼くだけだ。非常に簡単なものだが、様々な具材があって食べ応えがありそうだ。
この報告が終わった後、酒と一緒につまむ予定だ。
ゆるみそうになる表情を抑え、話を続けていた。
「普通のマンションと変わりはありませんし、かなり人気が出るのではないかと思います。特に災害の多い地域では、重宝すると思います」
『実際、アルコロジーなんて言葉もあるくらいですから。
住居の究極体と言えるかもしれませんね。
報告書もありがとうございます。無事届きました』
「ありがとうございます。こちらの荷物も届きました。いつも不安になるんですよね。
届いているかどうか、分からないので」
『転送装置はちゃんと使えているみたいですから、大丈夫ですよ。
何かあったらご連絡ください。他に何かありますか?』
「はい、報告は以上です」
『はい、かしこまりました。
KAC20226宗谷が承りました。失礼します』
「はい、失礼します」
通話を切断し、肉に目を移す。
肉の焦げた香りが部屋を満たしている。
ちょうどいい頃合いだ。
「さて、どれにしようかな」
報告会の裏でこんなことをしていたと誰が思うだろう。
ブラディノフはひとり笑いながら、焼き鳥にかじりついた。
報告会 実は焼き鳥 焼いている 長月瓦礫 @debrisbottle00
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