第22話 ルーミアの動く理由
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意味がわからない。
どころか、理解に苦しんだ。
限界を超えた身体は膝から崩れ落ち、地面に片膝をつき顔を上げ、ルーミアに視線を向ける彌莉は言葉を聞き間違えたのかと思った。ありえない、両親が。そう思いたいし信じたい。だってそうだろ、自分が尊敬していた両親が人殺しだったなんて。でも、そんなのは戦争を知らない子供の幻想で綺麗ごとなのかもしれない。
「戦争って言葉を君は本当の意味で理解しているかしら?」
ルーミアは言った。
その声はとても悲しそうで、とても弱々しくて、とても強者が言う台詞とは思えない。むしろか弱い女の子が言ったようにしか聞こえなかった。
「対立する二つ以上の集団が武力による解決を図る方法だろ?」
「戦争によって得る利益は膨大。だけどその利益を得る為にどれだけの人、物資、財が失われるか君は知ってる?」
「…………」
「それが正解。規模が大きくなればなるほど多大な犠牲の元に多くの者に平和が与えられる。君の平和や日常、退屈な日々、は一体誰が手に入れたものだと思う?」
「それは……」
「逆に君がそれらを手に入れるために何が犠牲になったと思う?」
「まさか……」
「私一人を相手するだけでオルメス国は二枚あるうちの一枚切り札を使った。もし私が正真正銘本気になれば一枚では無理だと今ならわかるわよね? でもね、私も今いる国を敵に回せば恐らく数日で殺されることになるでしょう」
それが当然と言いたげにルーミアは続ける。
「圧倒的な数の前では私が幾ら強くても力が消耗すれば負ける。世間的には『決死の物量作戦』なんて呼ばれている戦法よ。大きく動けばそれが両国とも可能。その後に生じる損失に目を向けず目先の利益だけ見れば」
納得した。
遥も似たような事を言っていたから。彌莉は戦争という物を文献や資料映像、後は知人から聞いたことしかない。だから本当の戦場は知らない。違う。知っているはずがないのにも関わらず今まで彌莉はそれを知っていると勘違いしていた。
「名前は……優美って言ったけ? 彼女はハッキリ言うと天才なのよ。それも超が付く」
「……はっ? 優美が?」
「神の力でも別格の力を天から授かりし巫女。いや御子なのよ。それは一つの国家を揺るがすほどに強大な力を持った。だから、私サイドにいる人間は皆恐いの。いつその力を向けられるかと思うとね」
「……だとしても、優美がそんなこと」
彌莉は唇を噛みしめ、腹の底から息を吐き出して、
「誰かの命を奪うなんてことするわけないだろ! アイツは人一倍優しく人の心に寄り添うことができるただの女の子なんだ!」
「そうね」
ルーミアは頷く。
「……ただし”今は”の話し」
「……?」
「もし力を目覚めさせ完全に扱う事が出来るようになれば、数日で私達を滅ぼすことができる程に強力な力を内に秘めているのよ」
そんなのもう最強じゃないか。
だけどそれよりも気になる事がある。
「な、なんでお前がそんなことを知っているんだ?」
「各国の上層部では有名な話しだと思うのだけれど、そちらの世界では誰も知らない……。そんなはずはないと思うのだけれど……。だって君の両親は少なくとも知っている感じがあの時したし……」
まさか。
頭の中で何かが引っかかる感じ、その違和感はすぐに形となって脳内である答えを導いた。
『生前日記』
そこに書かれていた、『必要最低限』とはもしかしてこのことだったのかもしれない。
信じられない。
もし彌莉の導き出した答えが正しい解だとしたら、先代国王、女王、遥、そして両親もっと言えばそこに関りがありこの事実を知っていた者達全員が、
「優美を兵器として見ていた……?」
そういうことになる。両親は俺達を愛していたから護ってくれたのではないか。心の中に生まれた疑心はすぐに大きくなる。
「待て、遥が優美を護ろうとした……なにより王城に迎えた理由は……」
そんなはずない。
頭の中で必死で否定するも一度生まれた疑心は中々消えない所かどんどん大きくなっていく。彌莉はそんな可能性を信じたくないのに。
「……兵器として利用。もしくは人間兵器」
ルーミアはため息混じりに答えた。
それは他人事ではなく自身もまた被害者だと言わんばかりに。
「力ある者の宿命。なぜなら存在するだけで敵国の抑止力になる。そう考えれば当然と言えば当然のこと。上に立つ本人達にその自覚はなくても扱われる身からしたら……私達は代用がきく兵器の一つでしかない」
だから、とルーミアは凍えるように告げる。
「王の命令一つで本人にその意思がなくても私達の平和は崩される」
「……」
「もっと言えば王の気まぐれ一つで私達を滅ぼす事だってできる。それは他国の王も同じ。大切な人を人質に取られれば人間簡単なもので己の意思に関わらず動けるようになるわ」
彌莉が動いた理由が優美を護る為だというなら、ルーミアが今動いている理由とは、
「私は弟を人質にとられた。不思議な物よね、無気力だった私がたったそれだけの事で動く意思を手に入れた」
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