第11話 従魔術師は決意する
フィオーレは魔王直属の配下であり、最も信頼されている医師である。
その手腕は確かで、解剖医学や精神医学にも通じ、魔力を用いた回復魔術にも長けている。
ただし、魔力によって傷を治す魔術は魔族にしか効果がないという難点があり、逆に神聖術による回復術は人にしか効果がない。
その有能さからあらゆる場所に赴き治療を施していた彼女にとって、目の前の気が触れたように叫ぶ少年のような例は稀にだが遭遇した事がある。
大切な存在を亡くし、その事を理解していない…又は理解したくないと拒絶しているのだ。
泣き叫びはするが、暴れる事も、誰かを傷つける事もない。
それなら、私がする事は一つだとフィオーレは考えた。
「ごめんなさあい、ショック」
フィオーレの指先に集まった魔力が、雷のように姿を変えて叫ぶ青年へ飛んだ。
当たった瞬間に気を失った彼を見て、ふぅとため息をついた。
「まったくぅ魔王様ってば、酔狂なんだからぁ」
彼の従魔に関して噛み合わない話。
何かを思い出したように、いきなり叫び出した時は驚いてしまった。
「まぁ魔王様なら仕方ないですね」
困ったような笑みを浮かべ、フィオーレは必要なものを手に入れる為に部屋を出て行った。
深い森に隣接するアサイド村。
僕達はそこで暮らしていた。
午前中は畑を耕し、午後からは森に入り獣を狩る。
そうして日々の糧を得ながら、たまに来る行商人に解体した獣の皮や牙、干し肉を売って足りないものを購入する。
誕生日の時に母が作ってくれたはちみつを使ったパンに喜ぶような、そんな凄く平凡でありふれた幸せな生活だった。
父との狩りの最中。
ミィ…と泣く、足に怪我をした黒猫族を見つけて連れ帰った。
大人しくてとても人懐っこいその子は、両親からの承諾も得て怪我が治るまで家で面倒を見る事になった。
「お前、どっから来たんだ?名前が無いと不便だよな…そうだ、ミィって鳴くからミィ。お前の名前は今日からミィな」
軽い気持ちで名前をつけたら、ミィと左手の甲が光だした。
淡く優しい光に驚いた僕は両親を呼んで…
そこで、自分が従魔術師として覚醒した事を知った。
それがミィとの出会いだった。
その後10歳になり職業適性鑑定によって従魔術師の適性が認められた僕は、父に協力してもらい他の従魔と契約しようとした。
…けど、どんなに頑張っても契約は出来なかった。
村の子供達からは馬鹿にされ、大人達は可哀想なものを見る目で僕を…いや、僕ら家族を見て来た。
子供の職業適性鑑定はちょっとしたお祭り行事だ。
適性次第で親は子供に対する方針を決める。
従魔術師としての適性はそれなりにレアで、従える従魔によっては両親の手助けも出来るはずだった。
鳥系の魔物をテイム出来れば、狩人の適性を持つ父の役に立っただろう。
強い魔物をテイム出来れば、薬師の適性を持つ母の護衛が出来たかもしれない。
幼い僕はそういった鬱屈とした感情をミィにぶつけた事もある。
なのにきまってそんな時、ミィはずっと泣いてる僕の頬を舐め優しく寄り添ってくれたんだ。
父が魔物に傷を負わされ、その怪我が元で亡くなった時も。
無理が祟って母が倒れ、そのまま儚くなった時も。
ミィがいたから、僕はなんとか立ち上がれた。
ミィ…
僕の大事な家族。
なんで、君は死ななきゃいけなかった?
そうだ…僕に力が無かったからだ。
囮にされた僕を庇って、ミィは死んだ。
契約は解除したのに。
ミィは僕を守るために翼竜に挑んで…
どうしてこうなった?
あの貴族の女が僕の足を魔法で射抜いたから。
どうしてこうなった?
皇子達が逃げる時間を稼ぐ為に。
どうしてこうなった?
ギルドが、皇国が、僕らを使い捨てると決めたから。
…なんだ。凄く単純な理由だ。
弱いから、役立たずだから、僕達は切り捨てられたんだ。
じゃあさ、切り捨てられた僕達は、もう自由じゃないか。
目が覚めたら魔王を名乗ったあの少女ににお願いしてみよう。
僕を配下に加えてくださいってさ。
大丈夫。僕にはあの翼竜がいる。
皇子のパーティが怯えて逃げ出すような大物だ。
きっと役に立つ。
ふっと目を開けると、頬に冷たい雫が伝って落ちた。
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