File.11 先輩
「「すげっ!なんでも置いてあるじゃん!」」
わたし達は基地にある食堂へ、松本さんに連れていかれた。
そこでは自由に何でも食事を選択できるらしく、わたしは迷わず近くにあったお餅をお皿に取ると、席に戻った。
わたしの大好物はお餅である。そのまま食べても良し、しょうゆ、みそ、納豆、キムチ、柚子胡椒、きな粉、あんこ‥‥etcなんでも合う。
それぞれが好きなものを取ってきて一番最後に、欲張りすぎて何を取ればいいのか分からなくなり無難なカレーに落ち着いてしまった千夏が戻ってくる。
まだ松本さんの言っていたペアの人は来ていない。
「「いただきまーすっ!」」
みんなで手を合わせて一斉に食べ始める。
いきなり今日から仲良くしましょうって言われたって、すぐには雑談なんかを振ることが出来ないので自然、無難な食べ物ネタを振ろうとして松本さんのお皿を覗き込んだら、流石に驚きの声が漏れた。
「ん?どした?」
きょとんとした顔で首をこてんと少し捻る可愛らしいしぐさをして彼女はわたしに聞いてくる。
「いや、松本さんもまさかお餅を取っているとは思わなくて‥‥」
そう聞いたら、合点のいったような顔を彼女は浮かべる。
「あぁ。なるほど。確かにお餅取る人、少ないよね。‥‥って藤宮さんもそうなんかい!初めて何でも取っていいって言われてお餅取る人見たわ。感激。」
なんかお餅論争が始まったのでげんなりしたような顔で千夏が漏らす。
「えぇ‥‥よりによって最初の話題がお餅かよ」
「何を言う!お餅はコスパが良いんだぞ!たくさんの食べ方があるし、何よりおいしい!」
「そうそう!ここまでストライクゾーンが広い食べ物なんて他にはお米ぐらいしかないんだから!何と一緒に食べてもおいしいんだし」
鼻息を荒くして話し始めるわたしと松本さん。
「みんな何で焼いても変わらないとか言うけど、オーブントースターで焼いた時とレンジで焼いた時は全然違うし、フライパンでバターと一緒に焼いたってまた違ったものになるし。」
「あら、藤宮さんよく分かってるじゃない」
「松本さんこそ。本当に好きみたいですね」
同じ共通のものを好きとする特有の空気がわたし達の間に流れる。
このお餅論争のおかげで場の空気が(変に)なごんだせいか、松本さんも自然にわたし達の話に入ってきた。
5人での話がひと段落したところで(ちなみにお餅論争が終わった次の話題はうどん論争だった)、わたしの背中を向けている方向の、食堂の出入口から、声が聞こえた。
「ごめ~ん。待った?」
誰だろう。なんか一言も言葉を交わしていないのに不思議な空気を否が応でも感じさせられる。ほんわかしているけど、どこかはかれないような感じ。つまり物凄く変わった雰囲気の女の人。
松本さんが頭をあげると、お、と言った後に続ける。
「咲久、遅かったね。もう食べ始めちゃった。早く取ってきて食べよ」
「うん。わかった~」
彼女が食べ物を取りに行ったところで話再開。
「いまやって来たあの子が、あたしのパートナーをやっている飛鳥咲久って言うの。詳しくはこっちにやって来たらね。」
そう言っている隙にもうその話題の彼女は食べ物を取ってきた。早っ
「お前、ほんと取って来るの早いな。ちゃんと考えて取ってきてるか?」
「うん。きょうはこれかな~って思っちゃったんよ」
「お前なぁ‥‥
あ、そうそう。ここにいるこの子たちが昨日言った、新メンバー。自分で自己紹介してよね」
「ほぇーこの子達が‥‥
じゃあ自己紹介するね。わたしは
咲久って下の名前で呼んでいいよ~
ええっと‥‥好きな事は、ぼーっとする事かな。えへへ。あと、好きなものはゆみみん。あ、ゆみみんっていうのは
