File.03 鬼事(前編)
はぁっ はぁはぁ‥‥
わたしと
わたし達は左の山道を選んだ。その理由は単純明快。右のコースの方が走り易くて駄菓子屋までの距離も少し短いからだ。
涼華は運動全般が苦手だし、棗も棗で短距離はうちのクラスでもトップレベルで速いが、長距離はめっきりダメ。
こんな二人に木の根っこが飛び出しているような左の山道なんて走らせられない。決して右側が走りやすいとは思わないが、左よりは良いだろう。
かと言って、わたし達三人も悠長に安心することは出来ない。
確かに、わたし達は三人とも体力テストでぶっちぎりの評価だが(まぁそれぞれそれなりに苦手な分野はあるが)、なにせ本当に走りにくい。
気を抜いたら転んでしまいそうだ。
巨大ロボットはどうしたかというと、二手に分かれたのを見るや(どこで見ているのかは分からないが)少々悩んだように見え、そしてわたし達の方を追うことに決めたらしい。
奴は一歩が10メートルちょいくらいだが、次の一歩を踏み出すまで2秒くらいかかる。
そしてわたし達との距離は50メートルほど。
これなら逃げ切れるっ!
と思った瞬間、わたしの身体は自由を失った。すべての動きがスローモーションに見える。わたしの目の前に地面が迫る。そして、一瞬ののちにその理由を知る。
右足が木の根っこに躓いたのだった。
「なずなっ!?」
「なっちゃん!!」
2人の悲痛な叫びが聞こえる。
大丈夫、今起き上がるから、と言い起き上がろうとするも右足に力が入らない。それどころか全身に激痛が走る。
「っつ‥‥」
苦痛に顔を歪めると、二人がやってきてわたしの両肩をそれぞれの首にかけて走ろうとする。
「あと500メーター位だからこれで我慢してくれ。ついたら手当てしてやっから」
「なっちゃん、大丈夫?あともう少しの辛抱だからね」
そう言っている隙にもロボットは待ってくれない。距離を着実に詰めて来る。
そしてもう残すところ25メートルとなってしまった。二人はわたしという荷物を抱えながらも全速力で走る。走る。走る。
そして駄菓子屋が目視できるほど開けたところにたどり着いた。
「あともう駄菓子屋までちょっとだ!」
千夏が叫ぶ。
根拠は無いが、その時のわたし達は駄菓子屋までたどり着けばそのロボットはもう追ってこない気がしたのだ。
ロボットが木で囲まれた山道を抜け、開けた場所にたどり着いた。すると、今まで使ってこなかったのでわたし達も存在を忘れていた部位を動かし始めた。腕だ。その腕をこちら側に向けて‥‥
「「え?」」
叶と千夏の声が重なる。
あっ、と思ったその瞬間、わたしの身体は宙に浮いていた。いや、正確に言えばそのロボットの手に捕まえられていて、ビル2階ぐらいの高さで足をぶらつかせていた。
わたしはこのまま地面にたたきつけられて死ぬのだろう。自分の生に諦めをしたわけでもないが、ただ冷静にわたしはそう悟り、精一杯叫ぶ。
「逃げろーーーーーーー!」
そう言っているのに千夏も叶も恐怖と戦いながらもその場に立ち止まって見ている。
「わたしは大丈夫だから逃げてくれーー!頼む!千夏、かなちゃんを連れて逃げて!」
わたしの言葉で正気に戻った千夏はぐずる叶を無理矢理に連れていく。
これで良かったんだ‥‥
そう、自分では思った。しかし、そう思えるとはわたしも自分の状況をしっかりと理解できていなかったのだろう。
そうこうしているうちに、頭の中で小学校からの思い出が再生されていく。
校長の頭の残りの髪の毛の本数を友達と当てっこしたこと、給食のおかわりをめぐり、みんなでじゃんけんしたこと。
これが走馬灯か。なんて思ったりする。
しかし、このロボットはあろうことかその回想さえも力ずくで打ち破ってきた。
わたしの走馬灯は両脚の痛みと、共に聞こえた形容しがたい音、あえて言うならば、「ぶちっ」といった音だろうか、により打ち切られた。
ロボットの強い力で握りしめられているので少ししか動けないのを頑張って身をよじり、見ると衝撃の光景が見えた。
どう見ても膝の下にあるはずの物が‥‥無い。
代わりに白いものが見える。そしておびただしい量の赤いものがどくどくと流れている。
‥‥血?
そして一瞬の後に激痛が体中を走る。
わたしは耐えきれずに叫んだが、それも声にならない声でしかなかった。
よく本とかで、身が千切れるような痛み、とか言うがまさしくその通りだ。
それだけではロボットは攻撃をゆるめてくれない。
今度は、今まで強い力で握られていたと思うのがウソと思えるぐらいの圧迫感が二の腕ごと両脇から襲ってくる。
痛い、苦しいを超えた何かがやって来る。わたしの身体が全身で悲鳴を上げている。
遂に、ゴリッという鈍い音と共に両方の二の腕が完全に粉砕されたのが感覚として分かった。
それでもロボットは無情にそのまま握りしめてくる。
叶を遠くに行かせて良かった、と思う。こんな光景を見せちゃったら、わたしのことを心の底から心配している彼女は一緒に死ぬ、とでも言うだろう。
そして、こちらもわたしの身体の我慢の臨界点に達しついにその時がやって来てしまう。
ばきゃっ
という様な音と共にわたしの胸に、あってはならないものが見えた。
セーラー服をも突き破り、わたしの胸の内側から飛び出ていたのは‥‥
肋骨。
これにはたまらずわたしも叫ぶ。しかしながら口から出てきたのは声ではなく、血反吐。口元からあふれんばかりに次から次へと流れだしてくる。
口だけではない。目、鼻、ありとあらゆる穴という穴から。
あっという間に着ている、白がベースの制服が真っ赤っかに染まっていく。
もう感覚などあって、ないようなものだ。
いつの間にやらわたしは地面に降ろされていたらしく、自分の血反吐が辺りを
だが、そのロボットがわたしをいたぶるのはまだ続きそうだった。
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