13 皐月 遥(最終話)
「四年、か……」
ぽつり、小さく言葉が零れたが、雨の音が僕の声を消してくれたらしい。
「るか?」
僕の独り言は聞こえていなかったようで。さらは心配そうにこちらを見る。あれ、どうしたのだろう。キョトンと首を傾げてみるが、さらはまだ心配そうに僕を見つめる。
「ん?」
「いや、なんかぼんやりしてるからどうしたのかなって思って。」
「ああ……なるほど。うん、確かにぼんやりしてたかも。でも心配しないで。」
ただ、さらが眠っていた四年という時間の大きさに飲み込まれそうになっていただけだから。
「そう?」
「うん。」
にっこり笑って大丈夫だともう一度言うと、さらもホッと安心したようだった。
ホッとしたついでに時計を見たさら。僕もさらに倣って時計を見ると時間は十五時二十三分を指していた。まだ雨は降っているのでこの時間でも薄暗い。しかしさらがいると思うと気分は明るくなる。実に不思議だ。
「……あ、そろそろ戻らないと。」
「戻る?」
「うん。今日は無理無理お医者さんからもぎ取った外出だったから、そろそろ戻らないといけないんだ。目覚めて数週間は経ったけど、もう少しリハビリが必要みたいで。」
「そっか。あれ、じゃあ目覚めたのって……梅雨入りした辺り?」
「そうだよ。」
なるほど。じゃあ僕がさらへの気持ちを自覚したから来なくなったわけではないのか。それを知ることが出来てホッと安心した。
「さら、また会えるよね?」
「もちろん! 私もるかともっとお喋りしたいもん!」
「それは良かった。」
今はこのゆったりとした暖かい時間を噛み締めるのもいいのかもしれない。好きだと伝えるのはまだかな。……心の準備も必要だし。でも、いつかは──
「じゃあ、帰ろっか。」
「そうだね。」
そう言って二人揃って教室を出る。今までは一人で歩いた廊下も、今日はさらと一緒。
「なんか一緒に廊下を歩くの新鮮だね。」
「だね。」
さらも同じことを考えていたらしい。顔を見合わせると、どちらともなく笑みがこぼれる。ああ、幸せだな。
生徒玄関まで来た僕達二人は、外の様子に息を飲む。
「るか! 晴れた!」
「っ……」
先程まで雨が降っていたのに、今はつかの間の晴れらしかった。
晴れた空には大きく綺麗な虹が掛かっている。
「ねえ、るか。
くるり、さらはその場で嬉しそうに回ってそう言った。
「五月晴れ……ってなんだっけ。聞いたことはあるけど。」
「六月の梅雨の時期に見られる晴れ間のことだよ。……あ、ねえ、るかの名前も五月晴れから取ったんじゃない?」
「僕?」
「
「うーん、確かに……?」
音は確かに似ているかもしれない。今までそんな風に考えたことも無かったな……
「だからこの晴れ間は、るかそのもの!」
「そ、そうかな……」
「うん! きっとそうだよ!」
この時のさらの笑顔は、今までで一番晴れやかだった。そう、この五月晴れのような。
end
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