第4話 女の子二人からの許可は?
優美が三人分の珈琲を用意しテーブルへと置く。
三人はL字型のソファーに座り、彌莉の隣に優美でその斜め左前が遥が座る形となった。
「悪いのだけれども、そこにあるミルクを少量貰っていいかしら?」
――その言葉に続き彌莉は自問自答を即座に行う。
ミルク?――OK
白い液体?――問題なし
少量?――いける
「出すしかないのか……仕方ない」
天が味方した。
今なら合法の元、先程やむを得ず中止させられた神聖なる儀式を最後まで行うことができる。
そう思った。
今やらずしていつやる?
今だろ!
そうだ、今しかない!
相手がそれをご所望しているのであればなおさら!
そう、内心叫びながら。
一瞬で真面目な話しムードの中そっち系の話しに持っていた彌莉は迷いなく遥の視線の先が白いミルクが注がれた液体が入った物へと向けられていると確信し行動へと移そうとする。
「ちょっ! な、何を出すつもり?」
「俺のミル――」
言葉を発しながらズボンの紐を緩め準備に取り掛かり始める。
男としてこのチャンス絶対に逃す手はない。
そう思う彌莉に声が掛かる。
「ば、ばかぁ、私が欲しいのはそ、そっちのミミミルクじゃないわよ!」
「それ以上したらチョキ―ンするよ?」
恥じらいながらも異性の身体に興味があることを隠しきれていない遥と笑えない声で冗談を言ってくる優美の言葉に彌莉は滑らかに動いていた手を止めることになる。女の子二人の合意がなければその時点でアウト。その為、千載一遇のチャンスを逃した彌莉は遥に正規のミルクが入った容器を渡し、またしても消化不良となった。
「くっ……手ごわい……」
奥歯を噛みしめ、天井を見つめる。
このままではいつまでたっても天国の扉が開かない。
なによりこの年でまだ童貞という劣等感からなのか、最近妙に気持ちの高まりが強くなってきている気がする。
周りが童貞と処女を捨て新しいステップに進んでいく中、その後を追い大人の階段を昇ることすら俺は許されないのか?
そんなの絶対に嫌だ!
とにかく今は身体の毒を抜く事に専念せねば、夜中ということもあり収まりが効かなくなった機能が理性に抗い本能を暴走させてしまうかもしれない。
ならば説得するしかない。
優美と遥の二大巨頭を前に今立ち向かわずして、いつ立ち向かうというのか。
覚悟を決め、彌莉は真剣な表情で優美と遥を順に見る。
「先に俺から真剣な話しを一ついいか?」
「うん」
「えぇ」
「例えば身体に毒を溜め込み苦しんでいた人がいるとする」
「「…………」」
「その人が体外に毒を出そうとしていたら、それが排泄と呼ばれる行為でも誰もが納得すると思うんだがどうだろうか?」
「……それは……そうかもだけど……」
「……否定……は、しない」
真摯な眼差しを二人に向け、ジェスチャーをして。
自分の熱い感情をぶつけていく。
「つまりだ! この世の全人類がそうやって生きているのだ! それは男だけに限らない。女だってそうだ。毎月要らなくなった種のベッドをいつもどうしている? 答えは簡単、外へと出しているだろう? 例えそれは毒でなくても身体にとっては不要で必要がなくなった物を溜め込めば毒になるからだ。その原理に当て嵌めるならば、俺だってそうだ! だから認めて欲しい! どうだ!?」
自信満々の表情で彌莉はついに言ってやったという達成感に浸る。
今まで事あるごとに阻止されてきた儀式。
それは一人であろうと誰かの前であろうと何故かいつも途中で終わる運命。
でも、それは今日で終わった。
そんな達成感で胸の中を熱くし涙していると、声が聞こえてくる。
「……なら認める。ただしその原理を適用するなら月に一回だけの縛りプレイが永遠に続いても良いって意味であってるよね?」
「……え? ……えい、えん?」
「だってそうでしょ? さっきの言葉から男も女もって意味ならそうゆうことだよね? ならどんなに苦しくなっても月に一回でいいんだよね?」
「……いや……」
「ん~? いやならいい子だし今日もちゃ~んと我慢できるよね?」
甘い吐息を耳に吹き付けじれったくなるような言葉遣いをしてくる優美に彌莉は唇を噛みしめながら悲しい目を向けて頷く。
「……はい。我慢できます」
「よろしい♪」
満面の笑みで答える優美。
とそれを冷たい視線で見守る遥。
「相変わらずのS気ね。苦しむ兄を見て管理し喜び、自分だけを見るように調教とは……恐れ入ったわ」
と、顔をひきつらせて遥は二人の兄妹を見て珈琲を口に含む。
そんな気が抜けたと顔に出ている遥を一瞬チラッと横目で見た彌莉は僅かに口角をあげ微笑んだ。
(やっとガス抜きできたみたいだな、俺はできなかったけど……)
ここに来てからずっと張り詰めていた表情が今のバカ騒ぎで緊張の糸が切れたのかどこか穏やかになった。それだけで救われた者がもしいるというならそれはそれで良しとしようではないか。
だがその一方で自分から他の女性へと視線が移ったことに不服を隠せない優美は頬っぺたを膨らませた。それから我慢の限界が早くも来たのかもぞもぞと動き身体の位置調整を行い彌莉の真横に来ては身体をピタっとくっつける。
「ん? どうした?」
「ううん。なんでもないよ」
優美は首を折り彌莉の肩に顔を置いて穏やかな声で答える。
「なんだかんだ二人共ようやく落ち着いてくれたかなぁ……?」
――二人の間に流れていた殺伐と空気はなくなった。
だけど。それとは別になにか大事な物を失ったような気持ちになる。
例えるなら外で楽しく遊び家に帰ったら食べようと思っていた大好きなおやつを家族の誰かに食べられていた時のような。
「なにはともあれ変態というレッテルが付かなかっただけまだましか……」
自分が今さっきしたことを不発だと思う彌莉に遥が口を開く。
「そうね。今さら新しく付くほどのことではないわね」
「――えっ?」
「だってそうでしょ? 過去に私の前で一人夜な夜な快楽を求め、喘ぎ声を殺し、興奮していたじゃない」
ため息をついてから彌莉はチラッと向けられる二つの視線を見返す。
「……それは一人夜な夜な発散していたところに偶然にも今夜と同じく何度も夜な夜な忍び込んできた痴女にとってはある意味見慣れた光景かつ俺は童貞を奪われかけたと解釈してよろしいのでしょうか?」
「まさか――失礼ね。忍び込んだのは認めるけど、奪おうとは一度もしてないわよ?」
「でも夜な夜な忍び込み気配を完全に消して覗き見してたのは事実だよな?」
「えぇ。だからいつも用事があるときは終わるまで待って声を掛けてたじゃない」
「私はいつも寝たふりしてあげてたけどあわよくばと下心見えてからは全部阻止している」
――その言葉を持ってして彌莉の心の中で音を立てて何かが割れた。
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