第15話 かくしごと

(皇子パーティサイド)


ルーカス・グロリスフィア。

グロリスフィア皇国の第二皇子である彼は正義感が強く、気さくな性格から民に好まれている。

現在グロリスフィア皇国には皇子が3人おり、第一皇子が次代の王と決まっており、他2人の皇子には相応の自由が認められている。


社交に秀でた第三皇子は兄の補佐をする事を目標として励み、優れた武を持つ第二皇子はその腕を生かす為に冒険者となり活動を始めた。


その身分を隠す事なく活動する第二皇子、それは第三皇子の提案だった。

ルーカスが大々的な活躍をすればするほど王家の名声は高まり、支持率も上がっていく。

だが、高い名声は脅威にもなりかねない。

だからこそ、ルーカスの婚約者であるエレオラが、異界より降り立った聖女とその護衛に騎士のラクスが付けられたのである。


そうしてパーティとしての名声を上げ、勇者パーティと呼べるほどに強くなれば、いずれは魔王を討伐させ、聖女を魔王討伐の功績で第一皇子と娶せればいい…と、第三皇子は考えていた。




翼竜に襲われてから数日後、ルーカスは目を覚ました。


「……そうか。彼が…」


ぎゅっと握る手に力がこもると、白いシーツがくしゃりと歪む。


「ええ…だから、皇子が気に病むことなんてありませんのよ」


エレオラがその手を包み、優しく囁いた。


「敵前逃亡なんて恥ですもの。冒険者の風上にも置けませんわ」


正義感が強く、優しいルーカス。

彼が万が一にも罪悪感など感じないようにと、エレオラは優しく嘘を吐く。


「…助けてくれた者にも、感謝せねばな。是非とも礼がしたい」


その言葉に対して、エレオラは首を振った。


「もうその者には十分な謝礼を渡しております。この上、ルーカス様からの礼を受けてしまえば過剰となってしまいます。どうか、ご理解ください」


そう言われてしまえば、ルーカスには何も言えなかった。

これ以上言えばエレオラの迷惑になるかもしれない。

それはルーカスの望むところでは無いからだ。


「…わかった。ありがとう、エレオラ」



ルーカスにとってエレオラは、自分には過ぎた素晴らしい婚約者だと思っている。





異世界から来た聖女、ミナ。

私はあの日の事を思い出す。


翼竜を討伐した後、恐ろしいプレッシャーを受け動けなくなった。

ルーカス様が弾き飛ばされ、ギラギラと輝く金の瞳がこちらを見ていて、何かが近くに当ぶつかった後にエレオラ様の声が聞こえて無我夢中で身体を動かしていた。

ラクスさんとルーカス様を治癒しながら走って、気がついたら谷を抜けてた。


落ち着いて、従魔術師さんがいないことに気付いて、後から合流したエレオラ様に訊ねると真っ先に逃げ出したのだと言う。


…あれから?逃げた?

もしかしたら相手にするまでも無いって思われたのかな。

だからこうやって見逃してくれた…?


気を失ったままのルーカス様とラクスさん、エレオラ様を見る。

皆満身創痍だ。今日はもう休みたい。


従魔術師さん…無事だと良いけど。


ふと、ラクスさんが苦虫を噛み潰したような顔をしているのに気づいた。

なんだか嫌な予感がする。

ねぇ、エレオラ様。

従魔術師さんは本当に…?


声に出して聞く事は出来なかった。

聞いてしまえば、何かが壊れてしまうような気がして…。


私は従魔術師さんとミィちゃんの無事を祈るしかなかったんだ。




「……ちっ……胸糞悪い」


静かな呟きは、誰に拾われる事なく夜の闇に消えた。

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