第5話 魔物の襲撃

渓谷に向かう途中の森で、僕らはシルバーウルフの群れに出くわした。


「シルバーウルフだ!戦闘準備!」


ルーカス殿下の一言で、3人が武器を構え素早く陣形を作る。



「おらあああっ!!」

ラクスさんの大剣が正面から襲いくるシルバーウルフの顔面を叩き潰す。

重い斬撃は頭蓋を砕き、中身を飛ばした。


「フレアレイ!」

エレオラ様の炎の散弾が複数のシルバーウルフの体を貫いた。


「シールド!リーンフォース!!」

聖女様の聖魔法が、味方の盾を作り破壊力を上げる。


「はああああっ!!」

ルーカス殿下の剣技でシルバーウルフが細切れにされる。


早い…!強い…!!


シルバーウルフ一匹を討伐するのに必要な冒険者ランクはD。

群れをなす場合はBへと跳ね上がる…なのに…。



「これで終わりっと」


シルバーウルフの首を切り落として、ラクスさんが終わりを告げた。


「まだあまり街から離れてませんのに…こんな所にシルバーウルフの群れがいるなんて…」

「生息地の変化…または、翼竜に近づいているって事かもね」

エレオラ様とルーカス殿下は顔を見合わせ頷きあった。


戦力にならないならせめて、とシルバーウルフを回収して1箇所にまとめていると、エレオラ様が声をかけてきた。


「…それにしても、本当に何も出来ませんのね、あなた」


その言葉に次の死骸に向けて伸ばした手が止まる。


「せめて誰の足も引っ張らないようにしてくださいな」


言うだけ言って満足したのかルーカス殿下の元へ歩いていく彼女に、僕は何も言い返せなかった。




本来従魔術師とは、パーティにおいてその汎用性の高さから重宝される職業の一つである。

冒険者になる者は大抵戦闘に役立つ魔物を使役しており、黒猫族のような非戦闘種を使役するものは冒険者よりも貴族や裕福な平民に多くいる。


黒猫族1匹しか使役できず、いくら努力を重ねても本人のステータスも上がらない僕は、お荷物と呼ぶ他ない…。


「従魔術師さん?どうかしましたか?」


落ち込んでいる僕に気づいて、聖女様が声をかけてくれた。

…いけない、ただでさえ足手まといなのに、気を使わせるなんてあってはだめだ。


「あ、いえ、翼竜に近づいてきたのかなって少し緊張して…」


当たり障りのない言葉で誤魔化した。

でも確かに近づいているんだろう、森がやけに静かだ…鳥の声一つしない。


「…そう…ですよね。だ、大丈夫ですよ!何かあっても、私が従魔術師さんを守ります!」


握り拳を作った両手を胸の位置で止めて、聖女様が勇ましく言った。


「もちろんミィちゃんも守るからねー」


ねー、とミィを見つめて言うと、聖女様に答えるようにミィ、と鳴いた。


「…そうだ、聖女様。少しお願いがあるのですが…」


お願いという言葉に、他の3人が聞き耳を立てる気配がした。


「私にできる事なら!」

「っ、おい」


ラクスさんが止めに入ろうとするのを遮って、お願い事を口にする。


「もし、万が一僕に何かあれば、ミィを…この子の事をお願い出来ませんか?」


黒猫族は非戦闘種であり、愛玩用として飼われる事もある魔物。

それに、ミィはどうやら聖女様に懐いている。

それならきっと、このお願いは間違いではない。


「…万が一なんて言わないでください。皆で帰りましょう」


聖女様の温かな手が僕に触れる。


「…もちろん、生きて帰ります。だけど安心する為にも、このお願いを聞いていただけませんか?」


聖女様はしばらく躊躇った後、小さく頷いてくれた。

ミィが何故か寂しそうな声で鳴いて、僕の頬に擦り寄った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る