File.12 模戦

 

「今目の前にいるのがデタックスの縮小版。あたし達がバニルに成った時に見る奴らと同じ大きさ関係。あいつらは大きさ約24メートル、それに対するあたし達は16メートル。大体1.5倍だね。」


 そんな言葉と共にわたし達は中にデタックスの縮小版が出現したフィールドの中に案内されていった。


「あの時は実際に対峙したのは少しだったから分からなかったけど、やっぱり相当大きそうに聞こえますね。」

「うん大きくなりすぎると、あいつらよりも強くなっちゃうからね。そうするしかないの。

 いたちごっこはもうこれ以上やれない。強さって限界があるじゃん。無駄にあいつらを進化させられないの」


 そこで一度言葉を切ると、侑実ゆみは突然わたしに無茶振りを言ってきた。


「そんじゃ、なずな。こいつと戦ってみて。一対一で。そこの端っこに置いてある武器使って。はい。先ずは薺ちゃんから。」


「え???」


 わたしが呆然と飲み込めないでいると、彼女は畳み掛ける。


「ん?なんか質問ある?あなたの機体の特性を決めて改造する為に必要なの。そこの端っこに置いてある武器を右から順番に一戦ごとに使ってみて。最初はその拳銃から。」


「あ、はい。分かりました…?」


 無理矢理なんか流されて、わたしが戦うような感じの雰囲気になる。

 侑実に引っ張られるようにして涼華すずかがフィールドから出されると、侑実はさっきの機械に近づいて操作する。バケモン、ここにもいたか。いや、わたしが思ってるよりも操作は簡単なのかも⁉


 そんな事を思っている隙に彼女は何桁もある数字パスワードを打ち込み(やっぱりバケモンだった)、現れたボタンを

「波◯砲、発射用意!エネルギー充填開始!」

 なんて言いながら押した。

 ネタ古っ!言いたいのは分かるけどさぁ…


 目の前にあるデタックスの模型(ちびデタックスとでも呼ぶか)が軋みながらモーターの駆動音を立て始めた。


 それと同時に、わたしの身体にも変化が起きた。

 なんか、物凄く身体が軽い。そして、芯からポカポカしてくる。安心するような、心地良い暖かさ。


 模擬戦闘準備が完了したようで、侑実の正面の機械の真ん中がパカっと開き、開始する赤いボタンらしきものが出てきた。


 彼女がある言葉と共にその開始ボタンを押す。その言葉とは


「ポチッとな」


 …うん。古いね。突っ込むのも面倒になってきた。


「じゃあ、頑張って!一応怪我しないように電磁バリヤー張っといてあげたから存分に戦って良いよ。いい?」

 彼女が続けるが、もうこれ絶対待ってるでしょ。あの言葉を。

 仕方ない。返しといてあげるか。


「アラホラサッサーッ」


 彼女が予想通りニヤリとして開始のブザーを鳴らした。

「薺さん、頑張って!」

 隣の涼華からの応援も聞こえる。頑張らなくっちゃ。


 ちびデタックスはまだ遠くなので今のうちに背中とか、身体の節々を伸ばしておく。ゴキゴキッとか言う音が出てきた。もっと準備体操をちゃんとしとけばよかった…


 一歩ずつだが、ちびは着実に近づいてきているからわたしから近づいてやる。指示通りそこの拳銃を手に取り、走って距離を詰める。


 え?何これ!めちゃくちゃ速く走れるんだけど!いつもの倍くらいのスピード出るぞ!

