第14話 追走の刻 前編
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「なら、優美行くか?」
「うん」
我が家でそんな会話があったのは数時間前のこと。
ニュースで場所によっては緊急避難命令があちこちで発令されたことを知った彌莉と優美はまだ比較的に安全とされている内に亡き両親に会いに行くことにした。
もうすぐ命日。
そんな理由も合って、行けるうちに行っておこうとなった。
だけど避難警戒令が出ている時点で王都も危険。
なので優美は家に残そうと考えた彌莉だったがその案はすぐに破綻。
「……寂しいから一緒に行く」
という理由らしいのだが、本当は誰よりもお墓参りに行きたかったのではないかと思う。なぜなら優美がこうなったのはあの日が原因。それは道中繋いできた手の震えが教えてくれた。お互いが支え合っていなければすぐに崩れてしまいそうな関係。それが彌莉と優美。二人は歩き続ける。だけど両親の死を受け入れいられていないからなのか、そこに行くまでの道のりがやけに遠く感じる。
「……そうだ。二人が好きだった物なんか買って行かないか?」
「……そうだね。きっと喜んでくれると思う」
道の脇にある店で二人が好きだったお茶菓子と缶珈琲をお土産として購入。
「――これで足りるかな?」
「足りると思うよ。それに多すぎてもアレだしちょっと足りない程度で良いと思う。それに……」
少し口を重くした優美が、
「なにより気持ちが一番大事だと思う……から」
と、言った。
確かにその通りだと思った彌莉は頷き、優美の手を握って再び目的地へと向かって足を進めていく。
お土産を買いに寄り道したことで、気が紛れたのか二人の足取りがさっきと比べると何処か軽いようにも感じられる。
道中国からの警戒令並びに緊急避難命令が出ているためか、いつもより人が少ないことも二人にとっては幸運だった。おかげで周りの目を気にしなくて済むからだ。過去にミカエルの力を継承する者として期待されていただけに世間の目は少なからずある。それが重荷とならなくて本当に良かったと思う彌莉。
ただし――普段ある目があり、普段ない目があった。
普段人がいる所に人がいなくなったり、少なくなったりすると、悪さをしてやろうと悪人と呼ばれる――犯罪者が増えるのはどの国も共通なのかもしれない。
ついでに言えば、犯罪者が丸腰なわけがない。
そして治安を普段守っている者が戦線に駆り出されればいなくなる。
「まぁ……世の中そんなもんだよな」
「悪い人ってどこでもいるんだね」
「あー。できれば関わりたくはない」
「同感。私悪い事する人嫌い」
本当は止めるべきなのだろうが、どうやらその必要はないようだ。
呑気に手を繋いで歩いている場合ではなくなったからだ。
複数の人間が物資を盗み逃げようとしていた足を止め、そのまま二人を囲むようにして広がった。
黒装束に大きめのバックをぶら下げ、動きやすそうな運動靴。
「うげぇ……。まじかよ……俺達からも金品盗む気かよ……」
ため息混じりに天を仰ぎ、やれやれと首を横に振る彌莉。
まさかこんな大事な日に犯罪に巻き込まれるとは運がない。
人相の悪い集団がニヤリと微笑む。
まるでカモを見つけたと喜んでいるようだ。
身の危険を感じ優美をかばう彌莉。
「金品と女を置いていけ。そうすればお前は見逃してやる」
…………。
案の定というか、想像通り過ぎて逆に困ってしまった。
「って言ってるけど、優美どうする?」
「ん?」
「付いて行くか?」
「いや! 私彌莉と死ぬまで一緒にいる!」
「…………みたいだから見逃してくれない?」
「お前! ふざけてんのか! 命が惜しくないねぇのか!」
叫ぶ悪い集団に。
イラっとした彌莉は優美にだけ聞こえる声で話しかける。
「冗談半分で見逃してもらおうと思ったけど……ちょっとアイツらに現実教えてくるからここで待ってて欲しいんだけど?」
「だと思った。アイツら彌莉がふざけてる時が最後って気付かないバカだったね。いいよ、待ってる」
お互いに納得した所で話し合いが終わる。
「奪うなら力づくで奪ってみろ、三下共が」
「へっ! いい度胸じゃねぇか!」
余裕を見せる悪い集団。
全員がナイフや木刀といった武器を持っている。
だが――大天使ミカエルの力は不安定で今は上手く使えずとも天使の力だけなら上手く使える者は、
「格の違いを見せてやるから全員死ぬ気でかかってきな!」
と、相手を挑発し敵の狙いを自分へと集中させ、優美の安全を最優先とした。
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