File.02 襲撃(後編)
「あれ?なんかその子、具合でも悪そうなの?」
「いや、具合が悪かったり怪我しているとかそういう事じゃなくって‥‥なんて言うんだろう。あえて言うと、なんか怯えてるみたい」
「怯え?」
「うん。さっきから震えている。」
怯え。これも何か千夏が空耳だと思った何かの影響ではないか。
そんなことを、ちょろっと思ったけどその時のわたし達は何の気にも留めなかった。
でもどうしてだろう。なんか少しだけ胸にしこりが残っているようなこの感覚‥‥。ちょっと胸がざわざわする。今となってはもう遅いがこの時、もう少しだけでも深く考えていれば未来は変わっていたはずだ。
能天気な千夏が考えなしの言葉を言う。
「駄菓子屋のおばちゃんから離れてるからさみしいっていうか‥‥そんな感じじゃないの?アタシもさっき引っ掛かれたし。ほら、ここ。」
前言撤回。能天気とかいう次元じゃない。いやいやいやいや、そんな事があったんなら早く言いなさいよ。しっかり血がぼたぼた出てるし。気持ちは分かるけどね!?しかも言わなかったら、すz‥‥
「そんな大事なことなんで言わないのっ!ほら傷口出して。絆創膏貼ったげるから」
思った通りちょびっと泣きそうな顔をしながら怒り出す涼華ちゃん。少しだけ怒ると怖い涼華の小言を言われそうになっている千夏を助けようとしてか、はたまたただ面白いからなのかは今となっては分からないが棗がまた一言爆弾を落とす。
「すずちゃんも、ちなつのこと大好きだよね」
「そうよ。私は千夏のことを好き。何か悪い?」
あっ。と気づいた時にはもう、時すでにお寿司。じゃなくて遅し。
怒ってたって言うのもあって勢いで出してしまった言葉を、自分で反芻しているのがもう目に見えて分かる。なにしろ綺麗に顔の下から真っ赤っかになっているから。なんか今日は顔が真っ赤になるのによく遭遇するなぁ。
「いや、家族として当然でしょ‥‥ごにょごにょ」
うーん。涼華ちゃんよ、もう無理があると思うぞ‥‥なんて思ってたら彼女もまた、さっきの叶と同じように頭から湯気を出してしまう。さっきまでの怒っていた威勢はどこに消えた。
まぁそんな感じで千夏の怪我の治療も終わり(引っ掻かれた傷跡は長さ10㎝位と予想以上に立派な怪我だった。ホントに次からはすぐ言いなさい)、5人で駄菓子屋に行くためにベンチを立った時。
~~~
この時が、完全に歯車が動き出した瞬間だった。もしもこの時このタイミングで席を立たなければ、今日はちょっと変な日だったねで終わり、また別の未来になっていたかも分からない。
しかし、運命は残酷である。
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「なんかやっぱり今日の、この山どこかおかしい」
千夏が変なことを言い出してきた。
「ちなつ、野生児だもんね。なんか野生の勘みたいなもの?」
「いや、違うっ!」
いつになく鋭い声で話す千夏。でも、なんかおかしいって言われても、どこが?って話だし。でも千夏の口調的に冗談とは思えない。そして、千夏が口を開いた。
「だってここの山道、いつもなら野良猫の溜まり場になってるでしょ?だからわざわざ暑い中登って来たんじゃん。なのに、ここにはこの脱走猫一匹しかいないんだよ!?」
言われてみてやっとわかった。わたしの胸のざわざわの正体が。なんかいつもとここの光景まで違って見えると思ったら、動物がこの猫一匹しかいない。他のメンバーを見てみても皆一様に、はっと気づいたように動きが一瞬止まった。
「確かに。私もなんか変な感じがするとは思ってましたが、まさかそんな‥‥」
「動物たちはどこに行ったの?猫はおろか、いつもうるさく鳴いているカラスまでいないなんて。」
「昨日までは‥‥いた‥‥」
そうなのだ。昨日も学校からの帰り道で駄菓子屋に寄り道するために山道を通ったが、いつも通り沢山の動物がいた。それが急にいなくなったという事は‥‥
「地震でも起きるのかな」
叶から、普段からは想像もつかないようなオブラートにも包まないどストレートな意見が来た。そして、どうやらわたし達の考えていたことは同じだったようだ。普段だったら、わーい、わたし達仲良しだねー、で終わるが今回に限ってはそんな悠長なことを言ってられない。
はるか昔から、動物は野生の本能に従って地震などの天災から逃げるために一夜にして消えてしまうなど有名である。だが、実際に目にすると本当にそれは異様な光景であった。
「と、とにかく逃げよう。」
わたしがそう言っても、誰も恐怖によって動くことが出来ない。ひとまず、落ち着かせるために隣で硬直している叶の、猫を抱いていない方の手をわたしの両手で包み込むようにして握る。
はっとした表情に戻り、叶のフリーズが解ける。
今度は2人で、残りの3人を正気に戻してひとまずここから逃げようとした。
その瞬間。わたし達の運命の時計の針は動き、時を刻み始めることとなった。遠くから、形容しがたい、あえて言うならばゴゴゴゴとでもいうのだろうか。地鳴りというには大きすぎる音が遠くから聞こえ始めた
「地震だっ!!」
ある意味、わたしの地震だと思ったのもしょうがなかったかもしれない。なぜなら、現実があまりにも現実の斜め上を行ったもので、非現実的過ぎたからだ。但しまだこの頃の私は実態を把握しきれていなかった。
しかし、その音が近づいてくるにしたがってその予想が外れたことが分かった。なぜかよく聞いてみると、地震というには音源がちゃんと存在する。地震は全方位から音が来るはずなのに。
そしてもう人と電話で話すことは出来ないぐらいの轟音になって、初めて音源を視認し少女たちの顔は凍り付いた。
―――巨大な‥‥ロボット?―――
そのロボットらしき物体は少々わたし達が一般に聞くロボットとは風貌が全くと言っていい程異なっていた。なんか‥‥そう。重力を度外視したような見た目。
頭らしき部分は胴体?の上にある事はあるが、前に大きく張り出している。そして胸と思しき場所には大きな穴が開いている。そして、両腕はほぼ二の腕は見えないほど短いのに肘から手までが異様に長い。そしてロボットアームのような手には大きなかぎづめが三つ。そんなロボットが、上半身とは見合わないほど細い足によって支えられている。
そして。
「デカい‥‥」
これには、さっき地震だと思った時には反応出来たわたしも圧倒されて、即座には動けなかった。なにせ30メートルくらいある。誰もが度肝を抜かれていた。そりゃそーだ。誰だっていつも通りの日常を送っていて、急に目の前にロボットが現れたら驚くだろう。
0コンマ何秒かで正気に戻ると(あと何秒か遅かったら全員して仲良く三途の川を渡っていただろう)、わたしは思わず叫んだ。
「逃げろっ!」
今度は他のメンバーも正気に返るのが早かった。わたしは、お昼食べた焼きそばパンの多量の糖分と引き換えに頭の回転をマックスまで速くして、どの方法で逃げるのが一番全員の生還率が高いのかを考えて結論を出した。
「よし、次の分かれ道で二手に分かれよう。わたしとかなちゃんと千夏で左のコース、涼華ちゃんと棗で右を頼む。集合場所は今から行こうとしていた駄菓子屋で。早く着いた方が通報しよう。文句は後で聞く。今は逃げる事だけを考えて。」
「なずなさんが言うなら分かりました。じゃあ、なつめさん、行きましょう」
流石、涼華ちゃん。物分かりがいい。兎に角、こうしてわたし達は別れた。
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