第17話 翼竜の友
名付けから1週間経ったその日。
傷が完治した僕達に、アーヴェを通して魔王様から命令が下った。
魔王領の西に位置する村、どうやらそこが人族に襲われたらしい。
僕達は騎士隊の皆と共にそこへ向かって欲しいとのことだ。
「大丈夫か?主」
魔王側につくということは、人族と争うということ。
「大丈夫だよ」
なんてアーヴェには言ったけど、本当は凄く複雑な気持ちになっていた。
いざ人族を前にして…僕は、戦えるのだろうか。
僅かに震える僕の前に、スッと裾が長めのローブと白い仮面が差し出された。
「…気休めにしかならないかもだけど」
そっと下がる視線、彼の気遣いを感じる。
きっと僕が人族に同族だとわからないように、もしかしたらこれから会う魔族の騎士達に人族だと意識されないように、僕が傷つかないように考えてくれたのかもしれない。
そう思うと、胸の辺りが温かくなった。
「…ありがとう、アーヴェ」
お礼の言葉を告げると、彼はくすぐったそうに柔らかく微笑んだ。
「主!こっちだ、こっちが騎士達の屯所だ!」
魔王領の街に出る時、念の為にと羽織ったローブを目深に被りながら、アーヴェに手を引かれながら目的地へと辿り着く。
「助かったよ、アーヴェ。…それにしても、大きいな」
そこは、僕が住んでた街の警備隊の屯所を倍にしても余裕で入ってしまうほど大きい…。
「罪人を閉じ込める牢なんかもここにあるし、寝泊まりする所なんかもあるからなあ」
騎士隊の人数もそれなりにいるらしくだからこそ、この大きさらしい。
「この時間ならあいつが…あっ、おーい!フィリオ!」
屯所から出てきた金髪に尖った獣耳の青年が、アーヴェの呼びかけに応えてこちらを見る。
「おまっ!心配させやがってぇぇぇ!!」
肩を抱き、グリグリと頭に拳を当てる。
痛い痛いと言ってるアーヴェは、なんだか嬉しそうだ。
「お前が人族にテイム?されたって聞いた時、めちゃくちゃ驚いたんだからな!」
「心配かけて悪かったよ。あ、こちらが俺の主人だ。よろしく頼む」
話を振られて驚きつつも頭を下げる。
「あっ、その!アーヴェと契約させてもらった従魔術師です、よろしくお願いします」
何を言われるだろう。
もしかしたら罵倒されるかもしれない…。
色々グルグル考えてたら、怖くなってきて彼の顔が見れなかった。
「あー…よろしく?…なぁ、あんた。本当に人族か?」
言葉の真意がわからず、思わず顔を上げる。
「主は間違いなく人族だぞ。まぁ普通の人族とは違うかもしれないが…」
普通の人族とは…うん、たしかに違うよね。
普通の人族だったら魔王の仲間にしてくれなんて言わないもんなあ…。
フィリオさんが怪訝な目でこっちを見ている。
「不思議だな…あんたには人族の嫌な気配を感じねぇ。こいつと…今はアーヴェって名前だったか…支配の契約っての?結んだからかな」
その目に、嫌悪の感情は無かった。
どうして?と思うより先に、安堵した。
「わっ、どうした!?主!」
腰の力が抜けて倒れそうな所を、アーヴェが支えてくれた。
「ははっ、ごめん。ちょっと気が抜けちゃった」
情けない主でごめん、なんて思いながら、手が震えている事に気づいた。
僕は僕が弱い事を知っている。
弱い者は淘汰される。
罵倒されるのが当たり前で、使い捨てられるのは当然のこと…今までずっとそんな世界で生きて来たから。
魔王領に来て、優しい人にばかり出会ってる。
今だって、アーヴェに守られてる。
勝手に支配の契約で縛ったのに、なんで…。
「…ごめん。アーヴェっ、ごめんね…」
謝罪の言葉が口から溢れる。
「主、謝らないでくれ。大丈夫、大丈夫だから」
アーヴェが優しく僕の背を叩く。
「…あー、なんかさ。申し訳ないんだけど…これ以上見せ物になりたくないなら、屯所に入ろうぜ。な?」
フィリオさんの言葉に我に返り…2人して慌てて立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます