第11話 確証がない推測


「確証はない。だけど前回からちょうど二年と考えると周期的にも納得がいくのよ」


「ちょっと待ってください! そんなの幾らなんでも考え過ぎでは?」


「――つまり、竜の産卵期で気性が荒いこの時期を利用したってこと?」


 と、優美が答えると、遥が続く。


「そう配下の竜たちにオルメスが産卵の邪魔をしようとしていると主であるルーミアが言えば竜の雄は雌と卵を護る為にオルメスを敵対視する。普段は温厚な竜の雄たちも雌と卵のために捨て身で攻撃してくることになるわ」


「それは……なんというか……」


「大胆な作戦……ですね」


 彌莉と女従者は顔を見合わせて声を繋げた。

 まさかこの戦いに竜を巻き込み挑んでくるとはそれだけ本気でこの国を潰そうとしている証拠なのかもしれない。


「そのせいで竜たちが暴れ北部にある軍事拠点の一つが潰された――けど」


 ――やれやれ、と。

 遥はここからが本当の問題だと言いたげにため息混じりに続ける。


「竜たちが数の暴力を仕掛けてきたことでルーミアは無傷。今も歩いてこちらに来ている理由は竜たちの休息の時間を与えるため――それと」


 …………はい?


「私達にプレッシャーを与えるため、と言うのが私個人の見解。そしてオルメス国がこのピンチに戦力を集中できない理由でもあるのよ」


 …………え?


 流石にこれにはどう反応を示していいのかわからないらしく、とうとう優美も口をポカーンとさせ遥を見ている。


 女従者は言葉すらでないようだ。


「簡単にいうと私達はルーミア以前に竜たちの進行すら止められてないのよ。既に沢山の竜たちによって視認できない距離から包囲されているわ。まさか衛星監視システムじゃないと見えない所で実はまだ沢山集まって隠れているなんて民達は言えないわよね……あはは……」


 流石にここまでくると、なんというか。

 今自分達がここにこうして集まれている状況そのものが奇跡とまで感じさせられてしまう。

 仮面を捨て疲労困憊の顔をさらけ出した遥はいつの間にか顔色が悪くなっていた。


「……えっと……つまり……冗談抜きで彌莉に頼らないとマズイ状況まで追い込まれている……なんて言わないよね?」


「……自分の大切な人にこんな重い話しを最初からすると思う?」


「……で、す……よ……ね?」


 ここでようやく理解が追いついたのか女従者。


「も、もしかしてルーミアを倒す戦力と竜たちの進行を防ぐ戦力……片方しかないんですか?」


「それは違うわ。片方すらもうそろそろなくなりそうってのが正解よ」


 ついに意識を飛ばして現実逃避に入ってしまった女従者。

 ただの屍となった彼女が目覚めることはしばらくなさそうだ。


「もしかしてルーミアは自分の力を使わずにここまでオルメスを追い込んでいて、ルーミアと戦い負けたという報道は全部竜たちとの戦いに負けてが正解だったりするの?」


 遥の疲れた笑みが肯定する。


「……なぁ、遥?」


「なに?」


「この事実を兵達は知っているのか?」


「知るわけないでしょ。これは私と軍の重要人物しか知らないトップシークレットよ。あの日私は彌莉と優美に事情を話すと言った。それを今果たしているのよ。これが終われば全責任を私が一人で追う予定になっているわ。それを条件に全指揮権言わば最終決定権を手にしている」


 紅茶を一口含んで遠くの世界に視線を向けて続ける。


「私の未来を全て賭けた。それでもね、足りないのよ……ルーミアに対抗する最後のピースが」


「……最後のピース」


「現状は簡単。偽りの報道による偽りの平和で兵士のモチベーション維持をしているの。そこの頼りない子が気絶して重たい空気になっちゃったしここからさらに真面目な話しをしてあげるわ」


 真剣な表情で遥は彌莉と優美を見て語る。


「ルーミアの狙いは優美、間違いなく貴女よ」


「……えっ?」


「……はっ?」


「驚くの無理もないわよね。でも最後まで話しを聞いて。言いたいことはそれから。いいわね?」


 あまりにも真剣な表情で言われてしまったために彌莉と優美はそれぞれ何かを言おうとしていたがゴクリと唾と一緒に言葉を呑み込み頷いた。と同時になぜか頭痛が始まった。


「優美の力はまだなんの形も力を持たない存在。だけど一度目覚めれば間違いなく……彌莉を凌駕する力だと私は考えている」


 緊張が走る部屋。

 三人の視線が交差する中、遥は続ける。


「名もなき力。それは二年前の襲撃にも実は繋がっているわ。貴女自身はなにも感じてないでしょうけど天使の力を持つ者からすればよくわかるのよ。貴女の力という存在が日に日に力をつけていることが。それは彌莉も薄々気付いているはずよ」


「……あぁ」


 頭が痛いのを堪えて返事をする彌莉に遥は。


「力が存在を持つまでは不安定。だけどオルメス国が大国として他国に認められる本当の理由は貴女――優美がいるから」


「……わ、わたし?」


 兄と同じく頭が痛いのを堪えて返事をする優美に遥は告げる。


「神の力。それも後天性とも呼べるそれはまさに天賦の才能が成せる所業でもあるわ」


 …………。

 優美に神の力があるとは到底信じられなかった。

 だって優美は彌莉みたいに天使の力を扱うどころか天使の力を持つ者同士だけができる相手の力を感じる力が一般人――天使の力を持たない者と変わらない。

 それでも体内から天使の力をにわかに感じることはなぜかできた。

 それは天使の脈と呼ばれる天使の力を扱うための血管のようなものが体内にあるから。

 でもあるだけで、そこに中身(力)という中身(力)は存在しなかった。

 でもそんなこともあるのだろうと特に気にしなかった。

 過去に彌莉が優美にその話しをすると、力を使えないと言われたのでちょっと変わった特異体質なのかとずっと思っていたからだ――と、少し考え事をしていると、ふとっ。


 ある言葉を思い出した。

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