第26話 再戦の準備と新たな覚悟
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彌莉が現実世界から逃避行して、優美の言葉にも遥の言葉にも反応しなくなった。
そして優美にからかわれてやり場のない気持ちを落ち着かせるため遥は生前彌莉の両親が使っていた書斎へとやって来た。本当は助け船と思い呼んだ従者と一緒に来る予定だったが彌莉の容態が急変し心配だった為に従者――優莉を彌莉の側に置いてきたために今は一人。
「……はぁ~……」
ため息ついて遥は黒い椅子に腰を降ろす。
目の前にはテーブルがあり、その机上には彌莉が戦いに行く前に置いていった両親の日記が置いてある。
まるで割れ物を触るときのように、細い指先でそっと優しく触れる。
「安心ばかりもしていられない……仕事しなくちゃ……」
自分に言い聞かせるようにして呟き、本を開き中身を拝読していく。
この日記に関しては書いた本人達が死んだ後も中を見る事はなかった。
だからなにが書かれているのか遥にはサッパリわからない。
それでも彌莉が大天使ミカエルの本当の力を目覚めさせたようにこれを読めばルーミアに対する対抗策がわかるかもしれないと藁にも縋る思いでページをめくっていく。
「それにしても私って本当にバカよね……。すぐ一人で抱え込んで……その癖失敗して、迷惑ばっかりかけて……」
だが。
ピタリと自己嫌悪を止めた。
それを続けるには気になる事ができたから。
『その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する。その時まで苦難が続く』
「これは……」
一体何のことだろうか。
そう思い、次のページをめくる。
『しかし、真理の書に記されていることをお前に教えよう。お前達の天使長ミカエルのほかに、これらに対してわたしを助ける者はないのだ』
天使長ミカエル。
それを示す人物は彌莉?
「わたしを助ける者? わたしって一体……誰のこと? 彌莉と優美の両親のことかしら?」
――両親は最初から優美ではなく彌莉に全てを託していたのだろうか。
当時、僅か六歳にして物理限界にまで迫るほどに大天使ミカエルの力を上手く使えた彌莉に。
「でも、なんだろう。何か違う気がするのよね……」
「そうだね。私もそれを読んだ時、疑問に思った。彌莉のことを言っているのは多分間違いないと思う」
出入口の扉が開く音が聞こえると、声が聞こえてきた。
それはとても聞き覚えのある声で、今さら顔を見なくても誰かわかる。
「あら……来たの?」
「……う、うん」
「もし彌莉から避けられて居場所なくなったからなんとなく来たとかならお帰り願うわ。私は仕事で忙しいの」
「そもそもの原因は泥棒猫だけどね。男の子にデリケートなさすぎなんだよ。普通寝汗だけ拭いたって言えばいいのにまるで私達が全部見たような言い方するんだから……実際そうだけどさ……」
「……そもそも私の記憶が正しければアンタがするって言って聞かなかったはずだけど? まぁ、私もドキドキしたけど……。じゃなくて、相手してあげるからこれを読んでどう思ったか教えてくれない」
「そのままの意味。私が完全自立まで二十年という時間が必要なら、彌莉は? って意味。そう考えるとしっくりこない? 今は立っていない、だけど時期に立つってね」
「…………」
なるほど、と遥は納得した。
「そもそもその言葉は私の両親の言葉じゃないよ」
「どういう意味かしら?」
「それは旧約聖書『ダニエル書』で書かれていた言葉。恐らく両親は何かの史実に基づいてこうなると考えていたのかもしれない」
「それで?」
「だけど私が知っているアルマゲドンは三日で終わる。なにより大天使ミカエルが力を使えなくなるような事はない。つまり、これは誰もが知らない今の時代の大天使ミカエルと堕天使ルシファーの戦争なのかもしれない」
「だとしたら、とても厄介極まりないわね」
「そうだね。だから一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「なにかしら?」
「それはね――」
その言葉を聞いた時、遥は正直驚いてしまった。
御守りに付属した通信機能を使い、彌莉とルーミアの会話を聞いていた遥と優美。
むしろその会話のおかげで優美が絶対的に信頼する彌莉が絶対に護ってくれると知って心が安定へと向かった。その後生死の境を彷徨うと再び不安定になり始めたが、彌莉の回復と共に優美の心も回復し今は大分安定しているように見える。だから確認しておく。
「正気?」
優美は答えない。
ただ真剣な目で遥の黒い瞳だけを見つめて頷く。
「……わかった」
彌莉の為に自分も戦う、と言い出した優美の覚悟に遥は答えようと思った。
だから伝えることにした。本当の真実を――本当は皆同じ気持ち、だと。
それから、遥は軍を動かす準備を始めた。
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