 さっきの身体軽くなったと思ったのは思い過ごしじゃなかったのか…


 一気に懐に潜り込む。


「どんなものにも絶対に弱点はある」

 こんな言葉を聞いたことがあったので、その教え通りにひとまず弱そうな首とボディとの接着部分に狙いを定め発砲しようとしたが、出来なかった。

 例の、急に伸びる腕でわたしの銃を持った右腕の二の腕を容赦なく掴んでくる。バリヤーがあるんだからと、そのままもう片方の手に銃を持ち替えてそいつ目がけて引き金を引く。


 ちょっと傷がついたようなので、すかさず2発目を撃とうとしたら直後わたしの左腕の二の腕もがっしり掴まれてた。

 どう引っ張っても抜けそうにないので得意の体術で、足を持ち上げると強烈な両脚キックをちびの胸に炸裂させた。


 結果:効果なし。


 そのまま動いてくる。そして少ししたのちに胴の砲門が開く。


 やべっ。機関銃じゃん。あ、でもバリヤーあるから‥‥


 砲門が火を噴いた。

 バリヤーがあるから全然痛く‥‥痛い痛い痛い痛い!


 一度リロードの為か連射が止まる。

 いや、本当に痛いよ。確かに緩和はされているけど‥‥侑実を涙目で見ても、知らん顔でスルー。こんなの聞いてないんですけど!


 着弾の反動でわたしの身体はちびの手を離れ、少し遠くになったので反撃を始める。さっきみたいな突撃ではなく、一撃離脱方式でやる事にする。

 この間と同じように一回全速力で離れ、その勢いを殺さぬよう大回りしてそのまま進行方向上にちびを捉えて横を過ぎ去る時にありったけの弾をぶち込んだ。

 デタックスは動きが鈍いのでこれならギリ通用するだろうと思ってやったが、予想外に効果的だった。前回と比べると格段に拳銃の火力が上がっている。


 いけるっ!


 と思った瞬間に侑実からの非情な宣告が。

「はい、一回戦終了。おつかれ。そんなに飛ばしていると後で疲れるよ」


「えぇ‥‥あともうちょっとで倒せそうだったのに‥‥」

「今回はデータ取るだけだからそれだけ出来ればいいの。ひとまず休んで休んで」

「へーい」


 フィールドを出たら倒れるように床に寝っ転がった。自覚していなかったけど相当疲れていたらしい。

 あっという間に会津先生2号の誕生だ。

 でも見た限り武器コーナーには、日本刀、ライフル(狙撃銃)、アサルトライフル(突撃銃)、鎌(何故に?)、槍、ワイヤーがあったってことは、あと6セット最低でもこれやるの‥‥

 えぇ‥‥


 そんな感じで疲れの為仰向けで寝っ転がっていたわたしを涼華が覗き込む。


「薺さん、すごかったですね。私も頑張らなくっちゃ」

「うん。頑張れ。攻撃されると痛いからやっぱり注意しといたほうがいいよ。特にあのお腹の機関銃。結構一発一発が重いのに連射とかいう頭悪いことしてくるから」

「やっぱり痛かったんだ。バリヤーあるのに」

「そうだよ。気をつけな」

「はい。じゃあ、やってきます!」

「行ってらー」


 彼女がフィールドに入ると、さっきと同じように侑実が機械を操作しバリヤーと、ちびのセットアップを始める。

 例の起動ブザーが鳴り、涼華の模擬戦闘訓練が開始した。


 彼女もさっきのわたしと同じように傍らの拳銃を取った。さっきのわたしと違う点は二丁を一気に持ったという点だけ。いや、「だけ」じゃないか。相当違うな。

 そもそも二丁持つって選択肢あったんだ。

 ってか、すごくカッコいい。いいなぁ。わたしもああすれば良かった。


 わたしの戦闘を見て彼女も一撃離脱方式が良いと判断したのか、ちびの近くに突如間を詰めると両手の拳銃で連発した。要するに火力押しをしようとしているっぽい。


 一撃離脱方式というのは、一瞬のうちにどれだけ相手にダメージを与えられるかにかかっていると言っても過言ではない。彼女の判断は正しいかと思えた。


 だが、現実はそんな甘くない。確かにちびには相当攻撃が効いたらしく、一部からは煙が出始めている。でも、その代償は大きかった。彼女の身体がその両手拳銃の反動に耐えられずにバランスを崩してしまった。ちびの目の前で。勿論すぐにあの例の腕で捕まえられる。がっしりと。


