第8話 運命の邂逅

「従え」


その声は、恐れ知らずだった翼竜の芯に響いた。


「従え」


抑揚も何もない、特別大きな声でもない。


「従え」


しかも、今にも死んでしまいそうな弱く脆い存在。


「従え」


なのに翼竜は今、その言葉が真に恐ろしく、唯一のものだと感じていた。


「従え」


そしてついには、その膝を折ってしまうのだ。





「…懐かしい匂いがしたな。支配の契約か」


その少女は、小女らしからぬ口調をしていた。


「あれはトールズの時代だったかのう。懐かしいわい」


左右の少し高めの位置で結んだ髪先を弄りながら、少女は契約者である少年を見下ろした。


「我は魔王。わかるかの?少年」


両足の骨が砕かれ動けないはずの少年は、ギラギラと瞳を輝かせ自身を見捨てたパーティが逃げた方向を見つめていた。


「…お主、聞いとらんの?ほれ、ほれほれ」


砕けた足をツンツンとつつけば、ようやくジロリと少女を見た。


「ほほほ、生意気な顔をしとるのぉ!まぁ良い、お主、名を何という?」


少年は何も答えない。

いや、答えることに意味を見出せないのかもしれない。


「なんじゃ、答えたくないのか。ならば、我が代わりに名付けてやろうではないか!…なににするかのう…」


少年の近くに落ちている黒猫族の死骸を見つける。


「ほほう…これは、精霊化しようとしておるな」


その言葉に、少年が反応を示す。


「…せいれい…か?」


反応されたことに気を良くしたのか、少女は機嫌良く答える。


「そうじゃ。徳を多く積んだ魔物は死後、精霊として生まれ変わるのじゃよ」


その言葉に少年は泣きそうに顔を歪めた。


「…なら、ミィは…ミィは戻ってくる?精霊になって、僕の所に来てくれる?」


縋るような視線を一瞥して、愉快そうな笑みを浮かべた少女は少年の問いに答えた。


「お前は何も知らぬのだな。精霊が訪れるのは勇者の所だけじゃ、それにそこの黒猫族が精霊になるまでどれくらいかかると思っておる」


少年は少女を睨みつけ、涙を流す。

それを少女は心底面白いと顔を歪めて笑った。


「我を前に臆さぬとは、面白いやつ。…その黒猫族をそこまで想う様は心地よい。どうじゃ?お前、我の配下にならんか?」


少年の呆気に取られた顔…焦り…混乱。

伝わってくる感情を味わう魔王。


「配下になれば、お前の望みが叶うように手助けしてやろうではないか」


その言葉は、なによりも甘く、残酷だった。

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