第18話 両親が護りたかったもの
「先代の王たちは偉大だったのかもしれないな。強国達と上手く手を組み援助を受けていた。それは正しかった。だけど今の王はそれではダメだと判断した。それは間違いではない……と思う。きっとなにか考えがあってのことだろう――っ」
どのみち逃げたってどこかでルーミアを倒さなければ優美に未来はない。
もっと大きな話しで言えばオルメス国に未来はない。
このまま座していれば間違いなく滅びの道を辿るだろう。
「俺は……一体どうしたらいいんだろうか?」
ふとっ、思う。
自分に自信がないから今まで逃げていたのかもしれない、と。
多分そうなのかもしれない。
そして思い出す。
いつも隣にいる優美の笑顔と遥の笑顔。
そして考える。
あの二人の笑顔がない世界はどうだろうか? と。
きっと今より息苦しいのだろう。
「結局のところ俺は自分を大切にするあまり臆病だったわけか……」
全てが繋がった気がした。
彌莉はなんだかんだ自分が一番大切だった。
だからこそ自分に都合が悪い事を全て受け入れることが未だに出来ないでいた。
いつもそれらしい言い訳を並べ逃げてきただけの男に大天使が力を貸してくれるはずもない。なにより死んだ両親は今の彌莉を望んだのだろうか。きっとあの世で失望しているに違いない。自分達が命を掛けて護った男が二年も現実から逃げていると。
「今ならわかる気がする。お父様とお母様の最後の言葉の意味が」
――ドクン、ドクン
本当は気付いていた遥が死にそうな顔してたことも。
多分殆ど寝てないって顔。
目の下のクマがとても酷かった。
それでも平常心を取り繕って頑張ってた。
本当は誰よりもこの状況から逃げ出したいはず……なのに俺は。
自分の事だけで精一杯だったなんて……。
優美も。俺に無駄な心配をかけないようにアレは間違いなく頑張ってたな……。
彌莉は静かな声で、今の心情を呟く。
「残念だけどさ……」
誰に告げるわけでもなく、ただ自分自身に言い聞かせるようにして。
「このままだと……遥の願いは叶わない」
ハッキリと初めて自分の考えを口にする。
――ドクン、ドクン
「なぜなら彼女は――オルメス国を危険に晒した女王陛下なのだから」
――……。
――――……。
「そう、誰がなんと言おうと俺の知る彼女は愚王……」
長い沈黙の後、彌莉が微笑みながら言った。
「お前は知ってたんだろうな。そして全ての望みをそこに賭けた」
さっきの話しに裏があり、遥はその可能性に気付いていたのだろう。
裏を返せば彌莉なら勝てるかもしれないという可能性に。
立ち上がり、窓から見える夜景はとても綺麗だった。
沢山の光が作り出す夜の街はとても神秘的に思える。
だけどその景色の先では凶暴なドラゴンが闇に姿を隠し飛んでいる、となんとも日常と危険が隣合わせだなと思う。
これが――。
両親が見ていた世界。
まるで平和の裏に隠された危険。
その危険をいち早く察知し皆の日常を裏から護っていた両親――優秀な傭兵(護衛)。
今なら二人の気持ちがわかる気がする。
大切な人がいるこの国を護りたい。
きっと、そう思っていたのだろうと。
――ドクン、ドクン
さっきから鼓動が高鳴り、血の巡りが速くなっている。
「最後まで賢王になることを諦めない意思を俺に見せた。なら今度は俺の番ってことか……。傭兵貴族の名門に拾われた以上少しは恩返ししないといけないか……。家の名に傷を付けたままじゃないけない。そうだろ? 覗き間二人組?」
まったく想定しなかった言葉に窓ガラスに反射した二人組が苦笑いをしながら扉を開けて中に入ってくる。扉を音もなく開け、そこから覗き見。なんとも趣味が悪い、と言いたいが今は目を瞑ることにした。
「気付いていたの?」
黒い大空を照らす星空はなんとも綺麗。
そこに一際存在感を見せる大きな月は沢山の星に負けないぐらい綺麗に月明かりを照らしている。
「まぁな。一応聞くが、お前はまだ諦めていない。それでいいんだよな?」
「えぇ、当たり前じゃない」
即答した遥に。
彌莉は視線を空に向けたまま。
「……もう我慢しなくていいからよ、教えてくれ。優美の素直な気持ちをさ」
まるでお別れの挨拶のように、どこか遠くの世界を見つめた兄に妹は素直な気持ちを伝える。
「恐いよ……助けて……」
兄の元へ行き涙を目から零して背中に泣きつく妹に兄は答える。
「わかっ――」
その時だった。
城内全体に突如として警報が鳴り響く。
『これは訓練ではありません。王都中央区、王都中央区に凶暴なドラゴンが侵入。数は十六。総員緊急戦闘配置に付いて下さい。繰り返しますこれは――』
間髪入れずに聞こえてくるアナウンスに戸惑う優美と遥より先に彌莉が窓の外を見るともうすぐそこまで凶暴なドラゴンが来ていた。
考える暇はもうなかった。
もしあの群れがここに到着したら、そう思うと頭の警報が大音量で鳴り響いた。
ドラゴンの目的は間違いなく優美。
ならば、やる事は決まっている。
「遥。優美を頼む!」
振り返り頭を優しく撫でながら、笑みを向ける。
その一連の言葉と動作に優美が大きく目を見開く。
「……いより?」
「そこにお父様とお母様が残した日記がある」
そう告げると、彌莉は優美の手をそっと身体から離し歩き出す。
「えっ? ちょ!? 今度は何処に行くのよ!?」
「秘密」
「嫌な予感しかしない私はどうしたらいいのよ?」
「そこにいろ」
機械のような声と返事にイラっとしたのか遥が手に持っていた御守りを投げつけるも、それに気付いた彌莉は手でキャッチして「安全祈願って小学生かよ……」とぶつぶつ言いながらも首からぶら下げる。
「ただの散歩だよ。だから心配するな」
ようやく彌莉の意図を汲みかねて、遥が困惑する。
だが、後ろを振り返らず、そんなのお構いなしに。
「賭けはお前の勝ち。悪いけど優美をしばらく頼む」
と彌莉は言い残して部屋を出て行った。
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