第4話
蓋をしていた高校時代の記憶が蘇る。
ユシナはたまらず頭を振った。
「幼馴染の私じゃなかったらトオルは私を側においてくれなかった!」
――好きだった。好きで好きで堪らなかった。
だけど一度の過ちで一生この関係が終わりそうになったことが凄く嫌だった。
トオルにその気がないのはあの時に痛いほど感じさせられたから。
ユシナはボロボロと涙を流した。
「だから、だから私はずっとずっと幼馴染でいようと思ったのっ!」
――幼馴染という盾を武器に、ほかの人と違うと思った私への罰だと思った。
実際、あの時の私はトオルが私の告白を受けてくれると信じて疑わなかった。
それが間違いだったと思い知らされて、蓋をして、恋愛に関して一生懸命に前を向いていこうと決めたのに。
「なのに!今更になって私のことに口を出すの……?」
消え入りそうな声でユシナはトオルに問いかけた。
それまで黙ってユシナの言葉を聞いていたトオルはゆっくりと膝を折って、彼女と目線を合わせた。
「……あの時」
しばらくの沈黙の後、トオルは口を開いた。
相変わらずの無表情でユシナを見つめる。
「学校の帰り道でお前が言った言葉。俺は忘れたことはない」
「なに……なにをっ!からかってるつもりっ?」
「俺は一度お前の気持ちを踏み
トオルはそっとユシナの手に触れた。
「あの時の俺は俺の人生を自分で決めれなかった。決めようとしなかった。だからあのままではどちらも不幸になるだけだった」
ゆっくりと語られていくトオルの気持ち。
三人兄弟の末の子として生まれたトオル。兄二人は頭が良く、なんでもできる兄達で。両親にとって自慢の子供だった。
トオルが生まれて、トオルも兄達のようになるよう教育を受けた。それが親の求めていたモノだったから。
小中高、大学まで決められて、トオルの道は既に出来上がっていて、本人も違和感なくその道を進んでいた。
ユシナはその言葉を黙って聞いている。
「俺は、ユシナが俺のことを幼馴染の好きと違う好きって知っていたんだ。お前が気付くより前に」
「……は」
「お前は分かりやすいからな」
ふっ、と小さく笑い、トオルは続けた。
「小さいときからの付き合いだから、許されると思ったんだ」
トオルの右手がユシナの頬を撫でる。
――「父さん母さん。おれ、好きな人ができたんだ」
高校に上がって間もなく両親にその事を伝えた。
すぐにそれが間違いだったと後悔した。
「トオルのお父さんとお母さんに反対、されちゃったのね」
「……あぁ。あのまま付き合っていたら、俺の両親は俺とお前を引き離していた」
「じゃあ、トオルのあの“ごめん”は本心じゃ、なかった?」
「どんな関係になっても、お前と離れるのは嫌だった」
ユシナは完全に思考を停止した。苦笑を交えるトオルを只々信じられない気持ちで見つめていた。
結局、私はあなたがいい 柚ノ木 卯奈 @yuzuki_una
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