中編
今日も暑くなりそうな
冷水で目も覚めたし、朝飯でも――と思い、いつものたまごに手を伸ばす。あと何かあったか・・・・・・と、振り向いたらそこに居た保冷庫を開けた。おお、
煮立つまでの間、他に何か入れるものがないか探す。そういえば、裏庭の白ツバードが食べごろだったか。緑の方は周りの
いつも開けない勝手口に手をかけると――あ、ここもだったか。建付けの悪さを忘れていた戸は、案の定ビクともしなかった。今日こそ加減を間違えまいと戸から少し離れ、「
少しの移動だけで背中に服が張り付く。
いつものたまご焼きは、たまごを焼いた上に別調理の具材を乗せて巻くが・・・・・・暑さで思った以上に気が削がれてしまったため、大量に割ったたまごを
焼きあがったばかりのプルンプルンなたまご焼きに、特製だれを
昨夜食べ損ねた冷や飯を微弱の火魔法で温め、いや
客が途切れたら早めに閉めて、夕飯にでももう一度食べようと残った飯をかきこんだ。
洗い物を済ませ、今日は常時入ったままの氷を浮かべた水を片手に、煙草に手を伸ばす。そういや、手紙来てたか。相棒に火をつけながら、テーブルやカウンターを一通り見渡すが・・・・・・取って来たはずの手紙が見当たらない。あれ? 取ってなかったか。仕方がないので、重い腰を上げて玄関口へ向かう。
手紙といえば最近、大陸の東側が何やらきな臭いが――あいつ、確か東の方に行ってたよな。無事なのかな・・・・・・なんて、らしくないことを考えていたせいか、手を伸ばした扉が勝手に開いた。勿論、
「よ!」
「・・・・・・『よ!』じゃねえ。まだ開けてねえんだよ」
「えーいいじゃん。私しか来てないし――入れて? ていうか、たれのいい匂いしてて待・て・な・い!!」
ね?って、そんな可愛く上目遣いされたら、
「・・・・・・起きてるか? エヴァンジェリーナ」
「あ、お帰り。起きてるよ~」
何かあったのか、お決まりの「エヴァっていつ呼んでくれるのさ!!」という元気な抗議が来ない。大丈夫か?
「今日の中身なあに?」
「ん? あぁ、クラーケンとツバード」
「クラーケン! 私たちもこの間、クラーケン出るとこまで依頼に行ったんだよ~」
「そういえば、東の方に行ってたな。泡の花は見れたか?」
「見た見た!! クラーケンの大暴れで出来た荒波がわっさーって陸まで来て、
「そーか」
「場所、教えてくれてありがとね! ジャンさん」
「・・・・・・おう」
クラーケンの話につられたのか、エヴァンジェリーナは何事もなかったのように元気になった。以降、エヴァンジェリーナが惚けることはなかった。俺の気のせいだったのか?
エヴァンジェリーナの相方が来るまでの間、二人っきりであーでもないこーでもないと冒険話に花を咲かせた。俺が旅の話をしてる時のエヴァンジェリーナは、花が咲いたようにふわっと柔らかい表情で聞いていた。笑顔が見れたのはよかったが、心臓に悪い――今夜追加する特製だれは、もしかしたらいつもより甘すぎるかもしれない。
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