5 条件
結果から言おう。この学校のどの学年クラスにも『雨宮 さら』という人物はいなかった。はてさて、一体どういうことなんだ……?
やはり昨日出会ったさらという人物は、雨を嫌うあまりに僕の頭が創り出した幻だったのだろうか。それとも雨宮 さらという名前は偽名だったとか?
「さら……」
いつもは雨が何か大切なものを奪っていくが、今回は雨が上がってから別れたのだから雨は関係ない。だから失ったわけではなさそう。ならばなんだというんだ……?
「そうだ。昨日と同じように、放課後になったら教室に戻ればもしかして……?」
昨日と同じ状況を作ればあるいは……?
そう考えた僕は放課後まで待った。ずっとさらのことを考えていて、午後の授業はほとんど聞いていなかった。
昨日と同じように一度生徒玄関まで歩き、ふっと深呼吸する。もしこの当てが外れたらどうしようか。そんな後ろ向きな考えしか出てこない自分に自嘲の笑みが浮かぶ。
無理だったらその時考えればいい。それくらいの心持ちで挑んだ方がいい気がする。よし、そう思おう。
「さら……」
また会えたら何を聞こうか。何を話そうか。そんな風に少し前向きなことを考えてみる。そうすると口角が少しだけ上がったのが分かった。
よし、と気合を入れて三年二組に向かう。
ガラ、と扉を開けると、教室の中はがらんどう。誰一人としていなかった。
「さら……」
いない、のか。呼びかけに応える声はなく、ただただ僕の声だけが教室の中に響いた。
やっぱりさらは僕の頭が創り出した幻だったのだろうか。それか、何か条件が足りないのか。
「条件……あ。」
条件条件、と頭を捻らせて考えると、一つ思い当たることがあった。
そうだ、雨だ。昨日は雨が降っていた。しかし今日は晴れている。窓の外を見ると陽の光が斜めに差し込んでいるのが分かった。
「そうか、そうか。雨が降った日の放課後になればもしかしたら……!」
この仮説が外れたら、だなんてことは何故か考えなかった。謎の確信がこの時の僕にはあった。
「毎日天気予報見てないと、だな。」
そうと決まれば雨になるまで待つしかない。
そこまで考えて、ふとあんなに嫌っていた雨の日を僕は待ち遠しく思っていることに気がついた。
あれから数日が経った。今日は朝から晩までずっと雨の予報。確かに今も雨は降っている。
今日はきっと会える。そう信じて同じ手順を踏む。ガラ、と教室の扉を開けるとそこには……
「さら!」
前回のように窓の外を眺めるさらの姿があった。
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