File.07 初陣
わたしは瞬時にデタックスとの距離を詰めるとコクピット内には誰もいないので使えない、と取り外された腰にあるはずのミサイルパックの代わりに付けられたホルスターから拳銃を抜き取り、デタックスの中心線を狙って引き金を引いた。
轟音が鳴り響く。
それと同時にわたしにも衝撃が跳ね返ってきた。
そのまま走り去りながら大きくターンをし、デタックスにどれだけのダメージが加わったかを確かめるために正面にまた回り込んだ。うまくいけば、あの装甲にひびぐらい入っただろう。願わくば穴ぐらいあけられているかもしれない。
かかっていた白い靄が晴れてきた。
だが、見ると驚愕の事実が分かった。
うそ‥‥‥‥‥‥だろ?いや、うそだと言ってくれ
奴の胴体を見ても、穴どころかひびもない。傷ひとつついていない。いや、言い直そう。うっすらとした傷が一つだけついている。
傷ひとつついていないなら、外したのだろうと思えるがどう見てもさっきは無かった傷がついているのでその線は無い。ただ、本当に頑丈だったのだ。
さっきまでの少しでも勝利を確信した頭には、その言葉の代わりに絶望の二文字。
これなら
そして気が付く。
銃がダメならナイフだ。
わたしは、さっきとは反対側のホルスターからナイフを出した。このナイフは、ちょっと変わっている。プラグが出ている。そのプラグをわたしの右腕にある穴に差し込んでスイッチを押すと、その刃に付けられたHVG(高振動発生装置)が振動を始めるのだ。これにより格段に攻撃力がアップする。
勿論、もたもたしながらやっていた訳では決してない。水面を滑るようにして動き回りながらその刃をセットした。
そしてそのセットが終わった次の瞬間、遂にデタックスが本格的な攻撃を開始してきた。丸い柱のような胴の正面側がぱかっと開き、そこから機銃のようなものが出てきた。確か要さんの説明によると全方位撃つことが出来るはずだ。
ひとまず今は動こうと思い、横に滑るようにして動いた途端わたしのさっきまでいた所に容赦なく銃弾が降って来る。冷や汗。
勿論わたしの動きに合わせて銃眼がこっちを追尾する。近づくのがどんどん難しくなってきた。まだナイフの切れ味も試してないのに。そう思った途端、銃声がやんだ。
金属生命体だからと言っても、万能ではないと気が付いたのはこんな時だった。弾切れだ。奴らは人間のロボットを真似している。つまり、弾は無尽蔵にあるがリロードは必要である、という事。
これだっ!
わたしは勿論この瞬間を逃さなかった。脚のジェットをふんだんに吹かせ、50メートルもの距離をほんの1秒以内で詰める。懐に潜り込むと、その持っているナイフで突き刺した。
手ごたえがあった。
そのナイフが折れる手ごたえが。
バニルは一応量産型ではあるので、武器は豊富にある。だが、ほとんどの機体が壊れてしまっている今においては武器なんて残っているわけがない。だからほぼ渡せないんだけど、試作品ぐらいならあるから使ってみて、という話でナイフを渡されたんだった。
強度は保証しないというものだったが、まさかここまでとは。幸いなことにぽっきりと折れている刃の先はグッサリと奴のお腹に突き刺さっている。
奴は機銃が使えなくなった。
わたしは武器が壊れ、もう一つは使い物にならないと判明した。
もうこの先に待っているのは、一つしかない。肉弾戦だ。
この肉弾戦は、とてもこちら側に分が悪い。こっちは、スピード型ではあるものの攻撃力もなければデタックスのアップデートされた攻撃に耐えうる限りの強度もない。それに対して、あっちは装甲が厚くまた、一つ一つの攻撃が重い。当たったら即致命傷だ。
逃げたい。
でも逃げたら、
彼らを、死なせるわけにはいかない。そう思って、気持ちを無理矢理に奮い立たせる。
脚はさっきと比べ物にならないほどがくがくしている。当然だ。さっきまでは武器があったからいいものの肉弾戦となれば怪我を負うことは必至なのだ。怖くなかったら人間じゃない。
せめて最初の一発だけでも強烈なのを食らわせてやろうと、握っていたナイフのつかをその場に捨て、またデタックスの攻撃圏内から外れる。いくら機銃が無くなったからと言っても胸の針でぶっ刺されたらひとたまりもない。
勢いをつけて50メートルくらい離れたところでドリフト。何か耳元で聞こえたような気がしたが、今はそれどころじゃないと無視する。
輪を描くようにして綺麗に水しぶきが跳ねてゆく。これから死闘が始まるって言うのに虹なんか出しちゃって暢気なものだ。勢いを殺さずにそのまま一直線に突っ込む。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ガキン!