「最初っからそんなこと言わんでくれよ‥‥ってかそのあだ名だけは浸透させるの、やめてくれない?他のは何でもいいからさ。」
そう松本さんが言った瞬間に咲久の目がキラリと光る。
「え!何でもいいの!じゃあもっとすごいの浸透させにいこっかな」
「そ‥‥それはやめてください、咲久サン」
にっこり。
「まぁそれは冗談として、」
「冗談かよ!」
思わず突っ込み炸裂。
「ゆみみんのこと、よろしくね。この子、変に頑張っちゃうからさ。あと、松本さんって呼ぶのはやめたげて。下の名前で呼んであげるといいよ。なんか距離置かれているみたいで、後輩ちゃんになつかれたい侑実ちゃんはさみしいんだとさ」
「そこまで言わないでくれ‥‥恥ずかしい‥‥」
驚くほど耳真っ赤。
「あとねあとね――
「(恥ずかしさで見悶える)」
「昨日、夜にわたしの寝るところに潜って来たかと思えば、『明日会う子達、どんな子かな』なんて言っちゃったりしてそれはもうすごく楽しみにしてたんだよ」
さっきまでのわたし達と急接近しようとしている先輩としての威厳は残念ながら、もう無い。
でも代わりにむき出しになった彼女の人間らしさが、とても良いと思った。
そして、可哀そうだけど気になるからある事をやっぱり本人に聞いてみちゃう。ニヤニヤしながら。
「今の話、全部ホントですか?侑実センパイ」
顔の赤さを必死に隠そうと手のひらで隠しながら答える、松本さん改め侑実先輩。
「ぜんぶ‥‥本当です」
「そうでしたか‥‥それでは、よろしくお願いします、セ~ンパイ」
「よろしくです、センパイさん」
「お願いします。侑実先輩」
「同じく、よろしくお願いします。先輩」
みんなもわたしに続いて、ごあいさつ。という名前の先輩いじり。
「君たち‥‥ここじゃなかったら頭ぐりぐりの刑だぞーっ!」
そんなこんなでわたし達グループの中に侑実も入って来ることとなった。また、そのついでに咲久もわたし達と行動を共にすることになった。
「わたし達ちょっと話するから、先に戻っといて」
みんな食べ終わると侑実はそう言って咲久と二人で食堂に残ったままさっきの部屋で待っているよう、わたし達は戻された。
~~~~~~
「今日は、ありがとうな。いっぱい助けてもらっちゃった」
あたし、松本侑実は咲久と二人っきりになった瞬間、こう言った。
「どういたしまして。これぐらい、お安い御用だよ。でも、わたしは背中推しただけだよ。最後はゆみみんの力だけであの子たちと友達になったんよ。」
話は昨日へと戻る。
昨夜、後輩が出来る、という話をしたときにあたしはある心配を彼女に打ち明けた。
それは、どうやれば話しかけられるんだろう、という点。
彼女たちは多分午前のうちにはあの事を聞いちゃって、気分は絶不調間違いない。そんな人たちに対し自分は声をかけられるのか、ましてや彼女たちとの信頼関係を築き上げることは出来るのか。そんな不安が溢れだして止まらない。
元々、あたしは話好きではあるが最初の一言が声をかけるのにすごくためらってしまう。最初の掴みで失敗したら、と考えちゃうのだ。
それを、咲久はいとも簡単に解決してくれた。お昼を一緒に食べて、彼女がみんなの中にあたしを溶け込ませてくれたのだった。そして、少しだけ憧れていた先輩という立場になれた。
彼女のおかげで自分の立ち位置を確立できた。
「本当にありがとう。忙しいだろうにな。そろそろ戻んなきゃ。あいつらが待っている」
「ゆみみんの為なら地球の裏からでもやって来るよ。頑張れ。ゆみみんファイトー!」
先輩という言葉の重みを感じながら咲久への感謝を伝えると、みんなが待つ会議室へと戻った。
~~~~~~
「君たち、待たせたな。じゃあ午後の部を始めるとするか」
