第3話 ちょっと特別な義兄妹
しばらくしてズボンの紐を締め直したところで、まだジンジンと痛む王たちを手で握りしめたまま、
「お、おまえぇ……この世には……やっていいこととやってはいけないことがあると……覚えておけぇ……いてぇ……よ、まじで」
と、涙目になりながら、絞りだしたような声で訴える。
すると優美が小首を傾げながらも彌莉のスマートフォンに映し出された画像と枕元にあるティッシュボックスから何かを察したのか「あー」と声を出し頬っぺたを膨らませる。
「もぉー! また他の女をダシに使ってるー」
「しょうがないだろう。妹に……言えるわけないだろう」
「でも私達血は繋がってない」
「そう言う問題じゃない」
「ならどういう問題?」
それからしばらく重たい空気が部屋を支配した。
沈黙の中、不服そうに顔を向けてくる優美。
重なり合う視線。
いつもならさほど気にしない事でも事情が事情だけに今回ばかりはそうはいかない。
なにか別の話題に変えようと頭の中で色々と考えていると向けられた視線が一つじゃないと違和感を覚えその方向に視線を飛ばす。
すると――。
「あら? 気付いたの?」
「ぎゃあああああああああああ!」
部屋の隅で動く影を見て、悲鳴をあげつつ隣にいた優美に抱き着く。
そのまま彌莉は絶叫する。
「ゆ、ゆうれいがでだぁぁぁぁ~」
恐いながらも動く影を見つづけていると、それが人の形をしているとわかる。
一旦優美から離れて、動き近づいてくる影に向かって。
「この変態が! 人様の神聖なる儀式を気配を消して覗き見とは正気の沙汰かッ!?」
と問いただす。
「いいか? 野郎の儀式を野郎に見せる気は一切ないからなッ! 俺にそう言った趣味はねぇ! それと優美は渡させねぇ!」
指差し高圧的な態度で相手を威嚇する彌莉に優美が大きな欠伸をして動く影に視線を向ける。
動く影は徐々にその姿をあらわにしていき、窓から差し込む月光がその全貌を映し出す。
薄暗い部屋ではあるが、その者の姿は異常なまでに輝いて見える。
「あら? 誰が野郎よ? 失礼しちゃうわね」
優美がベッド横にある照明のボタンを触り部屋を明るくする。
同時に彌莉を自分の方に引き寄せ、その背中へ身を隠す。
「むっ? またやって来た。この泥棒猫」
「……それは違うと何度も否定しているはずよ?」
「空間転移の力を授かる天使の力を使っての寝込み略奪は良くないと何度も言っている、遥」
その言葉にやれやれと頭を抱える彌莉と遥。
照明が点灯したことによって見えて来たのは、この国一番の美貌の持ち主とされる小山遥。
黒い髪はハリがあり美しく、彼女が少し動いただけでもほのかに香る甘い匂いは甘い果実のように多くの男を虜にする中毒性を持つ。
一見十代後半にも見える肌感は美意識の高さゆえかそれとも生まれ持った物なのかはわからない。ただ言えるのは男から見ても女から見ても美しいの一言。
――天使の力を持つ女王、オルメス国の女王、天才少女……
数ある呼び名が示す通り、彼女はオルメス国の女王にして天使の力も扱う事が出来る権威と才能に恵まれた人間。だけど才能とは残酷であり、一点突破した才能の前ではその光を鈍らせることがある。それを証明するかのように、
「私の力じゃ止められない。二人の力を貸してくれないかしら?」
と、真剣な顔で彌莉の目を見てお願いしてきた。
「相変わらず彌莉の前では弱気。民衆の前では強気。ギャップ萌えを狙った攻略良くない」
全てを恋愛に結び付け優美が警戒心をあらわにして続ける。
「才女とまで呼ばれた身でありながら、すぐに他者の力を借りて事態を解決しようとするのは逃げているのと一緒。頭が良いなら少しは私達の気持ちも考えて」
「まぁ、そこは多めに見てやろうぜ、優美」
困り顔の遥の味方というわけではないが、今にも泣き出しそうな遥への言葉に流石の彌莉もこれはと思う。だけど事情がある優美の気持ちもわかる彌莉。過去の因果は決して忘れる事がない事実であり、それが消える事はなく生涯消えない傷となって心に刻まれてしまったのもまた事実であると。
「ちゃんとした理由があるなら私そこまで反論しない。でも理由を話さず助けを求めるのは理に叶ってないと思う」
「ふむ……」
一理あるな、と納得する彌莉。
一見優美の我儘で反論していると思ったがそうでもないようだ。
ならばと思い視線を遥へと向ける。
「優美の意見は最もだと思うがどう思う?」
急に視線を逸らし、戸惑いを見せる遥。
それを布団から起き上がって彌莉の横へとやって来た優美が疑問に思ったのか口を開く。
「簡単には言えない事情ってやつ?」
容赦なく直球で質問する優美は続けて、
「先に言っておくけど、命は有限であり天に帰った命は同じ形では二度と地上には降りてこない」
と、どこか冷めた声で言った。
――命の重み
大切な誰かを失った痛みを知っているからこそ言える言葉でありそこに重みがある。
それは強がりなどではない。
悲しい現実を受け止めた先に得た答え。
だからこそ相手の心にも強く響いたのかもしれない。
「……わかった、事情を話す。それを聞いて協力してくれるかを決めて」
その言葉に彌莉と優美が視線を重ね頷き合う。
「「わかった」」
立ち話しをするには場所が悪いと思った三人は一旦寝室を出てリビングへと移動することにした。
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