第3話 依頼
「翼竜のテイム…もしくは討伐、ですか」
依頼内容はこうだった。
ここから王都方面、清涼の渓谷と呼ばれる場所に翼竜が住み着き、そこを通る民や商人達を襲っているというのだ。
何度も冒険者達が討伐に向かったらしいが、そのことごとくが敗走し、命を落としている。
翼竜は通常の個体とは違い魔力感知に優れ、知略にも優れており、力のある冒険者を見つけると姿を隠して現れない。
だから、僕を誘ったのだという。
…わかってる、これは…
「…つまり、僕に囮になれと言う事ですね」
皮肉気に言った言葉にギルドマスターは青筋を立て、皇子様は真剣にこちらを見つめた。
「危険が伴う事は否定出来ない。だが、私達は翼竜を倒せる実力もある。無辜の民を増やすわけにはいかない…協力してくれないか?」
こちらに選ぶ権利があるかのような言葉。
答えは最初から決まっている。
「…はい。僕でお役に立てるなら」
きっとここで断ったら、不敬罪だとか言って処分されるだろう。
皇子様が、じゃなく、僕を疎ましく思っているギルドマスターならやりかねない。
すぐに死ぬか後で死ぬかなら、少しでも生きられる可能性に賭けたかった。
「私のパーティメンバーを紹介しよう」
皇子様の一言で連れてこられたのは、この街1番の宿の一室。
そこには、先程のパレードで見かけた顔がズラリと揃っていた。
「まず、私の名前はルーカス・グロリスフィア。この国の第二皇子だ。主にこのリーンブルグを使っている。扱える属性は光だ」
そう言って取り出したのは、刀身に淡い光を纏うショートソード。
第二皇子が自身の愛剣に名前をつけて大事にしているという噂はどうやら真実のようだ。
「わたくしはエレオラ・ミッドウェー。ミッドウェー侯爵の娘であり、ルーカス殿下の婚約者ですの。得意属性は氷、扱える属性は炎、氷、風ですわ」
皇子様と似た艶やかな金髪を後ろにひとまとめにして結い上げた女性、見るからに高貴な雰囲気を纏った彼女は、こちらを観察するように見ている。
「…あ、私っ?えと…わ、私は高梨美奈です!呼びにくいと思うので、ミナ、と呼んでください!使える属性は聖です!怪我したら私が治しちゃいますので、よろしくお願いします!」
肩までの黒髪にこの国では見ない顔立ち、その視線はあちこち彷徨った後、ある一点で止まった。
僕の肩付近…ミィを見て、小声で可愛いと言いながら微笑んでいる。
「俺はラクスだ。今は平民だが元は賎民出身でな、姓は無い。魔法は使えねーが、剣の腕には自信がある。…ちなみにこの剣に名前はねぇ」
ずっとラクスの事を平民出だと思っていた。
平民よりも下の、スラムで生活しているような賎民出身だと思わなかった。
彼もまた令嬢と同じようにこちらを探るようにじっと観察している。
「…僕は従魔術師です。従えている従魔は、黒猫族のミィだけです。ミィは戦闘向きではなく、僕もある程度の自衛はできますが、翼竜との戦闘では足手まといになると思います」
それでも良ければ、よろしくお願いします。と頭を下げた。
実力について正しい情報は伝えておいた方がいい。
万が一、後から責められても言い訳の一つにはなるだろう…たぶん。
「その点は納得した上で君を誘ったから問題ない。それで、君の事はなんと呼べばいい?」
僕の呼び名…名前…
「…それならどうぞ…従魔術師と」
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