とある従魔術師の叛逆
@listil
第1話 ある皇国の従魔術師
故人に手を合わせるのは、誰のためなんだろう
そんな事を考えながら、墓石の前で伸びをした。
「…さあ、帰ろうか」
僕の頬に擦り寄った黒猫が、ミィ、と鳴いた。
皇帝陛下の治めるグロリスフィア皇国の末端にある、小さな農村アサイド村。
特にこれといった特産もなく、日々の糧を田畑を耕したり森の恵みや狩猟にて得ているような、そんな村で僕は生まれ育った。
この国には10歳になると神官による職業適性鑑定が行われる。
皇国民全てに義務付けられたそれは、辺鄙な村であるアサイド村の住民も例外ではなかった。
僕に認められた職業適性は従魔術。
適性がわかってからそう経たないうちに、僕は森の中でこの子と出会い、契約をはたした。
肩に乗るのが好きな、黒猫族のミィ。
主に愛玩目的でテイムされることの多いその種は、戦闘面においてはあまり役に立たない。
今は亡き両親のように冒険者になりたかった僕には、不向きな種族だった。
けれど…僕には、ミィ以外の魔物をテイムする事は出来なかった。
適性のある従魔術師であれば、少なくとも5体以上の魔物をテイムする事ができるはずなのに、どう頑張っても、僕にはミィしかテイムする事が出来なかった。
アサイド村から1日くらい離れた街プロスパードには、冒険者が所属するギルドの支部があった。
夢を諦めきれなかった僕は、冒険者となりこの街に拠点をうつした。
「ほらよ、お前の取り分だ」
荷物持ちを探していたとあるパーティに入り、迷宮の10層まで行き帰ってきた僕に与えられた報酬は銀貨3枚。
「…少なくないですか?最初は銀貨6枚だって」
近くにあった椅子が蹴り上げられる。
「ろくに戦えない従魔術師のお守りをしながら10層まで連れてってやったんだぞ?3枚でも多いくらいだ!」
クスクスとあちこちから嘲笑が聞こえる。
ギルドの職員も、見て見ぬふりで我関せずだ。
「仕方ねぇよな。ペットしかいない従魔術師なんだから」
「ペットなんかじゃない!ミィは、僕のっ」
目が覚めると綺麗な星空が視界に広がり、全身が痛かった。
ミィがしきりに僕の頬を舐めている。
ぼんやりとした頭で、なんとか状況を理解した。
そっか…あの後、囲んでたやつらに殴られて、蹴られて…気を失ったのか。
そばにいるミィを抱きしめた。
「っ…!くそっ…なさけ…ないなあ…っ」
身体の傷はそのうち癒える、でも、心に付けられた傷はジクジクと蝕んでいく。
ミィしかいないから、体を鍛えたり技を磨いたりして、同年代の従魔術師よりも体力や剣術には自信があった。
それでも、いくら鍛えても剣士適性を持つ者には敵わない。
努力が報われる度合いが違いすぎる。
生まれ持ったステータスは敵わない、努力をしてしがみついてもお荷物従魔術師と馬鹿にされる。
「…ごめんな、ミィ」
情けなくて泣く僕を慰めるように、ミィ、と鳴きながらすりすりと頬を寄せる。
ミィは僕が契約しなかったら、今頃はどこかの従魔術師に拾われて幸せになってたんじゃないかな…なんて、そんな事を考えていた。
従魔との契約は命と命を繋ぐ契約だと言われている。
昔、別の従魔術師の従魔を欲しがり、無理矢理その繋がりを断とうとした者がいた。
契約の印である契約紋の刻まれた手を切り落とし、契約の破棄を試みたそうだ。
すると、従魔は苦しそうな声をあげて絶命したという。
左手の甲に刻まれた契約紋を見る。
それはミィとの絆であり、ミィの命…。
従魔の命を背負っているからこそ、従魔術師は前に出る事はしない。
そもそも、従魔術師自体のステータスはあまり高くはない。
だから本来なら僕も、従魔に任せて後ろに控えるという戦い方をした方が良いのだけど…。
「…僕が他の従魔と契約出来たら良かったのに…ごめんよ、ミィ」
ミィ、ミィ、と鳴きながら顔を舐められる。
僕はその小さな身体を抱きしめながら、謝る事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます