File.04 復活(後編)
「実は、ハーメルンの笛吹き男の犯人が分かっているといったが、正確に言うと犯人はいないんだ。なぜなら、奴らは人じゃないからだ。
奴らは、金属生命体。事実上最強の生命体だ。
あいつらは、自分より強いものを何でも模倣する。そして、そのアップデート版となり、最強の座を維持し続けるんだ。
勿論、その姿よりも強いものが現れたら元の形態におさらばしてそっちに移り変わる。故に自分の本来の姿というものを持たない。
奴らはそうして生きてきたんだ。
んで、前の世紀まではあいつらは神隠しを模倣してハーメルンの笛吹き男となっていたんだが、ついにそれをも上回る究極の兵器が出来てしまったんだ。
その兵器名は、バーバリアン・アサ。
アサっていうのは、北欧神話で出てくる神族の名前だ。戦の神。
まぁ、こう言っても口だけじゃ分かんないだろうから、少しだけ学校で教えられない歴史の授業をするぞ。
今の日本には、町村が合計9あって、それらを合計した全人口は約5万人。これは知ってるよな?」
(作者注:申し訳ありませんが、一部、舞台設定を書き忘れていました。第一章の設定の所をご覧になりながら読み進めて頂けるとありがたいです)
わたし達の世界は、先時代の滅亡戦争によりほとんどの場所が草木も生えないような不毛地帯となってしまった。
また、その戦争で巨大殺戮兵器が生み出されてしまったことによりちょっとした小競り合い程度でも数万の死者が出るようになった。
人口が激減して、その生き残りが集まり村を作った。そうしてできたのがこれらの9都市だ。
世界で合計しても人のいる都市は113あるのみらしい。
先生が続ける。
「大戦での死者のうちの9割強を殺したのが巨大殺戮兵器、バーバリアン・アサだ。
こいつは、とにかくめっぽう強い。一機あれば一つの市なんか半日で焼け野原に出来ちまう。
この情報は間違いじゃないが、間違っている。どう意味かって言うと、これらはその金属生命体に”真似”されたんだ。
大戦での死者のうち、実際に2割は人間のせいだが、残りの7割はこの金属生命体のせいなんだ。
考えてみればハーメルンの野郎に巨大兵器が負けるとは思わねえよなぁ。奴らが目を付けないわけがなかった。
流石にこんな奴がハーメルンの野郎に負けるとは思わねえよなぁ。奴らが目を付けないわけがない。
そんで怪物が生まれちまったのさ。
あの金属生命体には、型番がつけてあって確認した順番で名称を付けている。
差し当たりアサを真似ているのは4番目という事で⊿型、デタックスと我々は名づけることにした。
こんだけ奴らは強いって話をしたが、あいつらはどこからでも攻めてこられるほど、万能ではない。世界で三か所しか攻めてこられるゲートが無いんだ。
そのうちの一つ、西浦ゲートがこの山のてっぺんにはある。
そこの防衛ラインとしてここに研究施設という名前の基地が出来たってわけ。
でもどうやって立ち向かうのか、分かんないだろうから君たちに良いものを見せてやる。」
そう言って会津先生はパイプ椅子をきしませ立ち上がり、また部屋を出た。わたし達もそれに続く(尤もわたしはベッドにいるままだが)。
会津先生に連れられて案内されたのは、さっき廊下から見えた基地のようなところだった。
こちらはさっきとはまるで違った厳重なロックシステムで、カードキーの他に静脈認証装置までついている。
ピーッという認証音と共にロックが解除される音がして、その音が合図であったのかのように重厚なドアの開くモーターの唸り声が聞こえる。
ドアが完全に開き切ったところでわたし達は中へと入った。
そこの基地では、先ほどと変わらず轟音が鳴り響いている。また、ベッドからガラス窓を覗いて、見ることのできる角度は限りがあったのでさっきは分からなかったが、作業服姿の人たちが何人も走り回っている。
踵を返し、振り向きざまにわたし達全員がちゃんとたどり着いたのを確認すると、彼女は口を開く。
「見ろ、あれこそが私たちのデタックスに対抗するための切り札、バーバリアン・バニルよ!」
彼女のビシッと伸ばした指先のその向こうに目を見やると‥‥
巨大ロボがいた。鉄らしき装甲で覆われている。大きさは20メートルぐらいだろうか。胸が大きく前に張り出している特徴的なボディで、なんか華奢だが滑らかな体表で
デタックス‥‥
それ以上考えようとしていたら急に胸元がつっかえてきて、口の中が酸っぱくなってきた。
その耐えられない衝動に抗おうとしたが体は言うことを聞かず、直ぐに限界が来てしまう。
喉が熱くなったかと思うと同時に咳き込むと、口に何か生暖かいものが逆流してきた。
げぽっ
という音と一緒に、それはくちびるより次から次へと流れ出すと皮膚をつたって、容赦なくわたしの着ているらしい服までもじんわりと暖かく湿らせていく。
「なずな!?」
「なずなさん!」
「なっちゃん!」
三人の声が遠くに聞こえる。
あぁ、わたし、吐いちゃったんだな。
そう察する。
一週間何も食べなかったので勿論、胃には何も入っていなかったのだろう。
もどしても、もどしても、薄い黄色の酸っぱい液体しか流れ出してこない。
これが胃液というものなんだろうか
だが、そんなことが分かったところで、わたしの身体の反応は止まらない。
咳き込めばその分だけ口から流れ出してしまうからと、我慢しようとしたがそんなのは無謀な試みでしかないと一瞬の後に痛感する。
我慢すると確かに少しだけは効果があるが、行き場をなくしたそれらが肺に入ったりして焼けつくような痛みが発生する。
せめてみんなの前でこれ以上醜態は見せたくないと思い、何とか口を無理矢理閉じてみたが鼻の奥の方に入り、こちらもこれ以上耐えるのは危なそうだと気付き、口を再び開く。
そうすると今度は口に入っていた全ての黄色い液体が全て溢れ出す。
肩周りから、胸まで全てがぐっしょりと濡れている。
胃液をすべて出し切ったのだろう。
咳き込んで何も出なくなっても、わたしのどうしようもない吐き気は収まらず、よだれがだらしなく口から垂れているのを感じるがわたしはまだ自由に身動きできる状況ではないので拭う事さえも出来ない。
それでもわたしの身体は終わりというものを知らないみたいだ。
舌を出して、だらしなくよだれを垂らしながら醜くあえぐだけ。
駆け寄ってきた千夏、涼華、棗の三人が背中をさすってくれているが、まったくと言っていい程効果がないみたいだ。
ただ、こんな時間も永遠には続かない。
私の吐くのが幾分か落ち着くのを見計らい、先生がベッドの上にいるわたしの隣に立ちはだかると‥‥
結局、わたしは(この状況だから仕方ないとはいえやっぱり割り切れるものではない)みんなの前で服を取り払われ、汗と胃液とよだれと涙、それからよく分からない体液でまみれた、きたない身体を先生に拭かれることとなってしまった。
和風美人看護婦さんAと共同で先生はわたしの上半身を完全に起こすと、わたしの着ている入院着らしき服を脱がしはじめた。
私の体液のせいでぴったりと張り付いた布が落ちると、
(一週間何も食べずにいたからなのか、それとも元々だったのか、はたまた例の殺されかけた後に行われた謎の処置だかなんかのせいなのかは分からないが)
華奢な肩と、浮き出た鎖骨、そして薄く焼けた健康的な白い肌が露わになる。
それから2人はわたしの背中に手を廻すと、ブラのホックまで外した。
これで、わたしの上半身は一糸まとわぬ完全なる裸体となり、それをみんなに見せることとなってしまった。
改めて考えると恥ずかしいが、その時のわたしはそんな事を考えることが出来ない程元気がなかった。
しかしながら傍目に、大変な状況という事は分かっていながらも3人ともわたしの裸に目は釘付けで、話題も自然そのようなものとなっていた。
「なんか叶の隣にいつもいることもあって、自然に比べちゃってたから小さく見えたんだろうと自分では思っていたけど、やっぱり本当に胸ちっさかったんだな」
「千夏。それあなたが言えることじゃないでしょ」
「うぐっ」
「ふふっ。でも、なっちゃんの肌、きれいだね」
「確かに。本当にアタシたちと同じように過ごしているのかな」
「千夏と違ってお風呂でよくスキンケアしているからじゃないの?」
「いや、アタシだってちゃんと毎日風呂場では3分かけて体洗ってるぞ!」
「ちなつ、それはほぼ洗ってないって言うんだよ」
「私はお風呂あがってからも色々肌のお手入れしています」
「お前ら、本当に人間か!?」
