第25話 彌莉バーニングクラッシュ
「あれは泥棒猫が有罪。彌莉は無罪。だから別に不良の事故扱いでよくない?」
救世主? なのかと言いたくなるフォローをしてくれる優美。
だけどなぜか微笑みの後ろに裏があるような。
「……あんたねぇ……私を誰だって思ってるの?」
「誰って泥棒猫だけど?」
「私これでも女王陛下なのよ? ったく失礼しちゃうわね」
「……もしかして彌莉が寝ている間、彌莉、彌莉、彌莉って連呼して職務放棄を丸一日して大泣きしていたくせに心拍が安定して時期に目覚めるってわかった瞬間に冷静を装って彌莉が起きるのを待っていた女の子の話し?」
ニコニコしている優美の言葉に、ゆでだこに負けないぐらい一瞬で顔を真っ赤にして、目と口を大きくあけて息を吸い込み「このばかぁーーー!!! それは言っちゃダメな話しでしょうが!!!」と近くにいた彌莉の鼓膜を破ったと錯覚するぐらいに大きな声を遥が出した。
「大丈夫? それ自分で色々と認めてるけど?」
「アンタが余計なことを言うからでしょ! なによ、アンタだって彌莉~ってずっと泣いてたでしょうが! そのくせ、心拍が不安定な間は「これでなにかあったら私絶対に泥棒猫許さないから!」とか言ってたくせに心拍が安定したら「とりあえず彌莉のために許す」と格好付けておいて彌莉が私を許した瞬間ご機嫌直して平然と話しかけてきて! この救いようのないブラコン妹!」
「むむっ! それは言ったらダメなやつ! 私そんなに口悪くないもん、泥棒猫以外には!」
突然始まった暴露大会に彌莉は苦笑い。
両手で耳をふさいでも聞こえてくる二人の声は彌莉を挟んで行われ両サイドから聞こえてくる声に口を出そうものならとばっちりがくると思い、しばらくお口をチャックして心を無にしてやり過ごす。恐らく、相手を陥れるために一部話しを盛っているのだろうと二人の性格から想像が付くため全部を間に受けない。下手に間に受けると不法侵入から始まった毒抜きの事件のように自らの首を絞めることになるかもしれないから。
「なっ!? なんで!? 誰にも言ってな――ッ」
ん? ちょっと過去の記憶を思い返していただけに話しが全く頭に入っていない彌莉を急に見つめて、それも頬を真っ赤にしたまま、羞恥心を恥じらうような乙女のように、顎を少しひいて上目遣いになった遥は色気がありとても可愛い……は口にすると癪なので、首を傾けて、
「どうした?」
「彌莉……小悪魔ブラコンの言葉は嘘だからね!」
呼び名が坂道をコロコロと転がるボールのように変わるがそれでも誰を指しているのかすぐにわかる彌莉は、
「あっ……うん。だと思った」
と会話の内容を全くといっていいほどに最初しか聞いていないのに答えてしまった。
「彌莉? 私の言葉を疑うの?」
「疑わない」
つい癖とも呼べる条件反射で優美の言葉に返答し、はっ! と気付くがもう手遅れになり始めていた。
「だそうよ? 早く認めたら? 十六歳の初恋がまだ続てるって。初恋の理由は偶然見たタオル一枚の裸姿だったかしら? あれは衝撃的だったわ。まさか、鼻血を出して「やっぱりかっこいい……抱かれたい……」なんて私の前で呟くんだもん。幾ら親しい間柄だけの家族交流会を兼ねた大浴場の混浴とは言えね~」
「……ばか、ばか、ばかぁ! もう性格最悪ブラコン末期女しか知らない私の恥ずかしい秘密を暴露しないで! そもそも女王である前に私だって一人の女の子! 別にいいじゃない。てかなんでそんな死ぬ程恥ずかしい大浴場(過去)のことをまだ覚えている以前に言っちゃうのよ! 嫌がらせにも限度があるって知らないの? そもそも相手特定できるような事ばっかり言うのはもう止めて! 幾らアイツが恋愛に鈍感だとしても、もしこれで私の気持ちがバレたら私、わたし、わた、し……」
身体をぶるぶると震わせて、熱い視線による上目遣いで、大人の女性(色っぽさ)を醸し出す(本人には悪いと思うが今まで一番エロいと思わせてくれる)年上のお姉さんはなぜか視線を彌莉に向けたままナースコールならぬ従者コールボタンを力強く目一杯押した。
「急にどうしたんだ? 発情期?」
ナース=エロい。
という定義が頭の中にあったために、咄嗟にでてきてしまった言葉はまさに地雷とも呼べる。
「……………………」
その言葉に遥がさらに顔を真っ赤にし目をウルウルさせ下唇噛みしめ沈黙。
「ぷっ、……………」
優美が口を両手で抑え必死に声を殺し笑っている。
「な、なによ? 私に性欲があったら可笑しいの?」
その言葉に彌莉はゴクリと息を呑み込む。
「い、いえ……」
「なら、例えばある女の子が寝ている男の子の寝汗を全部拭いてあげたとする。その時に偶然逞しい身体を見てドキッとしても仕方ないことよね?」
「………………ん?」
急に全身がむず痒くなってきた。
あれ……。
なんだろう……。
この形容しがたい違和感は。
例えるなら夜な夜な行われる楽園(エデン)の扉を開く儀式に使われる物を含めて不意打ちで全部直視された時のような、死ぬ程恥ずかしくなるようなモヤモヤしてむかむかもする巨大な不安。
その正体は……一体なんだろうか……?
「ちょっと待って! 寝汗拭いてくれたの?」
「「うん」」
「全身?」
二人の女の子の頷きに、彌莉の頭がバーニングクラッシュ。
同時に光の速さで毛布を手繰り寄せ目にも止まらぬ速さでお団子になり「いやぁぁぁぁぁああああああ!」と声を裏返して事の顛末を理解した者は叫ぶ。
直後、彌莉の頭は恥ずかしさで頭がパンクし真っ白になった。
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