第14話 翼竜
城から少し離れた所にある開けた場所。
そこに、彼はいた。
翼を折り畳み尻尾を丸め、前足を枕に顔を伏せ。
暗くてよく見えなかったその体表は、陽の光の元真紅に輝いていた。
「久しぶり…いや、初めまして。かな?」
翼竜が顔を上げる、金の瞳と目が合った。
今が昼間で良かった。
暗い中あの瞳を見れば、きっと思い出してしまうから。
「僕が君と契約を交わした従魔術師だ。これからよろしく」
言いたい事はたくさんあった。
でも、感情的になってはいけない。
僕の一言で、彼がどうなるかわからない…。
奴隷契約を結んだ奴隷は主人の言うことに逆らえない。
もし、僕が激情に駆られ彼を詰ったなら…
内容次第で彼は命を落とす。
『…発言を許してもらえるだろうか』
それは頭に直接響いた。
「あ、あぁ、もちろん」
大きな巨体が地に伏せる。
『すまなかった…!!』
それはとても簡潔な言葉。
『主達を襲い、主の大切な従魔を殺したのだと聞いた!…謝ってすむ問題ではないだろう。だが、謝らせてほしい…!』
先程会話した鱗の魔族、彼の父親と似た雰囲気を感じる。
どうして彼らは、人族の僕にも真摯に接してくれるんだろう。
「…役立たずが死んだくらいどうって事ないだろ」
目の前の翼竜が顔を上げる。
「…最後に役に立ててよかったじゃないか」
困惑する様子が伝わってくる。
「…僕が住んでた所だったら、きっとそんな風に言われる。君みたいに謝ったりしない。悼んだりしない」
涙が、込み上げてくる。
「なんなんだ君達は…!?魔族だって?容赦ないっ、血も涙もない奴らだって!そう教わってきたのに…!」
力無い者も関係ない。
人族と見れば容赦なく殺される。
会話など無駄だと、そう言われてきた。
「なのにっ、君達は…人族の僕の話を聞いて、手当してくれて、僕の大切なミィを殺した事を謝って…」
配下になりたいなんて都合の良い事を言う僕の事受け入れてくれて、
奴隷同然の契約を勝手に結ばれたのに怒らないし、大事な息子を連れて帰って来てくれたってお礼言うし、
「力も無い役立たずの僕に…なんで…」
そう。
何も変わってないんだ、僕は。
ミィを犠牲にして生き残って、運良く彼と契約してここに来て…
張り続けた虚勢が崩れていく。
『…魔族とは、魔物との混血が多い』
泣き声に邪魔される事なく、穏やかな音が頭に響いた。
『魔物と共生する従魔術師という職業は、魔族にとってとても親しみ深い』
俯いていた顔を上げると、優しい金の瞳と目が合った。
『主は従魔の魔物を、とても大切にしていた』
涙が溢れて止まらなかった。
『それになりゆきとはいえ、主は俺の恩人だ。恩を忘れて蔑ろにするような事は許されない。魔王様がそう決めたからな』
配下にしてほしいと言った時、打算があった。
『それにもう、役立たずなんて言わせない』
強い彼を従えているから、きっと受けてもらえるって。
『俺が主と共に戦う。…俺が命を奪ってしまった、先輩従魔の分まで』
真っ直ぐな瞳。
…凄いな。彼は凄い。僕なんかと全然違う。
魔王に謁見した時…本当は死んでも良かったんだ。
人族がふざけるなって。
契約を無理やり破棄させる為に拷問されて、その後殺されるかもって。
そんな酷いことを考えてた。
「……っ…ぅ…」
喉に引っかかったままの言葉は、そのまま嗚咽に呑まれて消えてしまった。
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