File.04 復活(中編)


「あ、なずなじゃん!心配したぞーっ!」

「なっちゃん‥‥お帰り」

「薺さん、おかえりなさい‥‥って、二人とも先ずはその涙と鼻水拭いてよ‥‥」

「涼華だって泣いてるじゃんかよぉー だって、だって、死んだと思ってた、なずなが生きてたんだよぉ

 泣かないわけないじゃん」

「みんな‥‥」


 涙と鼻水にまみれた千夏ちなつ涼華すずかなつめがいた。


 そりゃそーだ。わたしだって死んだと思ってたんだ。しかもあれから一週間もたっているし。いくら死んでいないと聞かされてたとしても、心配しないわけがない。

 本っ当に生きててよかった。


 ベッドにいるわたしに抱きついてきて再開を喜ぶもつかの間、会津先生の声により遮られてしまう。


「それでは、再会の喜びもそこそこにして、みんなに重要なお話がある。心して聞くように。」


 そこにポツンとあった書類だらけの机にある、錆だらけでギシギシいうパイプ椅子を引いてドカッと座ると一寸長くなるから君たちも座りなさい、と三人に座るよう促してから先生がまた口を開く。


「みんな、神隠しって知ってる?」


 そんな唐突な言葉から先生の説明は始まった。


「神隠しって、日本に古来から伝わる、あの急に人がいなくなっちゃう奴ですよね。知ってるに決まってるじゃないですか。」

 気分だけなら(体調はまだ復活はしてない)元気いっぱいなわたしが答える。


「そうそう。その神隠し。そんじゃあ、ハーメルンの笛吹き男は知ってる?」


 聞いたことだけならあるかもしれない。でもよくは分からないから言わないでおく。3人を見やっても、千夏と棗はさっぱり分からん、といった顔だ。


「私、知ってます。確かヨーロッパの方で15だか6世紀ごろからある、子供大量連れ去り事件の昔話のことですよね」


 涼華は知っていたらしい。涼華の言葉により、わたしも思い出した。


 確か、あらすじはこうだった。


 中世の、ネズミの被害に悩まされているある都市に、奇妙奇天烈な格好をした笛を持った男がやって来た。

 その男が言うには、お金をくれればネズミを全部退治してくれるらしい。

 半信半疑ながらも村人たちは夢中で飛びついた。


 すると、男は持っていた笛を吹き始めた。男の笛の音色に誘われて、ネズミたちが至る所からやってきて、男の下に集まる。男は笛を吹いた状態で川に入るとネズミもついてきて、おぼれ死んでしまった。男は報酬を貰おうとするが、急にお金が惜しくなってきた村人たちは報酬を払わなかった。


 そして、あるお祭りの日に大人たちが出かけている隙に男は笛を吹き始める。その笛の音に誘われるようにして、今度は子供たちが後ろをついてきた。その数時間後に大人たちが祭りから帰って来た時には、外で遊んでいる子供は一人もいなかった‥‥


 という様な話のはずだ。


「おぉ。良く知ってたな。でさ、突然なんだがこの二つってすごく似てないか?」


「‥‥確かに」

 先生の言う通り、二つは相当酷似している。大人がいない所で、子供がいなくなる。

 でも‥‥


「確かに似ていますが、それは遠く離れているからこその物語上の偶然の一致じゃありませんか?」


 涼華さん、まさしくその通り。

 会津先生は少し悩んだ顔をした後、衝撃の話を始めた。


「この両者が物語だったら、偶然の一致で済んだんだよ。でもな、これが現実だとしたら?」


「現‥‥実‥‥?」


「そう、現実。現実だとしたら、すべてが変わって見える。

 神隠しってのは、子供1.2人がいなくなるだけだろ?

 それに比べてハーメルンの野郎は町の子ども全員。

 まぁ正確には一人だけ家に引きこもっていた男の子は助かったらしいがな。」


 そう言って、近くにあった紙コップの水をグイっと一息で飲むとさらに続ける。


「実はこれ、ハーメルンの奴はもう犯人が分かっているんだよ。」


 は???


「ただ世間にはこんなことが漏らされたら混乱の渦に飲み込まれるからな。

 それぐらいにこれから話す話は強烈だ。

 お前たちも覚悟して聞いておけよ。」


 は?????


 わたし達にこれでもかと疑問符を浮かべさせた後、先生は静かに話し始めた。

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