第3話

 ――その感情に気づいたのは高校の時だった。


「幼馴染に恋をする」


よくある事だ。

 私の幼馴染は、顔も頭も良くて。運動でも何でもできる完璧な人だった。


「ねぇ、ユシナ。トオル君と幼馴染でしょ?紹介してよー」

「断る」

「どーしてよ!」

 トオルは完璧故に、男女関係なく絶大な人気があった。

「紹介してくれるだけでいいからさ!」

 ただ、女の人たちは憧れや羨望の眼差しを向ける男の人たちとは違った。

 こうやって、ユシナを利用してトオルを自分のものにしようと躍起になっている。

 今も、同じクラスの名前も知らない女子がユシナに纏わりついていた。


 ――好きで幼馴染してるわけじゃないし……。


 彼と幼馴染をしてて苦労しかない。ユシナはため息を吐きそうになったがきゅっと口を引き結んだ。


 ――ここでため息なんて吐いたら面倒なことになる。


 なおも纏わりついてくる女子にウンザリしながら早く始業の鐘が鳴るのを待ち続けた。

 


────


「ねえトオル」

「なんだ」

放課後。帰り道。

「……好き」

つい、口から出てしまった言葉。私は抑えることができなかった。

顔を上げ、トオルを見ると立ち止まり驚いたように少しだけ目を見開いていた。

「トオルが好き」

もう一度、今度はトオルの目を見てしっかりと口にする。

「他の、女の子には……トオルを渡したくないの」

これ以上、彼を奪おうとする人を見たくない。

彼の横は私がいい。

そんな気持ちがドロドロと湧き上がってきた。

「トオル。だから」

「すまない」

「えっ」

「すまない。ユシナ」

お前の気持ちには応えられない。

トオルは静かにそれだけ私に伝えて私の横を通り過ぎた。

「っ、待って!」

大きな過ちを犯したと思った。

後悔と自責の念に駆られながら私はトオルを追いかけた。

「う、うそっ!さっきのは……えと、ほら!幼馴染みとして!幼馴染みとしてだから!ふ、深い意味は、ないの!」

恥ずかしさと惨めさに泣きそうになった。

でも、一番辛いことは。今彼を追いかけないと二度と関わることができなくなる。

その事が何よりも嫌だった。

所詮、私も他の女と一緒なんだと思い知らされた。

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