幻想

Kolto

第1話 薬



「…ねぇコルトさん、私そんなに魅力無いかな?」


そう不満げにコルトに向かい合い、馬乗りになるアウラ族の女性

衣服が少しはだけていて白い肌が見える

コルトの衣服に手をかけ、少し見える胸の筋肉をなぞるように指を滑らせていく



「…え?あぁ…いや…魅力的だと思う…」


少し目を逸らしながら静かに答えると、女性は白くふっくらとした胸にコルトの手を持っていく


丸くて柔らかく暖かい

コルトのひんやりとした手に、相手の体温が熱く伝わってくる

その柔らかな先に触れるとぴくりと体を震わせる


相手はコルトの下腹部から更に下の方を優しく撫でていく


「……じゃあ何で反応しないの?」



「さぁ…?自分にもさっぱり…」


女性はムッとした表情で目が潤んでいる


女の涙は苦手だ

扱い方がわからない

何を言えば、何をすれば正解なのか…

面倒くさい


「…もういい!ばかっ!」


ドン!とコルトの胸を叩くと衣服を戻しながら出ていってしまった


これ以上面倒事が起きなくて良かった

そう思うと自分の衣服も直し、家に帰っていくのだった…




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「幻想薬?」



「そう!!!これを使えばどんな姿にもなれるって!!!金貯めて買ったんだよ〜!!飲む量で姿変えられる時間を調節出来るらしいぜ〜!姿を想像しながら寝て、目覚めたら変わるらしいぞ!!」