 この後はお分かりだろう。わたしとまったく同じ道を彼女は辿った。


「おつかれさん。さんざんな目に遭ったね」

「うん。薺さんが言ってた通り本当に痛いですね。バリア無かったらどれだけ痛いのか‥‥」


 労いの言葉をかけつつも機械の前の侑実の非情な宣告。

「おつかれ~。やっぱり二人とも難しかったか。拳銃は使い慣れると楽なんだけど、あいにく苦手みたいだね。じゃあまた薺、フィールドに入って。二回戦するわよ」


「えぇ‥‥もう‥‥疲れたのに‥‥」

 無駄な抗議はしてみるものの勿論効果なし。


 あきらめつつ、フィールドに入り右から二番目にある日本刀を手に取る。拳銃よりは長物の方が慣れているからちょっとだけ安心だ。

 ま、勝てるとは夢にも思っていないけど。

 本当になんで実戦で勝てたのかが不思議なんだよねぇ。


 ブザーが鳴る。試合開始。



 終了のブザーが鳴る。

 結果:瞬殺。

 一瞬で刃を掴まれてしまった。小気味良い音を立て真ん中からぽっきりと折れてしまった刀。丸腰のわたし。一応遠くまで逃げてから、今度は飛びかかろうとちびの5メートルくらい前から踏み切ったのだが、勿論掴まれて終わり。悲しいものだ。


 涼華の方はと言うと、ものすごく健闘した。

 程よい距離で、ギリギリちびの腕射程圏外から攻撃を加える。考えてみれば刀ってのは中距離戦でも対応可能だな。わたしがやろうとしてたのはわざわざ長物持っているのに近接戦という、考えなしだった。


 わたしがそんな一人反省会をやっている最中にも涼華はちびの腕を一本切り落とした。でも、それが心のゆるみだったのだろう。または彼女の疲労の限界だったのかもしれない。もう片方の腕に彼女は捕まり‥‥(以下略)


 そんなこんなで、二回戦は終了した。

 三回戦、四回戦のライフル、アサルトライフルも同じくわたしは瞬殺の連発だったのだが、そんなわたしにも運命の出会いがあった。

『運命の出会い』って、青春風に聞こえよく言ったところで、武器なんだがな。どこ行ったわたしの青春。


 五回戦。

 その武器は、鎌だった。でも、ただの鎌ではない。鎖が付いている。

 その名も、鎖鎌。

 かの有名な宮本武蔵がまだ名を馳せる前に決闘し、苦戦した相手としても有名な宍戸某という人の武器としても有名である。小型の鎌に長い鎖が付いていて、その先には大きめの分銅。分銅を回転して加速させてから勢いよくそれを投げつけ、敵の身体や武器に巻き付ける。敵が動きを封じ込められている間に接近し、鎌の方で切りつけるという凶悪な武器だ。


 手に取った時には、あまりなじみのないこの武器に違和感しか感じなかった。でもブザーが鳴り、戦いの幕が開いた瞬間に全てが変わった。


 驚くほど武器として心強い。単なる火力で言ったら拳銃の方が何倍も強いが、あまりにも慣れていない。こちらも同じく慣れていないが、根本的に違う。わたしの武器として生まれてきたような感じがするぐらい、しっくりと来る。今までの不自然な感じが嘘みたいだ。


 ひとまず分銅を身体の傍で縦に振り回し、空気を裂くようなビュンビュンという激しい音がしたらすぐに鎖を持っている方の手だけ放す。一直線にちびに向かっていったそれは、ちびの腕に、蛇みたく巻きつく。

 第一ステージ、クリア。


 わたしはそれを確認すると、大回りしてちびを中心とした円を描くようにして走る、走る、走る。


 ちびが、鎖でがんじがらめになった。元々デタックスというのは腕の力があってこその強さなのだ。腕が使えなかったら強さは半減する。機関銃だって、当たったら強いけど避けること自体は可能だ。今までがっしりと掴まれていたから逃げられなかっただけ。

