循環するアーキテクチャー

長月瓦礫

循環するアーキテクチャー


恒星が白い光を放ち、世界を明るく照らしている。

ブラディノフの目の前は海が広がり、水平線の向こうにぼんやりと小島が見える。


「本当に何もないのだな」


真昼に浮かぶあの白い星は太陽と似たような役目を果たしているらしい。

昼と夜を生み出し、他の生物にエネルギーを与えている。


屋上に張り巡らされた黒のパネルもそうだ。

光を吸収し、エネルギーに変換する。

いわゆるソーラーパネルだ。


「高度な文明があると聞いていたからどのような惑星かと思えば……地球と大して変わらんな」


この星は戦争を何度も繰り返しては和解し、平和を保ち、破滅した。

突然の環境変化で水面が上昇し、すべてが飲み込まれた。

極彩色の摩天楼も緑豊かな森もひび割れた大地も何もかもが水没し、高山の頂上付近が陸地としてわずかに残った。


「破滅をきっかけに自然を利用したエネルギー開発が進むとは、何とも皮肉なものだな。結局、何かしら危機が迫らないと行動できないというわけか」


ブラディノフはひとりごちた。水面をさらっていく心地よい風も、エネルギーとして活用されている。水位上昇をきっかけに再生可能エネルギーの普及が進み、水の上でも快適に過ごせる方法を生み出した。


そのひとつが完全循環型集合住宅ノアというマンションだ。


はこふね不動産は海洋発電所を起点に住宅を築き上げた。狭い陸地を活用した、この星ならではの建築物だ。

常軌を逸しているとしか思えないこの組み合わせだ。


発電所としての役割を保ちつつ、住宅の機能も備わっている。

ノア内部にある発電所でエネルギーを供給し、排出物も何かしらの形で再利用される。捨てるものは何もない。すべてが循環し、完結する。


この二刀流を体現したような住宅ができたのは、すべてが水没したこの星だからできたことだ。

地球も来るべき日に備えて、学ぶべきだと強く感じた。


「ずいぶんと熱心なんですね」


「この有様を見て他人事のようには思えくなっただけです。

いつこうなってもおかしくありませんから」


エプロンを身に着けた女性が洗濯物を抱えながら、微笑んだ。

3階に住むリラは、このマンションの大家だ。

水没の危機にさらされながら、今日まで生きてきた。


地球とこの星はかなり離れているらしいから、情報もそれだけ遅れてしまう。

パンフレットにあった写真はすべて過去のものと化した。

彼がこの星にたどり着いた頃には、何もなくなっていた。


富裕層はすでにロケットで脱出し、他の地へ移住した。

ここに残っているのは、星から脱出できない者と移住する気がない者だけだ。


「地球も似たような境遇にある。この情報は共有すべきかもしれないな」


屋上に張り巡らされた金属製のフェンスに手をついた。

潮風に当たっていたからか、錆び付いてざらついている。


「それは考えすぎでは? お話を聞く限り、環境がまるで違うように思えます」


「と言いますと?」


「地球のほうが大地が多く、高い山も比較的多いのでしょう?

仮に氷がすべて溶けたとしても、我々のような環境にはならないと思いますが」


「そんなことはありません。永久凍土だと思われた場所が少しずつ削られているのです。

あまり楽観的には考えられませんね」


潮風が吹き付けた。べたついた風も地球と変わらない。

水の成分も海とほぼ同じようで、生き物もこの下に生息している。

実際、この生き物たちも美味しいのだ。

新鮮なのもあるだろうが、地球にいる魚とほとんど変わらない。


ただ、調理という技術はあらかた失われてしまい、味付けはほとんどないに等しい。

レシピ本も沈んでいるに違いないが、拾いに行くことはできない。


調理技術はロストテクノロジーとなり、この星にコックはいない。

旅行者であるにもかかわらず、台所に立つ羽目になった。


「潜水艦でもあれば話は別でしょうけどね。何か探し出せるかもしれません」


「操縦できるんですか?」


「できないから困っているのです」


二人でため息をついた。


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循環するアーキテクチャー 長月瓦礫 @debrisbottle00

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