第2話 皇子との邂逅
その日、街は賑やかだった。
いつも通り、街外れのボロ家で目覚めた僕はここまで聞こえてくる喧騒に興味を惹かれ、ミィを連れて騒ぎの元へと歩を進めた。
「なんだろうね、ミィ」
ミィ、と声を上げる相棒を肩に乗せ、広間へと近づいていく。
「…っ…わあ…」
そこには華やかな馬車があり、誰かが歓声の中手を振っていた。
聞いた事があった。
魔王を討つもの、勇敢なるもの。
勇者と呼ばれる、人類の英雄たり得るものに1番近いと言われているこの国の第二皇子ルーカス。
異世界から来たと言われる黒髪の聖女ミナ。
第二皇子の婚約者であり、優れた魔術の使い手である侯爵家の息女エレオラ。
平民でありながら力を認められた、剣聖の称号を持つ男ラクス。
自分とはあまりにも遠い存在。
でも、憧れずにはいられなかった。
特に平民からのし上がっていったラクスには。
眩しすぎる彼らを横目に、ギルドへと足を向けた。
昨日、散々な目に遭わされたとしても、生きていく為にはお金がいる…。
扉を開けるとそこは閑散としていて、おそらくほとんどの人があのパレードを見に行っているのだろうと思われた。
「……」
嫌悪を滲ませる不躾な視線を感じたが、気にしない事にしてボードから依頼を物色する。
「…これかな」
薬草の採取依頼の紙をギルドのカウンターに持っていくと、軽くため息を吐きながら受領された。
職員もギルド所属の冒険者も、僕の事を煩わしい存在だと思っている。
この街に来て3年…冒険者のランクはA〜Fまである中のEランクのまま。
昇給する実力も可能性もない僕は、それでも諦めきれず未だしがみついていた。
「おい、そこの…っ…万年Eランク!」
受け付けを済ませてギルドを去ろうとすると、誰かに肩を掴まれた。
ミィがフーッ‼︎っと怒りを露わに威嚇している。
「おわっ!?…ちっ、従魔の躾くらいきちんとしやがれ」
ミィは従魔としての役目をきちんとはたしている、けどそんな事を言えばきっとこの人は怒るんだろうな。
「…それで、何の御用ですか?ギルドマスター」
プロスパード支部のギルドマスター。
現役を退いて尚研鑽を怠らない彼は、その視線も威圧感も鋭い。
「お前に依頼だ。内容はあっちの部屋で伝える。来い」
それだけ言うと、カウンターの後ろにある応接室へと歩いていった。
相変わらず、僕の返答は必要ないって事か…。
ギルドマスターはワンマンで有名…怒らせるとギルドの除名も免れないので、大人しく従うしかない。
応接室に入ると少し待てと言われ、僕はソファに腰を下ろした。
ギルドマスターは部屋を出ており、ここには僕とミィの2人きり。
ミィ…とどことなく不安げな声が漏れる。
ミィの頭を撫でながら、出来るだけ明るい声を出した。
「大丈夫だよ、ミィ。叱責ならこんな風に応接室に連れてきたりしない。ミィも知ってるだろ?ギルドマスターがどんな人か」
叱責ならあの場で何かを言っているはずだ、感情表現がわかりやすいギルドマスターなら、怒り狂って殴ってくる事も考えられる。
「だから大丈夫。…でも、僕に何の用なんだろう」
そんな風に思案しながらしばらく待っていると、扉が開かれギルドマスターが戻ってきた。
そして、その後ろに現れた人物を見て、僕は慌てて立ち上がり頭を下げる。
「ああ、楽にしてくれたまえ。あまり畏れられたら話が進まないからね」
穏やかに微笑みながら向かいのソファに座った彼は…
「初めまして。この国の第二皇子、ルーカスだ。君にはとある依頼に同行して欲しくて、こうして席を設けてもらったんだよ。従魔術師君」
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