そう目をキラキラさせながら語るのはアウラ・レンのちとせ


面倒くさそうにコーヒーを飲みながらちとせを見るコルト


「…馬鹿馬鹿しい…」


「お!?お前〜!夢無いなぁ!性別まで変えられるんだってよ!!俺でも女の子になれるんだぞ…っ!」


「そんなに女の身体に興味あるのか…」


「そりゃ興味はあるだろ!!お前だって男なら興味あるだろ!!!」


「…女には困ってないんじゃなかったのか?」


「ブッ…!!!ばっ…!!!こ、困ってねぇよぉ!?コルトの方が困ってるじゃねぇかって心配してるんだよ!!!!!」


「別に…最近も見たし…」



ガン!!っと頭を殴られたかのように倒れ込むちとせ

フンっと目線を逸らしコーヒーを飲む


「こ、これが…大人の世界…っ…!」


小さく呟きながらよろよろと立ち上がる


「まぁいいさ…さっきお前に淹れてやったコーヒー…そいつにちょっとだけ幻想薬入れてたからな…」


コルトはグッと吹き出しそうになるのを堪え、むせて苦しそうに咳き込む


「…ッ!!お前ッ!!!」


キッと睨み付けるも、ちとせは既に外に飛び出している

逃げながらも「量的に1日だけだー!明日楽しみにしてるぜ〜」と徐々に声が遠くなっていく


大きくため息をつき、椅子にもたれ掛かる


「あいつ…1回わからせてやらないとか…」


そう呟くといつも通りの生活に戻る




____________________




いい匂いで目が覚める白雪

昨晩遅くに帰ってから直ぐに寝てしまった

まだ眠い目を擦りながらキッチンの方へ向かうと、すぐに目が覚める



「白雪、おはよう。朝食までもう少しかかるから、風呂に入ってきな。用意してあるから」


そういつもの優しい声でいつものやりとりだが

目の前にいるのは自分と差程大きさが変わらない、いつも見ているコルトがそのまま小さくなったかのようなプレーンフォークのララフェルがいた


「えっ?…え???コルト…???」


困惑する白雪に困ったように微笑む


「驚いたよな…俺も驚いてるけど。多分ちとせが使ったこの幻想薬のせいだと思う…」


「げ…げんそうやく…???え?」


「ちとせが言うには俺に使った量では1日ぐらいで元に戻るらしい。すまないけど今日だけはこの姿だ」


「う、ううんっ!コルトはどんな姿でもコルトだし、しゆはどんなコルトでもす」


はっとし口を抑えて顔を赤くする白雪

コルトは不思議そうに首を傾け、すぐに微笑んだ

どんどん顔が熱くなっていく


「…っ!お風呂入ってくるっ!!!」


「あぁ、ゆっくりな」


いそいそと着替えを用意し風呂場に向かう白雪を見送る

それを見計らったかのように玄関のドアが勢いよく開くと、魚が入ったバケツを持ったちとせが入ってきた



「よぉ!コルト!魚釣れたから捌いて…って!!お前!!なんだそのちんちくりんな姿!!アッハハハハハ!!!!すげー!幻想薬って本当に効き目あるんだ!!だからってこんなちっせぇララフェルに!!アハハハ!!!」



涙を流しながら笑い続けるちとせに無表情なコルトがてくてくと近付いて行くと 勢いよくジャンプし、ちとせが気付いた時には頭上からかかと落としをされて地面に伏せていた


「ぐ…小さくても…この威力…これは…間違いなく…コル…ト……」


そう言い残し一撃で伸びてしまったちとせを外に蹴飛ばし、持ってきた魚を丁寧に捌いて塩焼きにして朝食に出した




___________________



「白雪、今日は何か予定あったんじゃないのか?」



「あ、うん、それなんだけど…予定無くなって今日はゆっくりできるの…!」



「そうか、じゃあ俺の納品終わったら出かけようか?」


そう言うとぱぁっと嬉しそうな表情をする白雪

しかし何故か直ぐに下を向いてしまう



「白雪…?具合、悪いのか?」


そっと白雪の頬に触れて顔を覗き込む

驚いたのか1歩後ろに下がってしまった

熱は無いようだが、おどおどしたような感じだ


仕方ない事だろう

自分だっていつも白雪を上から見下ろしていたのが

今は白雪と目線が同じ

全てが大きく見えて不思議な感覚…

何をするにも不便に感じる


不便だが…悪くない


「驚かせてすまない…じゃあ直ぐに用事済ませるから、ゆっくりしててくれ」


「う、うん!待ってる!気をつけてね!」


「あぁ、また後で」


嬉しそうに手を振る白雪を見て安心する

早く帰って白雪と過ごしたい


___________________


「コルト!おかえり!」


「ただいま…遅くなってすまない…」


「全然!おつかれさまっ…!」


空が赤く染まってきた頃、コルトはようやく帰ってきた

思ってた以上に小さい身体は大変だった

歩幅が短く、行先までが遠い

物を運ぶにも、身体が小さすぎて思った量が運べない

手が届かなくて人の助けを借りたりもした


いつもの何倍もの疲労感がある



(白雪は俺がいない時はいつもこんな感じなのだろうか…)


