12 (仮)
「るか!」
まるでさらを数年程成長させたような人物だった。
今まで会って話していたさらはこの学校の制服を着ていたし、それに髪の毛は背中の辺りまであった。
それなのに今ここにいるさら……のような人物は私服で、さらに髪の毛も肩の辺りで切り揃えられている。しかしこの人の声と『るか』という呼び名は紛うことなくさらのもの。他の人からは苗字でしか呼ばれていなかったからすぐ分かった。
そんなさら(仮)は僕の背中に抱きついていた。僕のお腹に回っていたのはさら(仮)の腕で、ぎゅーっと僕にしがみついていた。
「……誰?」
この人は僕にしがみついているのだ。幽霊のさらには出来ないことをしている。だから多分さらの空似なのだろ……
「ちょっと! 私のことを忘れちゃったの!?」
心外だ、と言わんばかりな表情をするさら(仮)。
「さらだよ! 雨宮 さら!」
「……ごめん、ちょっと意味分からない。」
だってさらは幽霊なんだよね? 実体は無いんだよね? それなのにここにいる人はさらだと言う。うーん? 僕の理解力がないのか?
僕はこめかみの辺りを摩ってみる。もちろんそれで理解出来るようになるわけでもなく。
しかしさらは僕のそんな混乱を分かっていたかのようだった。
「ええと、話すと長くなるかもだけど……聞く?」
「もちろん。」
さらの話なら幾らでも聞きたい。それが(仮)だとしても。
「じゃあまず座ろ? 私、なんか疲れやすくて。」
「うん。分かった。」
少し申し訳なさそうに疲れやすい、そうさらは言った。申し訳ないなんて考えなくてもいいのにな。
僕達は適当に椅子に座り、ふっと一息つく。さらはどこから話そう、と目を左に右に彷徨かせる。そしてその後よし、と僕の目を見て話し始めた。
「あ、あのね……私、死んだわけではなかったみたいなの。」
「……というと?」
「この教室の窓から落ちた、までは合ってる。でも、その後死んだんじゃなく、意識が戻らなかっただけらしいの。」
「……ほう。」
「で、幽体離脱か何かして、多分ここに来てたんだと思う。ちゃんとここでるかと会ったこと、話したこと、私覚えてるもん。」
「そっか。確かにさらと会ったのは僕の中ではちゃんと現実だった。」
「うん。で、……目覚めぬまま四年ほど経っていた、らしい。」
ふいっと不安そうに視線を下に向けたさら。目覚めたら四年も経っていた、それを受け入れるまでには時間がかかるだろうし、不安にもなるだろう。もし僕がそうなっていたとしても同じようになると思う。
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