第14話
「にゃああああああああ!!みんなどこに行ってたにゃあああああああ!!!」
少ししたらリーレイもハンナも目覚めて、三人で戻ったらなんとも喧しいお出迎えだった。
「みんなどこ行ってたにゃああああ!!目が覚めたらみんないなくって、寂しかったにゃあ!!戻ってこないかと思ったにゃあ!!こんな遅くまでどこいってたにゃあ!!」
ニャンコフは涙目になりながらリーレイの懐に飛び込んでいく。飛び込むニャンコフの勢いが思いの外強かったのか、リーレイは思わず尻をついて、笑った。
あれからリーレイとハンナは無事目覚めたものの、記憶がぼんやりしているようだ。死霊に襲われたことや、この部屋で女--ヤクルに出会ったことまではなんとなく覚えているようだったが、詳細がぼんやりとしているといったそんな雰囲気。リーレイもハンナも傷は全て綺麗に消えていたし、破れた服も元に戻っていた。女神が言っていた『リセット』ということなのだろう。
勘のいいリーレイは訝しんでいるようだったが、おそらくこうしたということは女神にも何かしかの考えがあるのだろうと思って、私も記憶が曖昧だということにしておいた。リーレイは納得いかないような顔をしていたが、なんとか諦めてくれた。
「全く、3人で急に倒れたなんて……あの女に何もされてなきゃいいけど」
ハンナが少し心配そうに言った。
「たぶん……大丈夫だと思います」
リーレイがジロリとコチラを睨む。やっぱり私を疑っているみたいだ。でもだからといって、アレをどう説明したらいいのか私にはわからない。
リーレイはじっと私を見つめて、それからため息をついた。
「まあ、いい。どうせ城につけば全部白状させられるんだ。もしお前があの女と何かあるってんだったら、それも明るみに出るさ」
「特に……何もないです」
「……」
いつもの嫌そうな顔にさらに不信感のつのった表情で私を見る。
ハンナが「まあまあ」とリーレイを嗜めた。それから「それより」と空を見上げる。
「どうしたの?」
ブワッと風が舞った。そして、『うおおおおおお!』と雄々しい咆哮。
「サイラスが来た!」
ハンナが嬉しそうな顔で空を見た。私もつられて空を見上げる。遥か上空からゆっくりとこちらへと向かってくる大きな影。いや、ゆっくりなんかじゃない。凄まじいスピードだ。ただ、距離が離れているからゆっくりに感じているだけで--。
サイラスと呼ばれた石灰色のドラゴンはある程度まで私たちに近づくと、ふわりと速度を緩めて着地をした。
エリアスも大きかったが、このサイラスというドラゴンはさらに大きい。エリアスには頑張っても二人くらいしか乗らないが、このサイラスにはおそらくゆうに5人は乗ることができるだろう。おそらくかなりの高齢。分厚い皮膚には深い年輪が刻まれている。
サイラスは地上へ降りて、それから恭しく私に向かって頭を下げた。大きな黒い潤んだ眸が私を写している。
『貴方様が新しい聖女様ですか』
嗄れた声だった。
『以前の聖女様とは全く違う。ああ、それでも身体に秘めたる力の質は全く同じものだ』
……それは暗に私がブスだって言いたいのかな?
『長生きはするものだな。一度ならず、二度までも。ああ、なんと光栄なことか』
私がサイラスの額を撫でると、サイラスが目を細めた。
「マリカ、サイラスが何言ってるのかわかるのか?」
ハンナが訊く。
「え、わかるけど。なんで?」
「いや、私にはわからないから。何を言いたいかはんとなくはわかっても、言葉までは理解できない。リーレイは?」
「俺もさっぱりだな」
「僕はわかるにゃーよ!」
再びリーレイの懐に潜ったニャンコフがひょっこりと顔を出して言った。その頭をリーレイが無言で撫でる。ニャンコフが満足したように喉をゴロゴロと鳴らした。
「サイラスはなんて?」
「わ、私に会えて嬉しいって……」
「サイラスは以前の聖女様にも会ったことあるみたいだにゃあ」
ニャンコフがサイラスを見ると、サイラスと目があってニャンコフはビクリとリーレイの懐に潜る。
『ふふふ、馬鹿なネコヴェルクだのう。ネコヴェルクはもっと知性に溢れた種族だと思ったのだが……まあ、まだ若い。仕方がないか』
サイラスの瞳は優しい。
ニャンコフはサイラスの様子を伺うようにリーレイの懐からそっと覗いたが、やはりサイラスと目があって再びリーレイの懐に潜った。
『ところで』とサイラスは今度はリーレイに目を向ける。
『エリアスから聞いている。明日、王都まで立つらしいな』
「なんて?」
リーレイが私にきいた。
「明日、王都に向かうのかって聞いて……ます」
ふむ、とリーレイがうなずく。
「ああ、元々王都に行くのが目的だった。少しトラブルがあって、この村に寄っている」
『そうか。だったら明日、私が貴方たちを送りましょう。聖女様のためだ。この最古のドラゴンも動こうというもの』
「なんて?」
「明日、サイラスが私たちを送ってくれるって」
「へええ!」とハンナが驚いた声を出した。
「珍しいな!私が呼びつけてもめんどくさがってほとんど来ないのに」
ポンポンとサイラスの額を叩く。
『この老体に無理をさせようとするのがいけない。この世に生を受けてから最早6,000年。身体にガタが来ているのだよ』
サイラスがハンナを見た。さっきハンナはサイラスの言葉がわからないと言っていたが、感覚でわかっているようで、まるで悪戯っ子の様に笑う。
『しかし、一度ならずとも二度も聖女様にお会いできるとは、この老体も重たい腰を上げようというもの。いやはや、長生きはするものですな』
そういうサイラスをハンナが撫でて、笑う。
「お前も優しいところあるんだな。全く、なんで私にはいっうもああいう態度なんだよ」
『お前は聖女様ではないからな』
うーん、ちゃんと会話が成り立ってる。恐るべき絆の力。
言葉は冷たいけど、サイラスもハンナを大切に思っていることはわかる。
「とりあえず、まあ明日だな。サイラスは一旦帰るのか?」
『この巨体が休んでいても邪魔だろう。明日迎えに来るよ』
「そうか」
サイラスはそう言って、私に一礼をすると再び羽ばたいて何処かへと消えて行った。
サイラスの姿が完全に見えなくなって、ニャンコフがやっとリーレイの懐から顔を出す。キョロキョロと辺りを見回しサイラスの姿が完全にいなくなったことを確認して、安堵の表情を見せた。
※※※
次の日、私たちは王都に向けて出発をした。
長老たちの元へと挨拶に行くと、昨日食事ができなかったことをとても心配され、かくかくしかじか理由を話した。長老たちはイマイチ理解をしていない風ではあったが、私たちの身を案じてくれたのはわかる。
長老たちは私たちに沢山の土産物をくれた。
こうして、私たちは王都へと向かったのである。
異世界転生ブス 神澤直子 @kena0928
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