 第二ステージ、クリア。


 予想通りやつは抵抗してくる。でも機関銃ぐらいだったら楽勝。

 近くの間合いに飛び込むと、切りつける。一発一発は弱いが、一撃加えるごとにどこかしらに傷がつく。いままで、ぼこぼこにやられてたからなんか楽しいかも。優位な位置に立つってこんな楽しいんだ。


 そんな、ちょっといけない気持ちに酔っていると、侑実からの声で現実に戻される。


「もうその辺で終わりだ。デタックス壊しちゃったら、直すためにそこで爆睡してる先生を起こさなきゃいけない。こんなに気持ちよさそうに眠ってると、起こすのに気が引けるんだよなぁ。

 あと、薺はもう武器決定だな。もう制作部署に発注しちゃう。」


 こんな感じにわたしの武器が決まった。また、涼華の方も槍、ワイヤーを使って7回戦までフルコースで消化した後に、侑実の助言により刀、槍が強かったので中間の性能を持つ、薙刀を使う事となった。


 機体の方向性も彼女がわたし達の戦いを見て、決めてくれた。

 わたしが高速起動型、涼華がパワー型みたいだ。


 そして、わたしのバニルには少しだけ他の機体よりも強力な脚部ジェットパックが付くらしく、他の機体の2.3倍の高さまでジャンプできるらしい。まぁ、もっともこのジェットパックの目的としては跳ね上がるためではなく早く移動するためらしいんだけどね。速度を速めるために装甲は少し薄いみたい。

 涼華の方は他の機体よりも力が強く、より切りつけなどがしやすくなっている。こちらは中距離戦という事もあり、装甲が厚いらしい。


 機体の説明が終わったら彼女は、疲れ切ってそこにあった二人掛けソファに沈み込んだわたし達二人にびんに入った何かの飲み物を持ってきた。


「よし、じゃあお勤めも終わったという事で、二人に差し入れをあげよう。あ、一応大人の人たちには黙っといてね。あたしのポケットマネーだから」

「「あ、ありがとうございます」」


 そう侑実が言って、渡してきたものは‥‥フルーツ牛乳。


 温泉か。


 心の中で突っ込みながら飲んだら、一瞬前の自分の心を怒りつけたくなった。


 疲れ切った身体によく染み渡る。こんなにおいしかったっけ。ため息が漏れ出る。隣にいる涼華も同じ。


「おい‥‥しい‥‥です」

「なんだ‥‥これ‥‥」


 疲れ切った人みたいな感想だなぁ。フルーツ牛乳のお陰もあり、リラックスしきったわたし達の正面に侑実は座って、これからの予定を教えてくれた。襲撃のペースは分からないけど、大体一か月に一回ぐらいだからまだ猶予があるからここまでにこれを仕上げて‥‥とかそんな感じの話。

 で、最後にこの言葉で終わる。


「なんか、今日は色々あったし明日はどうせ筋肉痛で痛いだろうから明日はのんびり休む日にしたげる。これは咲久にも言ってあるから、ライダーチームも休みだと思うよ」


「え!」


 すごく嬉しい。となりの涼華を見てもさっきまでの疲れは吹っ飛んだみたいに見えた。明日は何話そう、とか今から考えちゃう。


「ありがとうございます!侑実先輩!」

「嬉しいです。ありがとうございます!」


 2人でお礼を言うと、彼女は少し照れながら自分たちも明日、訓練は休みで午前だけ開いているから午前中だけでも一緒に話したい、と言った。


 その後他愛ない話をしながら時間をいたずらに過ごしたが、ライダーチームの訓練終了時刻が近づいてきたので、それならば6人で一緒にご飯食べないか、というお誘いを受けた。


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覚醒戦機バニル――蛮鬼伝説―― 松浦 雀 @Ponkan23

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