第6話 フラッシュバックした過去
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――日付変わって。
派手なドレスの隙間から見える白い肌とそれを際立てる綺麗な黒髪は美を際立てる。
そんな美の象徴とも言える美貌の持ち主が時間を作って会いに来たのはこの国で唯一権力が通用しない義理の兄妹。
「だーから、忙しいっていってるだろ?」
「てか私達暇人じゃないんだけど?」
「いや暇人でしょ? 一応聞いてあげようか? 今二人が何をしているのか」
「「なにってベッドでゴロゴロ……だけど?」」
そう真剣に答えるは、黒髪短髪で寝間着の青年と頭を青年のお腹に乗せる少女。
オルメス国が持つ切り札――彌莉とブラコンの妹――優美。
「……なんだろう、言いたい事が多すぎてイラっとするのは……」
と言葉に呆れが入った少女。
オルメス国最高権力者にして最高軍事責任者――小山遥。
「……一応聞くけどお客様が来てるのに起き上がろうとすら思わないの?」
二人がいるベッドから少し離れた場所からの問いかけ。
ここで彌莉と優美の視線が遥へと向けられる。
「起き上がる? 別にいいじゃん。こっちだって不法侵入見て見ぬふりしてるんだし」
「彌莉が起き上がったら私の枕がなくなる。それと泥棒猫来るならせめて玄関からきて」
起き上がろうとすらしない彌莉と優美。
これは今に始まった事ではない。
昔からの付き合いと言うべきか幼くして両親同士の交友関係が良く生まれた時からよく一緒に三人で遊んでいた時期もあった。その名残か三人で会う時はいつしか友達感覚で会うようになっていたのだが、その時はまだなんだかんだ彌莉と優美も気を遣ってくれていたと思う。だけど両親が死んでからは僅かばかりの気遣いと配慮がなくなり堕落が急成長した気しかしない、と遥は頭に手をあて苦笑い混じりにため息をつく。
「あのねぇ~。せめてもう少し丁重にとは言わないけど、私に興味を持ってくれてもいいんじゃないかしら?」
どんなに美貌が良くてもそれに反応さえしてくれない男だってこの世にはいる。
それがなんだかムカついてしまう。
別に親しい間柄じゃなければ気にしない。
でも親しい間柄だからこそ女として見られていないのではないかと。
そう思ってしまう自分がいる。
気の抜けた声で、彌莉が答える。
「興味がなかったら完全無視もしくは強制的に追い出してる。それに口すら利かないしこちらから口を開くこともないからそこは安心しろ」
「安心できないわよぉ! どう見てもめんどくさい女って思われてる感じしかしないんだけど!?」
「なにを今さら。それはお互い様だろう?」
どうやら自覚はあったらしい。
自分がめんどくさい人間であり、そう思われていることに。
いっそ清々しすら感じてしまう。
ここまで自覚がありそれを治そうとしない意思に。
と、苦笑いをする遥に、彌莉が続ける。
「遥。お前そこまで人の評価気にする人間だっけ?」
「……そうね。気にしてもしょうがないわね。はぁ~」
ため息混じりの返答をしてベッドの端まで行き腰を降ろす。
ベッドがドサッと揺れる。
すると彌莉と優美の身体も揺れた。
「んで、今日来た用件は? あらかた察しは付いてるけど……」
「先日ルーミアの件は話したけど覚えているかしら?」
「ん? まぁ、それは」
「そのルーミアが現在オルメス国の街に向かって歩いていると連絡が入ったわ」
「それで?」
「ルーミアがこっちに来れば間違いなく大きな被害がでる。だから力を貸してくれないかしら?」
その言葉に彌莉がベッドから起き上がり頭をボサボサと掻く。
それから心配そうな表情で見つめてくる優美の頭を優しく撫でながらも視線は遥へと向ける。
「あのなぁ~。お前は頼る相手を間違ってる。餅は餅屋。なら戦争は? 誰に相談し頼むべきかわからない遥でもないだろう?」
「えぇ。だから彌莉に頼んでるんじゃない?」
「うッ……」
今は病で亡き先代国王と女王。
先代達の従者の一人として働いていた優美の両親の養子として幼き頃孤児から引き取られた彌莉。後の後継者として王に仕えるにふさわしい教育を過去受けてきた二人がただの一般人というには少々無理がある。ただし両親を失ってからは社会、勉強、人間関係からも逃げだし引きこもりを決めた義兄妹でもあると世間からは認知されている。
「それだけの力を持っていても当時両親を護れなかった。その事実がトラウマになっているのは彌莉が言わなくてもなんとなくわかる。それに妹――優美の心の支えとなり続けなければならないとその使命感から兄としての務めを果たそうとしていることも。だけどその先に何があるの?」
触れて欲しくない核心に彌莉の頭がフラッシュバックする。
人には他の誰かに触れて欲しくない過去がある。
その過去は例え両親、兄妹、親戚、従妹と血の繋がりがある親しい間柄でも触れて欲しくなかったりする。
実際それは正しい。
二年前一度も戦場に出た事がない彌莉は逃げ遅れただけでなく、初めて見る戦場に震え力を奮うどころかビビッて動く事すらできなかった。少し離れたところでは物陰に隠れ同じく動く事すらできなくなった優美もいた。
目の前で多くの者たちが苦痛の悲鳴をあげ死んでいく光景に身体が思わず硬直してしまった。
そして向けられた殺意に彌莉は生を諦め死を受け入れた。
だけどそれは――。
否定された。
実の両親に捨てられ孤児にいた彌莉を拾い育てくれた両親に。
我が子と変わらない温もりを無償で与え愛を教えてくれた優しくも厳しい両親。
そんな両親が彌莉に向けられた殺意の盾となり我が身を賭けて護ってくれた。
「お母さ……ま?」
「だ、い……じょ……ぶよ。貴方が無事……なら、それ……で」
彌莉の顔に触れる手は震えており生暖かった。
その正体は血。
殺意――殺傷能力が高い赤と白の弾幕が貫いた身体からは湧き水のように生暖かい血がドバドバと出ていた。
それでも母親は痛みに耐え、最後まで微笑んでいた。
「いい……の。わ、たしは……」
「……グズッ」
「泣かない……の。男の子でしょ。……ゆ、……みを……たのん……だ、わよ。私のさいあ……いの……むす、こ」
疲弊し弱っていく母親の声に彌莉の頭が現実から目を背けようと働く。
こんなの嫌だ。
なんで?
一人にしないでよ、お母様!
これは悪い夢!
なら早く覚めてよ!
そんな泣き言を言っても散った命は戻ってこない。
それを知らない子供は唇を強く噛みしめながらも泣き続ける。
「彌莉! 優美を連れて逃げろ! ここは父さんが時間を稼ぐ!」
「で、でも……」
「今は逃げていい! だけどこれだけは覚えておけ!」
「お父様……」
「これから先優美を本当の意味で護れるのはお前だけだ! あの子の笑顔を護れ! いいな! 堕天使ルシファーの力を色濃く継いだコイツはいずれお前達の前に再び現れる。その時お前はどうするべきかを……考えろ。優美を連れて今は生きろ彌莉! そして強くなれ!」
「お、おとう――」
「行け! 彌莉!」
「行きなさい! 彌莉! 優美を必ず守って!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
零れる涙が視界が悪くする。
そんな中彌莉は父親に言われた通り、同じく目から涙を零す優美を連れて逃げた。
これが両親と最後の会話になるとは知れず。
臆病者は妹を連れてただひたすら遠くへと逃げた。
敵の追手が来れないであろう場所を求めて。
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