〜一章〜 狩りをする獣
一部 スルナ
城門から城へ
「…よし、ぴったり三十ダマン、受け取ったよ。山越えを手伝ってほしいんだったっけ?」
「ああ、いつもなら一人で大丈夫なんだが…。
ほら、最近、山賊が出るって言うだろ?
「なるほどね。いい買い物をしたね、ホイさん。このスルナに任せな。あんたを無事に送り届けてやる」
スルナが自慢げに、胸に手を当てて言うと、ホイが苦笑しながら言った。
「そりゃ、頼もしいなぁ。荷物の用意はできてんだ。できるなら今すぐにでも
「ああ、大丈夫だよ。それじゃ、行こっか」
依頼主のホイは月に一度、城門の西部にある山を越えて、実家に帰るのを習慣にしていた。去年までは、その山に山賊が出ることなど
というのも、今年に入ってから、隣国のガルシアナ帝国が周辺の小国を吸収し、勢力を拡大しつつあった。そのため、ガルシアナ帝国との国境付近の監視が
スルナは気さくな性格で、城下町の人々とすぐに馴染むことができた。そのため、彼女の、〈なんでも屋〉としての評判は、とても良かった。
また、スルナは喧嘩も強かった。
スルナが城下町で〈なんでも屋〉を初めたばかりで、まだ依頼など来たことが無かったとき、街の東側を
たまたま、その現場を目撃したスルナは、ヤクザを止めに入った。
彼女の
その時、ヤクザに荒らされた店が、青果問屋の主人、マカンの父親の店だったらしく、その後、スルナを
あの事件のあと、スルナの
ただ、スルナはそういったことに興味はないようで、
「弟子入りしたい」
という若者を、適当にあしらっていた。
ホイとスルナは、最低限の荷物だけを持って、出発した。四日前に降った雨で、
夕暮れ時になるまで歩くと、川の流れる音が聞こえてきた。音のする方へしばらく歩くと、木の
「スルナさん、今夜はここで野宿しよう」
「わかった」
スルナは荷物を
「私は獲物を取ってくるから、ホイさんは火を起こしといてくれ」
スルナはそう言うと、小弓と矢を何本か持って、森の中へ入っていった。
その後に続いて、ホイも森の中へ入っていった。なるべく地面に触れていない枝を選んで拾ってくると、
気がつくと、太陽はほとんど沈み、あたりを薄青く染めていた。
一方、スルナは獣道を
スルナは、幼い頃、よく父に連れられて、山に狩りに行ったものだ。そこで、夜闇での足跡の追い方や、この地域に生えている植物の特徴、弓の扱い方まで、あらゆることを教わった。
スルナが〈なんでも屋〉を
しばらくして、スルナは、木の根に小さな毛が付いているのを発見した。毛が付いている木に近寄り、辺りをよく観察してみると、同じように毛が付いた木が、何本かあることに気付いた。
自分の縄張りを主張するのに、木などに体を
スルナは二、三歩後ろに
「狩りに慣れれば、一つの痕跡を見つけただけで、自然と他の痕跡も見えてくるようになる」
と、かつて父が言っていた。
木の根元に、こんもりと盛り上がっている土を見つけると、少し離れたところに、
スルナはそれを追って、更に森の奥へと進んでいった。
しばらく歩くと、
スルナは音を立てないように、静かに弓を
スルナは兎の死体に近付き、耳を持って、腰に巻いてある縄に
そう思って、音のした方を振り返った時、ある
木の根元に
その大きさからして、恐らく人間が通ったのだろう。と思ったが、
「今は、狩りに集中しろ」
スルナは、そう自分に言い聞かせると、音の方へゆっくり進んでいった。
スルナが狩りから戻る頃には、すっかり日は
スルナが、兎を
「おお!スルナさん、戻ってきたかい」
「ごめんよ、遅くなっちまって。ずっと奥の方まで行っててさ」
待っている間に、ホイが
スルナが焚き火の近くに
「俺も手伝うかい?」
「ああ、そうして貰えると嬉しい」
スルナは流れるような動作で、次々に兎を解体していく。ホイが兎1羽を解体し終える頃には、スルナは、残りの2羽の解体を終えていた。
「それにしても、
ホイが、感動しながら言った。
「城下町にも、色んな
ホイは思いついたように言った。
「そうだ!スルナさん!あんた、今度の〈
あんたくらい腕が立つんなら、優勝だってできるんじゃないか?」
ここ、タンノ王国では、三年に一度、周辺国の国王たちを
その〈迎王祭〉で
〈天武ノ式〉は、七日間ある〈迎王祭〉のうち、三日をかけて行われ、日にちごとに異なる種目で競われる。一日目が〈
「〈迎王祭〉って言ったって、ついこの前、国王が崩御したばかりじゃないか」
スルナが困惑して聞くと
「今年は〈迎王祭〉の時期に合わせて、〈
と、ホイが答えた。
「この国の内情を、他の国に知らせるようなことをして大丈夫なのかい?…例えば、ガルシアナ帝国とか」
「さぁ、どうなんだろうなぁ…、俺は政治のこたぁよく分からねぇが、〈星読み〉様がそう
「ふーん…〈星読み〉が…」
その時、目の端に、チカッと輝く物が写った。
光った方を見ると、大きな何かが川を流れていくのが見えた。
それが警備兵の
後から追い付いてきたホイと共に、男を岸へ引き上げた。
スルナは男の喉元に手を当てて、脈を診た。脈を見終わると、男の胸元をはだけさせた。
すると、男の
男がしっかりと
「ホイさん、火を消してくれ」
ホイも異変に気付いたのだろう。不安げな顔で
「私は、川の上流の様子を見てくる。近くに山賊がいるかもしれないから、ホイさんは森の中に入って、隠れててくれ」
そう言うと、スルナは
どんどん小さくなる背中を見送ると、ホイは男の体を引きずりながら、森の中に入り、
上流へ向かって走っていくと、やがて、複数の人が戦っているような音が聞こえてきた。
スルナは、状況を把握するため、一旦、森の中へ入り、気付かれないように、音のする方へ小走りに向かっていった。
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