第12話 誰のためなら頑張れる?


『堕天使ルシファーの力を色濃く継いだコイツはいずれお前達の前に再び現れる。その時お前はどうするべきかを……考えろ』


 ……待て、何かがひっかかる。


 なぜ、ルーミアは優美を狙う?

 今後の脅威になると考えたから――それはわかった。

 なら、なぜルーミアはこの時を二年も待った?

 可能なら戦力を立て直し過去すぐに攻め込めばよかったのではないか?

 それができなかった理由は一体……。

 想像以上に向こうもダメージを受けたから?

 本当にそれだけが理由なのか。


「ゆ、優美に……そんな力が……でも、なんで……」


「え? うそっ、そ、そんなことあるの?」


 完全に予想の遥斜めをいった彌莉と優美。

 遥の言葉で思考が安定しない。


「昔からそうかな、とは思っていたけどやっぱり気付いていなかったのね」


 と、遥は何かと頷いて続ける。


「そもそも力ってのは生まれた時にはもう各悦しているもの。だから基本は生まれ持っての力と世間的には認識されているわ。でも後天的に力が目覚めることも零ではない。まぁ……隕石が地球に落ちてきてその下敷きになる確率程度には実際存在するのよ」


「まじか……知らなかった」


「……わ、わたしも初めて聞いた……」


 驚き感心する彌莉と嬉しそうな優美。


「一応言っておくけど、その力が何の神かは私も知らないわよ」


「え?」


「私が今優美の力を感知する限り天使の力じゃないってことは確かなのだけれど、私ができるのは知らない力を感じることだけで、その正体まではハッキリとはわからないの。多分彌莉が上手く気付かなかった理由も同じはずよ。力は感じられるけど、私達の知る天使の力とはどこか違うでしょ?」


「なるほど、言われてみれば納得できるな……」


 頷く彌莉とそれを見て小首を傾ける優美に遥がニコッと微笑んで、


「――これで全部よ」


 と、言葉を紡いだ。


 ――――んッ?


 疲れ切った顔に笑みが戻り始めた遥は「だから」と。


「事情は全部話したって言ってるのよ。先日私が力を貸してと言った時に事情を話せって言ったのはそっちよ。確かにあの時は説明不足だったと私自身後で思ったわ。どこまで話していいのか正直迷っていたのもあって。だけどこれで私の本気がわかったはず。どうかしら、これで力を貸してくれないかしら? 少なくとも二人を説得するだけの情報は開示したはず」


 ……なるほど。

 確かに無関係を装うには知り過ぎてしまった。

 まさか一国の命運がここで決まるようになるとは、この国は随分と運がないと言えよう。彌莉は亡き両親との最後の約束を守らなければいけないと心の隅ではいつも考え思っている。それが亡き両親と彌莉を繋ぐ最後の形ある繋がりだから。だけど、トラウマが邪魔してあの光景を……あの瞬間を……もう二度と見たくないと強く脳が訴えてくる。それゆえ、オルメス国の運命は――。


「……悪いが、やっぱり国のためだけには戦えない。それじゃ俺が動く動機としては小さ過ぎる。俺は皆のヒーローでもなければ英雄でもないから。それに俺が戦場に出ても勝てる保証はどこにもない時点でただの一般人と何も変わらない」


 そう言って隣にいる優美の頭を撫でる彌莉が、


「だからさ、国じゃなくて……コイツのためなら……頑張れるかもしれない」


 大切な人、最愛の妹、なにより今隣にいる家族を、


「だから、今夜まででいい。時間をくれないか。考える時間を……」


 護るため、今までなら逃げていた現実と向き合ってみることにした。

 だから。

 ――まだわからない。

 オルメス国の命運もだが自分自身本当はどうしたくてこの後どうするのかなんて、今は誰にもわからない。


「わかった。返事は……今夜私が寝るまで。それで構わないわ」


「……助かる」


「彌莉? 無理してない? 大丈夫?」


「あぁ。優美も頑張って話し聞いたからまずは考えるだけ。それでどうするか決めようかなって心が揺れた俺の気持ちわかってくれるよな?」


「……うん」


 コクりと優美が頷くと、鏡のように彌莉も同じく頷く。

 二人の目には不安の色があり、お互いの瞳にはそれぞれの姿が映っており、それは不安になりながらもお互いを信じ合っていた。

 すると、我に返った女従者が正気に戻り首から上をキョロキョロと動かし始めた。

 それを見た遥が「客人を部屋に案内しなさい」といって、彌莉と優美を客室へと案内させた。


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