11 来ない

 さらが来なくなって三週間が経った。六月も今日で終わり。梅雨は未だに続き、今日も今日とて雨模様。


 僕は放課後、やっぱり教室にいた。今日はさらと出会った日と同じ午前授業。だから時間はたっぷりある。この膨大な時間の中で、さらはまた来てくれるんじゃないかと淡く期待する。


 期待が外れてもガッカリしないように、淡くだけ。





 最近の僕は鬱々とした日々を送っている。機械的に学校に行って授業を受け、ご飯を食べ、また授業を受ける。そして放課後はここに来てぼーっと時間を潰す。そんな日々の繰り返し。とてもつまらない。


 さらがいないだけで、心にポッカリと穴が開いたようだ。一人(幽霊だけど)の人間の力はここまで大きいのか、とぼんやり考えてみたり。


 さらと話していた時はあんなに楽しかったのに、さらを失ったと分かってからはまた雨が嫌いに、それも今まで以上に大嫌いになっていた。




 閉まっている窓に手を置いて外を眺める。分厚い雲は太陽を隠し、雨を降らせている。すっと下を向くとアスファルトに水たまりが出来て、そこにまた新たな雨粒が降り落ちているのが見えた。


 さらが好きだった雨、僕はやっぱり好きにはなれないな。嫌な思い出が多すぎる。雨がさらを連れ去ったことで余計に嫌になった。


 しかしその反面、みずはこの鬱々とした気持ちを洗い流してくれそうだ。ふと僕はそう思った。


 カチャンと窓の鍵を外し、窓を開ける。その瞬間、びゅうと風と共に雨が室内に入ってくる。ずっと雨続きなので気温も上がらず、風雨は僕の体を冷やしていく。しかし意外とこの寒さはいいかもしれない。頭がスッキリするような気がした。


 僕はスッと窓から上半身を外に出してこの窓の真下を見る。ああ、この真下は植え込みだったのか。植え込みに植えられている低木はどれも皆生き生きしているようにも見えた。まあ、草木達から見れば恵みの雨だからな。


 僕も植物だったら雨が好きになれるのだろうか。……まあ、タラレバ言っても仕方がない。なんの解決にもなりやしない。



 掌に雨が当たるように右手を伸ばしてみる。雨は冷たい。ずっとこのままにしていたら、いずれ氷のように手が冷たくなるのだろうな、と他人事のように考える。まあ、どうでもいい。


「さら……」


 ぽつり、無意識のうちにその名前が出た。別に深い意味はないのだが。










 その時、ドン、と僕の体に何かがぶつかった。と同時に僕のお腹に何かが巻きつく。


「るか死なないで!」


 その声を聞いて僕はそのままの体勢で固まる。この声は……


 まさか、そんなはずは……


 僕はゆっくりと教室の中に全身を戻し、ゆっくりと頭だけを後ろに向ける。


 そこにいたのは……

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