File.02 襲撃(前編)

 そして放課後。


 わたし達は炎天下の山道をひたすらに歩き続けていた。

 なんでか分からないけどわたし達は猫探しをしている。


「あ~あっついよぉ~もうギブ。猫探しなんて終わらせようよぉ~」

「だーめっ!捕まえて来たら一人当たりアイス10本でも食べられるんだから」


 きっかけはこうだ。学校帰りによく寄っている駄菓子屋の前を通ったら、いつものおばちゃんに呼び止められた。簡単な話、逃げてしまった駄菓子屋の看板ねこ、「猫」を捕まえて来たら一人当たり1000円分のお菓子を何でもおごると。


 最近金欠気味の千夏(ちなつ)はすぐ飛びついた。


 どこに行くのかもまだ決めていなかったわたし達だったが、外でねこ探しなんて暑いからいやだと全員して渋っていたのに、いっつもわたし達の買い食い中に、お菓子を買わずにずっと猫を可愛がっている叶と、お菓子に釣られた千夏に押し切られる形でねこ探しを始めて現在に至る。


 お菓子何でも1000円分はこの歳でも嬉しいんだけど、なにせ暑い。凄く。休憩の話をそろそろ誰か切り出してくれないかなぁという願いを込めて言ってみる。


「それにしてもなかなか猫いないねえ」


「なっちゃん、さっきから文句ばっか。フフフじゃあそろそろみんなもバテてきたという事で近くの屋根でもあるとこでひと休憩しよっか」


 お!よく言ってくれました、叶(かなえ)ちゃん。まさに聖母のような優しさ。

 と、そんなまぁわたしの下心までをも見透かしてなのか近くのベンチの下を覗き込んでいた涼華(すずか)が言ってくる。


「叶さんは薺(なずな)さんの奥さんみたいによく気が付きますね」


 奥さんとはよく言ったものだ。じゃあわたしは旦那さんなのかという下らない突っ込みで返そうと思ったが控えて、否定するだけにしておく。


「アハハ。そんなことないよ。ね、かなちゃん。‥‥‥‥‥‥あれ?大丈夫?」

「う、ううううん。だっだっだっ、だっ大丈夫」


 なんと叶は涼華の冗談でさっきまでの聖母と見まがえるほどな余裕たっぷりの顔は消え去り、今にも頭から湯気を出しそうな勢いで真っ赤になった顔がそこにはあった。


「かなちゃんは、なっちゃんと将来結婚するんだから以心伝心は当たり前だよ!」


 なんか面白そうだと思った棗(なつめ)まで(叶いじりの)会話に参加してきた。叶はというと、耳まで真っ赤になっている。


「いや、わ、わた私はそんなわけじゃなくて‥‥‥‥」

「おー。可愛いぞ。よしよし」


 あまりの可愛さの暴力に胸がキュンってなってきたので、わたしは叶をぎゅうっと抱きしめて頭をうりうりして可愛がっていると、一人黙々と(お菓子のために)猫探しをしていた千夏が遠くから叫び声を上げてきた。


「おーい。そこの夫婦さんよぉー。お2人のラブラブっぷりはよく分かったからちょっと手ぇ貸してくれないかねぇ。そしてラブシーンを見て見ぬふりしているそこのお二人さんもさぁ」


 なんと千夏は執念で単独猫探しを成功させて見つけたらしい。そしてついでに、ばっちりとさっきの会話の現場も見ていたらしい。うひゃー 恥ずかしい‥‥


「あいよー」

「わかりましたっ」

「はーい」

「分かったー」


 返事だけしっかり返してのんびり動き出す。

 千夏のちょっと、という言葉は絶対長時間かかる前触れなんだよなぁ。まぁここまで来たんだったらいっそのこと、さっさと終わらせて1000円分のおやつを手にするまで、休憩はお預けとするか。


「見てよ。せっかくお菓子‥‥じゃなかった。猫を見つけたのに木の上に登ってて。だから、登るから手伝ってよ。」


 わたし達が集まってきた途端に千夏が話し始める。どうやら彼女は現物の猫を見てもそれでもなおお菓子の方が勝ってしまうらしい。


「あー。まったく。手伝うよ」


 わたしが同意を示すと、叶、涼華、棗も同じように首を縦に振った。


「よし、じゃあみんなの同意も得られたことだし登るとするかぁ」

「千夏はどうせ同意が得られなくても一人でやるよね」

「うぐっ」


 おおっと。遂に涼華の鋭い突っ込みが入った。なんかすごい姉妹って感じがするやり取りだなあ。羨ましいよぉ。まぁわたしにはかわいいかなちゃんっていう妹(みたいな存在。本当に妹だったら良いのに‥‥)がいるもんねーっだ。



「‥‥‥‥あれ?」


 木に登るため、制服を腕まくりしていた千夏がまた声を上げた。


「ん?どしたどした」

 わたしが聞いてみてもいつになく真剣な表情で、ちょっと静かに、と言い耳を澄ませる。

 わたし達も彼女に倣い耳を澄ませてみたが、何も聞こえない。少し経ってから


「いや、何でもなかったみたい。なんか聞いたことない音が聞こえたような気がしたから。聞き間違えかな」


「なぁんだ。じゃあさっさと猫を捕まえて冷た~いアイスでも食べようぜ」


 棗も言ったので、千夏はしょうがないなぁとでも言いたげな顔で木に登り始めた。


 そんなこんなで千夏が猫を捕まえてきたんだけど、それにしてもこいつ、本当にサル目ヒト科ヒト属ヒト♀なのだろうか。歩くのと同じくらいの速さで木に登りやがる。実は猿でしたー、なんて言われても驚かないだろう。


 まぁ兎に角捕まったんだから

「「そろそろ駄菓子屋行かない?」」


 あっ千夏とハモってしまった‥‥


 しまった‥‥考えてみればこいつはお菓子のためだけに頑張ったんだ。言わないはずがないじゃないか。


 あーもうっわたしのバカッ!


 いつもならここで叶の的確な優しい突っ込みが入るのだが、無い。逆に心配になって、振り返って見ると叶はさっき捕まえた猫を心配そうにのぞき込んでいる。

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