ルーンフォークは祈らない/プロローグ


“導きの港”ハーヴェス郊外。


とある簡素な一軒家。




「――『冒険者』? 君が?」


「はい」


(煙草を吹かす)


「仕事をするにしても、この街でなら他に候補はあったろうに。まァ、君もわたしも愛嬌がないから商いは向いてないとしても、だ」


「同意します」


「正直、少し驚いているとも。英雄願望が?」


「いいえ」


「未知への探求心?」


「いいえ」


「思い付きかな」


「いいえ」


「啓示でもあったかい」


「ないすじょーく。加点です」


「となると本当にわからないな。聞かせてもらっていい?」


「……当機には、」


「当機には、およそ記憶と呼べるものが存在しません」


「そうだったね。生活に不便がないようだから問題視していなかった」


「どうして朝には日が昇り、夜には月が浮かぶのかを知りません」


「考えたこともなかったな」


「貴女が当機を起動させた理由も」


「だろうさ。言ってないし」


「何の仕事で生計を立てているのかも」


「だろうさ。聞かれなかったし」


「その収入が芳しくないことは知っています」


「精力的に励むつもりはないよ。君も吸う?」


「いただきます」


(紫煙を吐く)


「……そういった、たくさんの疑問が。目覚めてからの当機には存在しています」


「となると『真実を知りたい』が理由かな」


「いいえ、いいえ。――当機は、きっと」



「納得を、したいのだと思います」


「……成程? 椅子の材料より座り心地を優先させるのか。まァ、君が何かを始めることに、元々異論はなかったンだ。止める理由があるとすれば冒険者を志望することに関わっていない」


「はい。これは、決めました」


「よろし。人生を懸けるには割に合わない仕事だろうがね。……で、君は何になるつもりなのかな」


「ですから冒険者に」


「役割の話。『冒険者』って言い方は総じてだ。前衛後衛、主力にサポート。彼らにはそれはもうたくさんの役割がある。今の君に何ができるのかは問うまいよ。かを、聞いている」


「当機は――」


破損した記憶ではなく。過ごしてきた生活の中で知っていることがある。

手を伸ばしても、星に手は届かないことを。


そしてその行為を、あるいは類似した行為を、再生不可能な過去にもきっと、行ったことがある。



「…………射手シューターかァ」


「異存が?」


「ないとも。あるのは感慨かんがい意外いがい。少し待ってて」


「はい」







「これは……銃、ですか?」


「そう。サーペンタインガン。売り払ってもはした金にしかならないから残したンだけど。あァそれとも、弓を引く方のシューターになるつもりだった?」


「いいえ。魔動機術での行使を予定していました」


「そうかい。が飾りにならなくて僥倖ぎょうこうだ」


「当機のこの右眼も、魔動機術に関わっているのですよね」


「マギスフィアね。君を復旧させるときに部品パーツが足りなくてまかなったンだ。ちなみに、わたしはソレらの使い方にまったく覚えがない。習得は協会とか、そういう所でするように」


「はい」


「君に似合うかはわからない。でもどうせなら、似合う君になってくれたまえよ――ヴェイゼルド」


「はい。そのように努めます、ダァト」


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