こういった具合に3人がわちゃわちゃと話している間に、看護婦さんと先生がわたしの上半身をきれいなタオルで拭いていく。
この頃には、わたしの呼吸も安定してきて口元から垂れていたよだれも、もう無い。
真っ白だったタオルが沢山の分からない私から出たものを吸い込み、少し黄色く染まる。
そうやって、やっとこさわたしを拭き切ると今度はアルコール除菌シートのようなものでわたしを隅から隅まで拭き始めた。
それが終わってから、また新しい服を作業員の人のうちの一人に言いつけて持って来させると、わたしにそれを着せてきた。そして、申し訳なさそうな顔をして、会津先生が話す。
「ごめんな、藤宮ちゃん。トラウマになっている率も考慮はしていたつもりなんだが、先の話を聞いても大丈夫だったから、ここまでは良いかと思ってしまった。担任もしているのに教師失格だな」
そう言って少し苦しそうに笑い、みんなの方を振り向くと
「みんなにも悪かった。あまりにも急すぎる話だったな。
つい一週間前までは普通の生活をしていたんだからな。今日はここまでにすることにするよ。
積もる話もあるだろうし、今日はその4人で相部屋にしてやるからゆっくり休め。
あとは、何か分からないことがあったらそこの
彼女が分からないことはほとんどが私も分からない。」
と、言いたい事だけを言って彼女はさっさとさっき入ってきたドアへ向かい、ロボットが整備されている基地から出て行ってしまう。
ガシャン、と音を立ててドアが閉じるとわたしのベッドを押してきた和風美人看護婦さんAが口を開く。
「皆さん、よろしくお願いします。
私がいま会津先生のおっしゃった桐山要と申します。私を呼びたかったら要さん、と気軽に呼んでください。」
その言葉に、弾かれるようにして千夏、涼華、棗が挨拶を返す。
「「よろしくお願いします」」
「よ、よろしくお願いしまう」
棗が噛んだ。
そんな彼女にもニコリと微笑むと、
「フフ、それでは皆さんも相当疲れていると思うので、早速今日おやすみになる、部屋へこれから案内しますので、ついて来てください。」
と言い、わたしのベッドをさっき通ったドアとはまた違った方向のドアに押してゆく。
またもやカードキーのようなもので開けると、そちらへとわたし達を案内していった。
通されたのはさっきまでの殺風景な基地の光景と違い、ビジネスホテル(今となっては存在しない過去の遺物だが)のような部屋。
大きなベッドが3つ置いてある。
その日の夜はみんなで沢山話した。
~~~
その頃。
彼女たちが再開を喜び、楽しく話をしているその地下30メートルほど下でひっそりと一人の少女が目を覚ました。
ウゥン‥‥
少女は目を覚ます。
ここは‥‥何処?
‥‥なっちゃんは?
今の私のままでは何も分からない。
少女は考える。
よし、状況をまとめてみよう。平常心平常心。
私は
大好きな幼馴染、なっちゃんがよく分からないロボットに攻撃されているのを見て、居ても立ってもいられずに走っていっちゃったんだった。
で、あえなく私も攻撃を受けて‥‥それからはよく覚えていない。
ただ、なんか別のロボットが助けに来てくれて、それによって私となっちゃんは運び込まれたような気もするがもうそこの方の記憶は曖昧で今の私には参考にならない。
少女は推理する。そして、新たな事に気が付く
‥‥ん?
そこまで考えていて急に気が付いた。
なんか私、今浮かんでない?いや正確に言うと水の中に、だ。
口元にはマスクみたいなのがつけられていて、そこからホースが伸びているらしい。
自分の置かれている立場を見たいが、メガネは無いし第一、真っ暗で何も分からないから手で触れてみて触覚で感じる。
試験管の内側に入ったような滑らかなガラスっぽいものの中に自分はいることだけは、かろうじて分かった。
そして頭脳明晰な彼女はその少しの情報と、持っている限りの記憶だけで悟ってしまった。
どうやら私達は相当大きな事件に巻き込まれたらしい、と。
そう悟ると、これ以上は何も分からないと潔く諦め体の欲するまま意識を闇深くに沈めゆくのであった。
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