第13話 か弱い背中と素直になれない女の子


 ■■■


 案内された部屋は――豪華な装飾品に飾られ、ベッドもキングサイズ、部屋の雰囲気は高級ホテルそれもスイートルームと比べても負けないぐらいに……何もかもが彌莉と優美の想像を絶した……。


「ではごゆっく――」


 お辞儀をして、部屋を出て行く女従者を呼び止める彌莉。


「待て!」


 その顔はとても不服そう。


「はい? なにかご不満でもございますか?」


「大有りだ!」


「も、申し訳ございません!」


 扉を半開きにしたまま必死で謝る女従者は頭を低くして、不服顔の二人の顔色を伺いながら、慎重に言葉を選びながら、


「で、でも勘弁してください……これ以上に良くて寝室を兼ねた部屋となると王城でも王族の寝室ぐらいしか……なくて本当に勘弁してください……」


 と、事情を説明した。

 そう、これ以上の部屋は用意できないと言ったのだ。

 でも考えて見て欲しい。

 ポロシャツ一枚にジーンズ、スニーカーの青年と綺麗な髪は潤いがあり服装もオシャレ、薄化粧をして美貌を際立てる少女。

 この女従者は相手を見る目がないのかもしれない。


「こんな貧乏くさい男と色気はあるがまだ法廷上は未成年となる女が泊まる部屋にこれが相応しいと思うか?」


「…………」


「もっとボロい客室に変更で。ここだと休むどころか気疲れするから」


「同意。私達そんなに凄くないただの一般人……」


「…………?」


 グレードアップならぬグレードダウンを希望する二人に女従者が言葉を閉ざす。

 女王陛下が自ら足を運び会いに何度も行く相手が一般人?

 女王陛下が最後に頼れる相手が本当に一般人?

 そもそも幼い頃女王陛下と毎日遊んでいた少年少女が一般人?

 なによりこの国の命運が託せるようなお方が……。

 頭の中で検討考察をしていく。

 それからしばらく訪れた沈黙を破った言葉は、


「……では、ごゆっくりどうぞ。私は失礼します」


 だった。

 すぐに半開きの扉が閉まり、廊下を駆ける足音が聞こえ遠くなっていく。


「逃げたぞ!? アイツ!」


「うそ!? 本当に私達ここに泊まるの!?」


 冗談抜きで驚いた彌莉と優美はお互いの顔を見る。

 次に部屋全体へと視線を飛ばすが、やはり豪華、広い、凄い、としか言いようがない部屋に戸惑ってしまった。

 こうなった以上、好意を受け入れる方向で頑張ってみることにする。

 慌てても仕方がないと思い、ベッドに腰を降ろして諦めのため息をつく。


「――まぁ、いいか。これが最初で最後かもしれないんだ。今回ぐらいなら……」


 優美が小首を傾ける。


「……ん? まぁ、彌莉がいいなら……私も……いい」


 お互いの意見が同じになり、二人きりになった。

 なので心から一言、今までずっと我慢していた一言を、こぼす。


「あぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁ………………」


 ようやく……。

 ここにきて言えただけに嬉しかった言葉。

 それは始まりにしか過ぎず、優美の前で愚痴をこぼし始める彌莉。


「やだー、逃げたい! 死にたくないー! なんで俺なんだよ……」


 同じく優美。

 ようやく訪れた解放感に大きく背伸びをする。

 近くにある小窓から景色を見て、深呼吸。


「それは私もだよ……」


「でもさ、アイツ……顔には出さないように結構頑張ってた……俺達が過去から逃げ現実から逃げてるのに対して一人で……よく頑張ってるよな……今も」


「……うん。苦しそうだった……。わたっ……し、たち……と違って逃げたくても逃げれない立場ってのは……大変そう」


 まるで他人事のように呟く優美に――ふむっ、と納得する彌莉。


「それにしても優美に力があったとは驚いたよ」


「わ、私も……彌莉から天使の力じゃないって昔言われてたから……。てっきりこれが普通の一般人の感覚かと思ってた」


「だよなぁ~。でもまぁ、安心しろ。なにがあっても俺が優美を護るよ。だからそこまで気にするなよ? 遥の言い方から察するに慌ててもしょうがない。後は時間との問題って感じがするしさ」


「だね。今の私じゃどう頑張っても国を救えそうにないし……」


 そんな他愛のない会話はすぐに終わる。

 精神的に疲れたのか、それとも……。

 優美が静かに彌莉のいるベッドまでやって来ては隣に座る。

 そのまま身体を預け、ゆっくりと瞼を閉じた。

 表情にこそ出さないが、嫌な過去と頑張って向き合った反動は確実にきていた。

 それは優美も同じだと思う。

 ――そうなるわな。

 文句や弱気な言葉を一切言わず、今を平然として現状を受け入れている。

 だけど本当は怖いのだろう。

 閉じた瞼から落ちた一滴の涙が物語っていた。

 誰も止める事ができない相手の目的が自分を殺すことと言われれば誰だってそうなるだろう。まだ、十九歳の少女にこの現実はかなり辛い、と思う。だから気休め程度にしかならないとわかっていながら彌莉は優美の身体を抱き寄せて、


「大丈夫。俺が護るから……お兄ちゃんが必ず護るから」


 優しい声を投げかける。

 その涙を見た時、今まで以上に護りたいと思った。


「……ごめん。もう少しだけ……」


「あぁ……気が済むまでこのままでいい」


 彌莉は優美の心が落ち着くまでこのままでいる事にした。

 それと一緒に今朝の事を少しだけ思い出してみる。

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