或る冒険の夜明け前。
――――。
【記憶領域に修復不可能なデータが存在します。
■/Y
|■/Y
Error.
|■/Y
Error.
■/|Y
【……
【システムを再起動します】
/
目覚めの瞬間はいつもそうだ。どれほど強固な確信もするりと
瞳を開ける前には、その先に訪れる光が現実であると、
――あぁ。私は夢を見ていたのか。
ぱちん、と薪が爆ぜる音。本格的な冬の訪れの前に買い足さねば。
起き上がる。いまは――夜明け前か。この時間が一番冷える。おかしな話だ。
どうして陽の無い夜よりも、遥か遠くからとはいえ、その袖が現れようとする頃がこんなにも冷たいのか。それを誰も不思議に思わないのか。
「……いいえ、いいえ。
枠だけが設けられた質素な窓辺に立つ。そう、質素だ。相対的にもっと豪華な窓というものには、透き通った硝子の板がはめ込まれていることを知っている。
そして、そうすれば夜風を防げて、夜ももうすこし暖かくなることを、知っている。
それを当たり前にするには――生活の水準を向上させるには、より多くの収入を得ることが必要であることくらい、私は……彼らの誰もが、きっと知っている。
それが言葉ほど容易でないことも。そう、そういうことを、
「世知辛い、という」
この慣用を知っている意味は薄い。だというのに、私はこういった数々の無駄を搭載したまま、今に至っている。
空の果てが
――ひどく疑似的に、生命が活動するまでを観測している気がして。
――そして、
だから贅沢だ。誰の寝顔を眺めているわけでもない私は、街の寝顔を知っている。
そうして、時間がくれば街は――社会はひとつの生き物のように動き始めるのだろう。その頃には私も、それを構成する一部品のように加わって、良いも悪いもない代謝の一つになっている。
鳥の鳴き声が先か。パン屋の主人が窯に火を入れるのが先か。どちらであっても何かが大きく変わることはないし、それを賭けの対象にする相手もいない。
ぱちん、とまた薪が爆ぜた。あぁ、どうせなら消える前にもうひと仕事、手伝ってもらおう。
腕も名も売れていないのだから、切り詰めるべきはこういった
「ふぅー……」
火を薪から移した煙草の紫煙が
世に
『いいかいヴェイゼルド。人生という道を歩くことに対して、我々は明確な正解を持たない。誰もが自分では歩む先の正しさを証明できないんだ』
痛むことのない、誰かの残像――或いは私の自論を、こうして二人称化して再生しているだけかもしれない言葉。
『けれど。歩んできたその道のりを正しいものにできるのも、また自分だけなんだよ』
灰が落ちる。
そうであるならば、この時間と行為に意味を持たせられるのも、私だけなのだろう。
「――差し当たっては、
できれば恰好よくて、納得されるような。
今日組むパーティの誰もがそこに無頓着である、という希望的観測も持てなくはないが。そんな巡り合いを祈るような余裕こそ当機には存在しない。
日が昇る。街はまだ、眠ったまま。
やがて。世界に朝を告げたのは、
「――あぁ。今日は鳥の方か」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます