第12話 魔王への謁見
「…ふふっ、なるほど。それでお主は我に仕えたいと、そう申すのか」
魔王への謁見を願い出た僕が案内された玉座の間。
玉座に座し俯いて肩を震わせる少女に、見覚えがあった。
「はい。陛下のお力になれればと思います」
魔王の横についている2人の魔族。
静かに僕を観察する悪魔のような角を持つ魔族と、僕に激しい怒りを向ける鱗の付いた皮膚を持つ魔族。
後者は、何か言おうとするのを魔王に目線で止められている。
「しかしな、我らに与するということは、人族に弓するという事じゃぞ。それについてはどう思っておるのだ?」
愉快そうな感情を隠さずその目に映している魔王に、正直な気持ちを伝えた。
「関係ありません。僕の大切な存在は黒猫族のミィだけで…それももう亡くしました。新しく僕の従魔となった翼竜はとても強い…きっと、お役に立てるはずです」
真っ直ぐ魔王を見て伝えると、鱗の魔族の眼光が一層厳しくなった。
憎しみすら感じて、その威圧感に身体が震える。
「ガディス」
「……は。申し訳ございません」
魔王の一声で、ふっと空気が和らぐ。
膝をついたまま荒く呼吸を整えた。
「すまんな。お主が支配の契約を結んだ翼竜、こやつの息子でのぉ。前線で活躍しとったんじゃが、強力な魔法で頭を弄られての。仲間の気配を感じて彷徨っておったら…あの場に行き着いてしもうたんじゃ」
困ったように眉を下げる魔王と、忌々しげに顔を顰めるガディスと呼ばれた魔族。
頭を弄る強力な魔法…たぶんあの翼竜がいた戦場にいたのだろう。
人族の希望、賢者と呼ばれる人物が。
「…まぁ、こちらとしてはガディスの息子を使役するお主がいてくれた方が助かる。じゃから歓迎しよう。2人もそれでよいな?」
魔王の側につく2人の魔族が肯首する。
その反応を見て満足そうな笑みを浮かべた魔王が手を叩いた。
「よし!これで肩っ苦しいのは終わりじゃ!そうじゃお主、名はなんと言うのだ?」
名を尋ねられた時、僕は決まって従魔術師と答えていた。
「従…」
「従魔術師などとつまらん事は言ってくれるなよ?」
…先に言われてしまった。
「…似合わないって、笑わないでくださいね?」
俯いて、すっと息を吸い込んだ。
「僕の名前は“トールズ”。…偉大なる魔法神トールズの名前から付けたそうです」
ミィしか契約できないとわかった日から、名前が可哀想だの、烏滸がましいだの、生意気だのと言われ続け名乗らなくなった僕の名前。
声に出して言ったのはいつぶりだろう。
両親が亡くなってから、誰も僕を名前で呼ばなくなった。
大好きな人達から貰った大切なものだったのに、僕は自分を恥じて従魔術師という言葉で隠してしまった。
静寂に耐えきれず恐る恐る顔を上げると、彼女と目が合った。
魔王と呼ばれる少女は懐かしそうに目を細めながら、静かに微笑んでいた。
「…歓迎するぞ、トールズ。魔王軍へようこそ」
受け入れられた事に、安堵のため息を漏らした。
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