わたし達4人が指示通り先の会議室で待っていたら(さっきまでのあのカッコいい部屋の面影はなく、わたし達が最初に入った時と同じ内装になっていたから一瞬焦った)すぐに
気が付けばいつの間にか
そんなわたしの思惑とは別に侑実は話を続ける。
「さっき言った通り、これ以上ここで話をするには机上の空論と変わらなくなっちゃうから、訓練場まで移動するわ。そんじゃこの部屋出よう」
「え?なんで?せっかくここに戻って来たのに。まぁ分かりました。先輩」
どうやらここからは移動しなきゃいけないらしい。
一緒に食堂から向かえばよかったんじゃないのかとは思ったが、彼女なりの考えがあるのだろう。ここは従順に従っておくべきか。
侑実に追い出されるようにしてその会議室を出る。
鍵もかけないで彼女がその部屋を後にするが、一瞬の後にさっき要さんが電子銃の話をしていたのを思い出して納得がいく。
確かカードを誰も持たないで入ったら、撃たれるという話だったが、つまりそれはカードを認識しているという事。カードを持ったまま離れたら自動ロックがかけることぐらい造作もないだろう。
実際、少し離れたらすぐガチャッという音と共にロックされる音がさびれた廊下に響いた。
わたし達4人と侑実の合計5人の足音がカツーンカツーンと長い廊下に反響する。
緊張の為、そしてよく分からない場所なので心配でわたし達がカモの行列のように一列になって付いてきているのを見て、侑実はわたし達をリラックスさせようと話しかけてくる。
「なんかキンチョーしてるみたいだなあ。そんなに張り詰めなくてもいいよ。当分大人の職員とはすれ違わないだろうし。ワイワイガヤガヤ楽しく行こうや。
‥‥と言っても、流石にそれは無理な注文だわな。じゃあひとまず質問タイムにしてみるか。なんか気になる事でもある?何でも聞いて良いよ。」
その言葉に応えるように
「訓練場に行くって、なにするんですか?センパイ」
「あ、確かに訓練場について詳しくは言ってなかったな。そんじゃ今から行く訓練場でやる事について話すか」
そう言うと、彼女はこれからの事をざっくりと話してくれた。
まず、わたしと
「君たちチェンジャー部隊には訓練場での戦闘訓練で出てくる、エーテル立体模型を見てもらう。それを使いながら、デタックスの説明とか、詳しい戦闘についての話を実戦形式でレクチャーするよ。君たちには講師としてあたしが就くことになった」
そう言った後に今度は
「君たちライダー部隊には仮想コックピット空間でやる事を教えていきたいと思う。実はライダーがこのバニルにおいてはすごく肝心なんだ。神経切断の話とかある。
君たちへの講師はさっき会った、咲久がやってくれることになった。
あ、さっき言い忘れていたが、ライダー部隊のリーダーは咲久がやってる。彼女もまた、わたしと同じく相当長くパイロットをやっている。」
なんかめんどくさそうな話にもう頭が追い付かなくなってきた。
そもそも初陣は緊張であんまり何していたのか覚えていないのもあって、それに加えて自分で決めたとはいえ、まだ自分が本当にパイロットであるという事に実感がなさすぎるので左耳から入った情報が頭を素通りして右耳から出てっちゃう始末だ。
情報がこれ以上漏れないように右耳を手で塞いでみよう。
千夏を見てみたら、聞いた張本人なのにもう分かる事をあきらめてしまったみたい。何も聞かなかったふりでそこかしこに注意を向けている。まぁ確かに周りが気になるけどね。
隣を歩いていた叶にこっそり聞いてみる。
(ねえ、かなちゃんかなちゃん。簡単な話どういうことなの?全然分かんないんだけど)
(うーんとねぇ。私も良く分からないんだけどね、つまり訓練場とやらの場所で私達は別々に授業を受けるみたいな感じって事じゃない?)