という金属と金属がぶつかり合う音がした。何も効果がなかったのかのように感じたが、しっかりと効果はあったらしい。奴らは少しだけ動作を停止させると、次の瞬間には胴体のところに全体にまんべんなくひびが入っていた。
しかし、デタックスもただやられているわけではない。最大限そのカーテンレールのような腕を引くと、次見た時にはその腕が勢いよく伸びてきて硬く握られた拳が降って来る。
わたしの身体が宙を舞った。
わたしの身体は正確に言えば、ロボットではないとこの時初めて実感した。その殴られたところから溢れ出すようになにかの液体が出てきたのだ。また、ひびが入った腕の装甲の中には機械とは言い難いものが見えた気がした。そんなことを思っていたら、遅れて痛みが伝わって来る。
わたしは激痛に泣き叫んだ。
これが、この間自分をいたぶるようにして遊んでいた奴らの本気だった。
わたしが泣き叫ぼうとかまわず追い打ちをかけてくる。これはゲームではないのだから、卑怯なわけでも無い。
気が付くと、体はもうボロボロだった。本当にとどめを差されるのだけは回避しようと絶対に両方の腕に、一気につかまれないように逃げるので精いっぱいだった。もう自分が勝つ構図が見えない。
そこへ。
「なずなさん、よく頑張りましたね。助けに来ました。」
そんな声と共に救いの天使がやって来た。どうやら、今射出されたらしい。空高くに機影が見える。涼華と千夏だ。彼女もまた、わたしと同じように足に付いたジェットパックを操作して空から自由落下の勢いもプラスし、4発目のクリーンヒットをわたしに繰り出そうとしていたデタックスに強烈な一撃を放つ。
ガシィィィィィィィィィィン
という音と共にデタックスの胸が大きく裂ける。そして、中にはダイヤのようなきれいな8面体があるのが直接見えた。
「なずなーーーっ!大丈夫か!」
「千夏?それに涼華ちゃんなの?」
「はい。無事でよかった。シンクロのなんかで手間取っちゃったらしく‥‥」
どうやら二人が助けに来てくれたみたいだ。
彼女の姿を見てみる。さっきは真横にいて、しかも体が拘束具だらけだったから動けないので見えなかったが、改めて見るととても頼りがいがありそうな機体だった。
深い青、がっしりとした腕。そして腰のミサイルパック。太ももについているジェットパックからはまだ薄く煙が立っている。
彼女らの援軍によりわたし達がこのデタックスに勝つ図がやっと見えてきた。いったん離れ、通信機で作戦を話す。
簡単な話、こうだ。
わたしが一撃を放ちそのまま離脱していった後、その開いた懐の中に彼女たちが持ってきた試作品の武器をぶっ放す。
ただそれだけだ。
わたし達は即座に実行に移した。
彼女らが持ってきている武器は、弾丸加速器。これは心強そうだ。
さっきと同じように遠くから一瞬で間合いを詰めると、精一杯の全力で殴り掛かる。
ガキン!
今回もそういう音を立てたが、不思議なことにわたしの身体は奴らから離れられなくなっていた。拳自体を捕まえられてしまったのだった。この時、奴らの”真似”の汎用性を知った。
古来、学習の手段としては何事も人の真似から始めるべきと言われている。その真似をし、学習するという行為の言葉として「真似ぶ」という言葉が出来た。それが時代を経るごとに「学ぶ」に変わって行ったらしい。
つまり、奴らはわたし達の攻撃パターンを学んでその一枚上を取ってきた、というわけらしい。何も見えなかった涼華も背中にぶつかってくる。
デタックスの捕まえているわたしの手にどんどん力がかかって来るのを感じる。ミシミシと言ってきた。
反対側の腕もわたしにとどめを刺すため、わたしの左肩に伸びてきた。その途端、聞き覚えのある叫び声が遠くで聞こえた。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その瞬間、すべてが収束した。
「へっ?」
「え?」
涼華の腰にあったミサイルパックが火を噴いたのだった。千夏がやったらしい。白い雲を後ろの方に勢いよく出しながら、それは一直線にデタックスの先ほど開いた裂け目の方へ。
見事その穴の中の核を爆散した。結果、わたしはデタックスに掴まれた手を解放させられることとなった。
あまりにも突然の事なので、嬉しいのだが喜びよりも戸惑いの方が先に出てしまう。涼華も同じみたいだ。
そんな感じにわたし達の初陣は勝利で終わる事となったのだった。
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