第34話 やっぱり仲が良さそうで悪そうで良さそうな二人
「……はぁ」
豪華絢爛な部屋。
そこは豪華な装飾品に飾られ、ベッドもキングサイズ、部屋の雰囲気は高級ホテルそれもスイートルームと比べても負けないぐらいにお金をかけられて作られた部屋。そこに上の無茶な命令を遂行するため、集中治療室にある大型機械を何個も運ばされた従者は大きなため息混じりに言う。
「……どうしてこんなことになったんですか? 別に集中治療室で手当てで良かったのでは……?」
部屋の片隅にある豪華なソファー。
その対面に座る女王陛下へと質問をする。
朝から夕方まで休みなく、事あるごとに必要な機械を一人で部屋に持ってこなければいけない重労働を強いられれば誰だって文句の一つや二つ言いたくなる。
「……だってあんな硬い布団の上って可哀想じゃない。それにあそこ狭いし薬品の匂いがするし……」
部屋の中にはまだ別に人がいるが今はこちらにも興味すら示さないので実質二人だけの空間に素の優莉が困り顔で問い、素の遥が唇を尖らせていた。
「一応言っておきますが私は引越し屋さんじゃありません。それにどう考えてもこの部屋で治療って前回から思っていたのですが間違っているような気がします……そもそも私が一番可哀想だとは思わないんですか……?」
「だって……」
と口をもぞもぞとさせる遥の元に優美がやってくる。
「なになに? なにを話しているの?」
興味深々に聞いてくる優美に遥が答える。
「随分と明るくなったわね。まるで昔みたいに」
「そう?」
優美は小首を傾ける。
そんな自覚は一切ないが、もしかしたらと思う。
彌莉の言葉を聞いて過去の呪縛から解き放たれ、身の危険が去った、何より新しい家族を得た、そんな出来事がもしかしたら優美を変えたのかもしれない。
「でも泥棒猫だって昔みたいに表情が柔らかくなってる気がするよ?」
今まで全てを一人抱え込んで頑張って来た者の顔は確かに柔らかく、今までどこか疲れが残っていた表情に今はそれがない。もう一人で頑張る必要はない、これからは頼れる家族が近くにいる、そんな安心感を見ていて感じる。
「ところで、本当にルーミアとアルビオを自由にして良かったの?」
遥は鼻で笑い、少し遠くで寝ている彌莉を見て答える。
「えぇ。きっと彌莉はそれを望む。だったらいいんじゃないかしら、それで」
まるで好きな人の気持ちに応える乙女のような声と表情を見せる。
それを見た優美はムスッと頬を膨らませて少し不機嫌になった。
「諦めて!」
大体、恋は理屈じゃない。
よく恋愛は好きになった方が負けだというが正にその通りだと思う。
好きになった以上、簡単に諦めることができないのが恋だと今年十九になったばかりの優美は理解している。それでも、口にする。
「そもそもなによ、最後のアレ! 何が私の英雄(ヒーロー)になってよ? いい加減にして、彌莉は私だけのものなの!」
普段は仲良しでも恋が絡めば敵同士。
優莉は隣同士に座りいがみ合い始めた二人を見て苦笑い。
「あはは……毎度毎度その痴話喧嘩よく飽きませんよね……ほんと昔から……」
どこか懐かしい光景を見るような目で二人を暖かく見守る。
優美は独占欲が強い。
そのため、好きな人を誰かに取られるのを極端に嫌う。
例えそれが家族でも。昔はよくそれで実の両親を困らせた。
「別に私が誰を好きになろうが勝手でしょ! そもそもアンタこそいい加減ブラコン卒業して失恋でもしたら? もう来年大人になるのよ? 恥ずかしくないの?」
「別に私は彌莉がずっと隣にいてくれるならずっと子供でもいいもん! てか女王陛下なら身分相応の相手から結婚相手見つけた方が世間も納得する!」
「それは勝手に世間がそう思っているだけで、私の願いじゃない! もし世間が私の結婚相手を決めるというならこんなどうでもいい立場捨ててやる! 私は彌莉と将来幸せに暮らしたいの! だから彌莉を頂戴! この性悪我儘ブラコン妹!」
簡単に言ってはいけないはずの言葉が簡単に飛び交うこの部屋はやはり異常。
そもそも恋とはここまで人を盲目にするものなのだろうか。
聞いていてそう思わずにはいられない優莉はついに失笑する。
「早く目覚めてください。でないと……この二人……なにを言い出すかわかりませんよ……彌莉様」
優莉はチラッとベッドで眠る彌莉を見た。
だけどその言葉通り優美と遥のいがみ合いはまだまだ続く。
「黙れ! このストーカー陛下! 暇な時は二日に一回は必ずと言っていい程毎夜毎夜人の家に侵入する犯罪者なんかに彌莉は渡さない! 彌莉は私と結婚するの! てかもういい歳なんだからいい加減初恋から卒業して!」
「私知ってるんだからね! 彌莉にはさせないくせに、自分はこそっとタイミング見計らって夜な夜な彌莉をおかずにしてたの!」
悪口と暴露。
二人がお互いの頬っぺたに手を伸ばして引っ張りあいながら言い合う光景はまるで仲の良い姉妹のようにしか見えない。
この光景を見てどちらの味方にも付かずただ平然と見守る優莉は優美と遥からしたら素を出せる数少ない一人。だが――二人はある事をすっかりと忘れていた。
「一応言っておきますが、そろそろ睡眠薬の効果が切れますので変な事ばかり言ってると、全部彌莉様に聞かれますよ?」
優莉は彌莉を指さして悪い事を思い付いた素振りを見せて言った。
それはなにやら面白い事を思い付いた子供のような表情。
「ちなみに遥様も優美様と同じ事を夜な夜なしていましたし、優美様も昔はご両親とお出掛けした彌莉様の後を勉強会を抜け出し尾行していましたね。それに二人共よく昔は毎日一緒に――」
そう遥の従者として昔から仕えていた優莉は二人の事をよく知っている。
当然優美のご両親とも少なからず縁があり、親バカ丸出しで自慢話をするかのようにいつも楽しそうに兄妹の話しをよく聞かされていたので結構知っている。
「「わぁぁぁぁああ!!! だめぇ!!!!」
最強の敵(秘密暴露兵器)が目の前にいたと知った二人は一瞬のアイコンタクトだけで手を組み慌てて二人がかりで優莉の口を止めにかかった。
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