なるほど。簡潔にそう言ってくれれば良いのに。
そう思っているうちにわたし達は長い階段を下りたが、その先にあるドアの両脇に2つの人影を認めた。
近づくにつれその影が誰だか分かっていく。片方はさっき別れたばっかりの咲久。もう一人が会津先生だ。
「先生も来てくれましたか。ありがとうございます。咲久もありがとう。」
そうお礼の言葉を侑実は述べると、わたし達は目的別に別れることとなった。
チェンジャーグループのわたしと涼華は侑実と会津先生に、ライダーグループの叶と千夏は咲久について行くよう指示される。
「じゃあ、二人とも頑張ってね」
わたしの、この言葉を皮切りにそれぞれがおもいおもいの言葉を述べてゆく。
「なずなも、涼華も頑張れよ。早く終わったら朝言ってたパーティーしようぜ」
「千夏、よく咲久先輩の言うことを聞くんだよ。」
「涼華はアタシのお母さんじゃないんだからそんなこと気にしなくていいの。ってかアタシは何歳だ」
「なっちゃん、無事でね。いっぱい、いっぱい終わったら話そうね」
「うん。無事って言うか、危険なことは無いだろうけどね。訓練なんだから。さっきの時間はあまりに短かったから、終わったらくだらない話もしよう。今日こそお餅が世界一の食べ物だってことを分からせてあげるよ」
「そ、それはいいかな‥‥」
「叶さんも大変ですね‥‥お疲れさまです」
「えぇ!涼華サン!」
「叶、おつ!」
「なんだとぉーーーっ!」
なんか別れる前に話が盛り上がってしまったが直ぐに会津先生の、時間なくなるからその辺にしとけー、といういかにも心がこもっていない注意によって打ち切られてしまう。
そして彼女たちと別れてわたし達はそのドアの中に入った。
「うわぁ‥‥なんか‥‥すごい」
「す、すごいですね‥‥」
中は、柔道場のような床と、明らかに鏡界を模した床の二か所のフィールドがあった。それぞれ大きさが約25メートル四方ぐらいで、四方にポールが建てられている。
入る前にやたらと長い階段だなあと思ったが、天井がその通りとても高かった。
で、そのフィールドの傍にそれぞれ人の高さほどもある馬鹿でかいコンピューターが設置されていた。で、モニターやらスイッチやらレバーやら何だか沢山これでもかとばかりについている謎の機械がそこに繋がれている。使う人はどんなバケモンだ。
驚くわたし達を傍目に、会津先生はその機会に迷いなく近づいて行き電源を起動した。バケモンここにいたのかよ。
ヴォンッという音と共に起動音がすると、彼女は近くにあった指紋認証システムに左手を当てながら、空いた右手でとてつもなく長いパスワードを打ち込む。
わたしの友人で確かなんかのナンバーロックを決める時に好きなウ〇トラマンの生まれた星の座標を入れていた奴がいたが、これのパスワードはそんな長さの数倍はある。
彼女がその機械を起動し終わると、なにやらキーボードをカチャカチャ言わせ激しくたたくと、そのフィールド内にデタックスの模型のようなものが現われた。
「これで私の仕事は終わりだな?あとは君たちでよろしくやってくれ。私はここでちょっと寝るわ。起こさんでくれよ。」
ふぅ、と息をつき彼女がその機械を離れ、近くに倒れ込むようにして寝っ転がると即座に寝息が聞こえ始めた。早っ!
「じゃ、早速訓練を兼ねた説明第二弾といきますか」
こう言うと侑実は先生を一瞥しただけですぐにフィールド内に入っていく。どうやらこの光景は見慣れたものらしい。
わたし達も急いで続いた。
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