「白雪、遅くなってしまったし、今日は家でいいか?白雪とゆっくり過ごしたい…」


「えっ!うん!!わかった!」


珍しく自分のわがままを言ってしまった

今は出かける程の体力も無い…





やる事を終え、2人でソファに座る

足が床に届かない

何もかもが新鮮


「コルト、かなり疲れてそうだけど大丈夫?」


「ん?そうか?まぁ...白雪はいつもこんなに大変なんだなって身をもって知ったよ」


「大変?そんな事ないよ?」


「ふっ...白雪はすごいな」


コルトは自分の小さな手で白雪の頭を撫でる


「...もう!そんなにすぐ人を撫でたりしないで!子どもみたいじゃん!」


「ごめんごめん!...でもこうしたくて...ちょっとごめんな?」


白雪を抱き締めずにはいられなかった

毎日こんなに小さな身体で、手で、脚で、頑張っている

そう思うと愛おしくてたまらない


「ちょ...!?コルト!?」


「不思議な感じだな。こんなに白雪に近付けるなんてな」


優しく抱き締めながら頭を撫でる

思わず自分の耳を白雪の耳に合わせてしまう


「白雪は本当にすごい。よしよし!」


「だからッ!子ども扱いしないでってば!」


そう突き放すと赤い風船のように頬を膨らませる白雪を見て

イタズラを喜ぶかのように笑う

たまにはこんな日もあっていいのではないか

そう思う



_____________________





『コルト...』



『!?白雪?』



目の前には白雪の声がするアウラ族の女性

見た目もそのまま、ララフェルの白雪を大きくしたような感じだ

面影がしっかりと残っている

照れくさそうに向き合い、少しの沈黙がある


『...ちーちゃんの幻想薬、私も使ってみたの、どうかな?』


『え...あぁ...。そうだな...すごく...、綺麗だ...』


『ちゃんとこっち見て!』


まともに見る事ができない

自分でもどうしてそうなるのか理解できない

いつも直ぐに触れられるのに

今は触れたらいけないような、薄いガラス細工のような、触れたら壊してしまいそうな、そんな気がしている



『いや...大きくなったな...』


『もう!親みたいな感想言わないでよ!』



間を置いて白雪に突き飛ばされ、自分のベッドに倒れ込んだところに白雪が馬乗りになった

その行動に脳が追いつかない、そんな感覚がある

何が起きているのか理解ができない


白雪も少し震えている


『し...白雪...?どうした...?』


『...ッ...こ、これなら..."大人"の女性として...見てくれる...?』


潤んだ瞳で必死そうに震えた声で小さく訴えてくる




『...え...っと......』


何が何だか

訳が分からない

何も理解ができない


理解しようとしてるのを拒んでいるような

自分の中で何かが壊れていく


目の前で今にも泣きそうに小さく震える白雪


壊れてしまってもいいのか

今までの何もかもを壊しても

薄いガラス細工のような今の白雪を、自分を、壊してしまったら二度と戻らない

そう分かっていても、自分が1番何よりも欲しいと思っていたものが目の前にある

そう気付いてしまったら、自分でもどうしようもできなくなっていた





『...白雪...!!』






身体を起こし、体勢が逆になる

白雪の目から溢れそうな涙を親指で優しく拭う

右手を白雪の左手に絡ませる

無駄な力が入った細い指...

少し力を入れたら折れてしまいそうな細い身体

全てが愛おしい


こんなにも余裕が無くなってしまう程に



『俺は...!お前の事...』



___________________





変わらないいつもの天井

変わらないいつもの朝



「.........夢...?」



周りには誰もいない

いつもの自分だけの1人の空間が静かに広がる

起き上がり、頭をかかえる



「......っ...はぁ......最悪...」



身体は元のアウラに戻っている

最悪な目覚めで気分が悪い


幻想薬を使ったせいもあるのか、よりによってあんな夢を見る自分に嫌気がさす


自分の中の溢れ出そうな感情を抑え込むかのように膝を抱え込み顔を埋める

身体を小さく丸め、自分を抑え込む












「何考えてんだよ...本当に...」

















「..............くそッ.....なんだよこれ......抑まらねぇ...」











尻尾の先まで熱が伝わっている

身体が妙に熱い

初めての感覚にどう対処すればいいのかを考える


するとドアをノックする音がした


「コルト...?起きてる?何かあった?大丈夫?」



白雪の声にハッとして時計を見る

いつも自分が起きる時間よりも2時間以上も過ぎていた


「え!?あ〜!大丈夫!ちょっと風邪引いたっぽいだけ...!!」


「風邪!?お水持っていこうか!?開けていい!?」


「ちょ!?ちょっと待って!?風邪じゃない!!えーーーっと、開けなくて大丈夫!!すぐ行くから!!」


「コルトなんか変じゃない?!何かあったの!?私より起きるの遅いんだもん!」


「何も無い!!!から!本当に!もう少ししたら行くからさ!!」


「そう...??でもやっぱ変!開けるよ!?」


「あーーー!!!!!待ってくれ頼む!!」




初めてここまで白雪に焦らされる

今まで経験した事ない色々な感情が頭から離れない


その後は布団に包まって芋虫のようになったコルトを見て白雪は笑い

丁度来たちとせも笑い

ちとせは昨日よりも大きなたんこぶを作ることになった...


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幻想 Kolto @kolto441

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