「親愛なる君へ。」(Dear Meister.)
本当によくある話なのだ。
……生き残った最後の仲間が、形見のようにそれを持ち帰ることも。
フード付きのマントで深く
「では、以上で」
「あァ。『
「いいえ。これまでのご活躍の数々に、あらためて感謝を申し上げます。……その、オーキュリー様」
「君にそんな顔をさせたくはなかったな。すまない。
「…………」
「……笑い飛ばして欲しいンだけど」
「笑えない、
「重ねてすまない。どうか息災に生きてくれ給え」
長く
/
置かれた槍とその担い手を見比べて、ドワーフの鍛冶師はため息を吐く。
「お前さん、他に何か取り得があるのか?」
「いいや? 自分でもびっくりするくらいに無いよ。いいからほら、いつか君がこれを見た時に言った価格でいい。引き取ってくれ給え」
「……まったく強情な娘だ。こんな
「
銀貨の詰まった袋がテーブルを叩く。
「質料だ。いつか必ず取りに来い。約束するのなら預かっておいてやる。それと引っ込むのなら便りを寄越せ。いいか、必ずだ」
「強情なのはどっちだよドワーフ。わかった、わかったからそう睨まないでくれ給え。おっかないンだよ、もう」
「……で、行く当てはあるのか」
身寄りなど元からない。身を立てる手段さえたった今手放した。
「
――彼とはそれきり。約束だけは守り続けることにはなるが。
さァ、お姫様の具合はどうだろう。
/
右眼、それから四肢の全壊。ついでに
およそ思い出以外の大抵を売り払い手に入れた金のいくらかを使い、後は目覚めを待つばかり――というよりも、その段階のまま停滞させることをわたしは要求した。
協会の連中に礼を言って。眠り続ける少女を背負い、その重さに少し戸惑う。
まァそうか。欠けた部分を戻せばこんなものだろう。
――唐突に哲学的な話題になるが。動かない
大陸南方行きの鉄道に、二人分の客席料金を支払って乗り込む。
走り出す。最初は緩慢に。次第に早く。
取り返しのつかない速度となって、訣別の場所から遠ざかっていく。
「ヴェイゼルド。わたしは卑怯で臆病だ。
向かいの席で眠り続ける少女は応えない。当たり前だ。彼女は未だ、死んでいる。
卑怯と言うのはこういうこと。相槌がないと知っているから、わたしは一方的に語り掛ける。
最後の仲間を、ヒトとして料金を払ったくせに、いまは人形扱いしている。
景色が暗転する。トンネルに入ったのだ。
「……【
――トンネルを抜けると、緑の大地が広がっていた。光が差し込む。
「港町まで行こう。そこまで行けば、誰もわたしたちを知らないよ。知ってる連中がいても、気づきやしないだろうさ。君は盾を持っていないし、わたしは槍を持っていない。ついでと言ったらなんだが、
車窓を少し開ける。残り物の煙草を銜えて、魔術の火花で点火する。
「げほっ」
おそろしく不味いな!
吐き出した煙は風に乗り、追いすがろうともせずに後ろへ後ろへ流れて消える。
「ヴェイゼ、ヴェイゼ。君は――いつかもう一度目を覚ました時に。わたしがその勇気を持てた時にさ。ぜんぶぜんぶ取り返しがつかないことになったその未来で、同じように……わたしを
こわいよ。
「もし君が、わたしのことも。アイツのこともぜんぶぜんぶ忘れちゃってたらさ。そしたら何だって始めていいンだよ。学者になってもいいし、どこかの酒場で給仕――は、どうかな。愛想ないもんな君。でもやりたいならやっていい。ごめんね、【
少女は目覚めない。
最後の一本になって、その煙と苦みにもようやく折り合いがついた。
「……ふーっ」
煙草の煙にいくらか紛れて、潮風の香りが鼻に入った。
眠り続ける相方を背負う。
さァ、清算だ。
『
拝啓。親愛なる【
大いに心配してくれると、わたしは嬉しい。
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